誠一が教室にたどり着くと、
「遅かったか……」
 教室の廊下側窓ガラスの内側に白濁液が垂れ流れているのが見え、中から複数の女性の笑い声が聞こえる。
 がらりと扉を開ける。

「おぼっ!? おぼほほほほほほほほほっ!!? 嫌ぁあぁはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

「くやひゃははははははっ!!! あひぃいぃ!!! にゅるにゅる気持ち悪いぃっひっひっひっひっひ~~!!!」

 真っ先に目に入ったのは、陽キャラの天童良子(てんどう よしこ)と米良和子(めら かずこ)。
 二人ともホワイトチョコにからめとられ、宙づりにされてくすぐられていた。上履き、靴下、ベスト、髪留めのリボンなどが床に散乱している。天井から伸びたホワイトチョコが彼女らの両腕をからめとって万歳に。引っ張り伸ばされた脇腹にうねうねと解けたチョコレートがうごめいている。
 髪の毛を振り乱してゲラゲラ笑う良子と和子。二人は誠一に気付くと、声を荒らげた。

「いひぃぃひひひひ、伊藤!? あひゃひゃっ、あたひらに何の恨みがあるのよぉぉ~~あひあぁぁははっはは!!」

「ひぃいいっひっひっひ、おなかくるしぃいいっひっひっひっひっひっひ~~!!! 助けてよぉぉ~~っはっはっは!!!」

 教室の後ろに目をやると、

「きゃはははははははっ!!? ごめんなさいごめんなさいっ……ごめんにゃぁぁっはっはっはっはっは!!!」

 ひたすら謝り続けながら大笑いするツインテールの女子。
 喜連川風由(きつれがわ ふうゆ)である。 
 彼女は壁に張り付いたホワイトチョコに手足をからめとられ、大の字にされていた。大きく開いた腋の下、腰回り、股下、足の裏など、まんべんなくくすぐられている。
 笑い狂う彼女の正面に男子がいる。
「あと55回残ってるぞ! さっさと言え! 言わないと助けないぞ!」

「きぁぁははっはっは、ごめんなっ……息がっ!!! たかしぃいっ、もう無理だって!!! 助けてぇぇえへっへへっへっへっへっへ~~!!!」

 風由は涙を流して笑いもだた。
 たかしというのは、同じクラスの沼田隆(ぬまた たかし)。風由の彼氏で、付き合って3か月だと記憶している。
 おそらく隆は、風由が義理チョコとはいえ誠一にバレンタインチョコをあげたことがわかって嫉妬しているのだろう。「助けてほしかったら100回ごめんなさいを言え」などとくだらない命令でもされているのだろうと想像できる。

 誠一は窓際の席へ目をやる。
 クラスで最も無口ではかなげな少女、長久手黄海(ながくて おうみ)の席だ。
 いつもひとりで参考書を読んでいて、話しかけづらい雰囲気。他の生徒と一緒にいるところをほとんど見たことがない。
 そんな彼女が2月14日に誠一にクッキーを渡してきたことには驚いた。
 無口な女の子が、少し恥ずかしそうに頬を赤らめてプレゼントを渡してくる仕草は衝撃的で、記憶に残っている。

「……っ」誠一は、ついつい興奮してしまった。
 初めて目の当たりにする、黄海が下品な笑い声をあげる姿があまりにも新鮮で、妙な色気を感じてしまったのだ。

「ほぎえぇえひえひぇひぇひぇっ!!? おにょおほほほほほほほほっ!!! ひめぇぇぇ、ひゃめぇぇひぇぇ~~っへっへっへっへっへっへっへ!!!」

 黄海は目を見開き歯茎をむき出しにて馬鹿笑いしていた。
 彼女は椅子に腰かけたまま両足を机にのせた行儀の悪い態勢。
 手首と腰回りが椅子のパイプに、足が机の角にひっかかるようにして、ホワイトチョコで固められている。
 床から伸びたホワイトチョコが、大きく突き出された黄海の素足を激しくくすぐっている。

「ふぎゃぁぁあひぇひぇひぇひっ~~!!!! ひぬっ。ひんじゃうにょぉぉ~~ひょほほほほほほほほほほほほ~~!!!」

 黄海は激しく髪の毛を振り乱して笑う。
 足の指の股にホワイトチョコがどろどろと流れ込み、反った指の付け根や、土踏まずでぐねぐねと動き回っている。

 教室中に甘い香りと激しい笑い声が充満していた。
「……うっ」誠一は、自分の股間が反応していることに気付き、慌てて走り出す。
 トイレに駆け込み、
「ふぅ……」
 誠一は致し終えて一息ついた。
 ホワイトチョコレートにくすぐられている女子が、こんなにエロかったなんて……。
 昨日まで想像もつかなかったフェティシズムに、誠一は目覚めた。
 トイレットペーパーが粘膜に貼りついて痛い。水が流れなかった。……

「ごめん。断水だった。みんな、しばらくそのままで」
 教室に戻って誠一がテヘペロすると、笑い声と一緒に罵声が飛んだ。
 天真爛漫な風由や無口でおとなしい黄海の、ゲラゲラ馬鹿笑いしながらの悪態に、ちょっと萌えた。


(完)