怒りっぽい人、臆病な人で、それぞれ足裏のくすぐったい部位が違うらしい…

 私はさっそく試してみようと、アドレス帳を開く。

 怒りっぽい人……怒りっぽい人…
 真っ先に思い浮かんだのは、同じクラスの平井瑞希(ひらい みずき)。髪の毛は肩までのミディアムストレートで、まつげが長いなかなかの美形。ただ、性格に難あり。いつもイライラと眉間にしわを寄せ、貧乏ゆすりをしていて近寄り難し。話しかけると常に喧嘩腰で対応されるため、できることなら近づきたくない人物だ。笑ったところなど見たことがない。
 ……ちょうど良さそうだ。

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「木村!? あんたどういうつもりでこんなことして、ただで済むと思うなよ!」

 平井瑞希が金切り声で叫ぶ。
 彼女は、向かい合わせに並べた椅子の片方に座り、両足をまっすぐのばしてもう片方の椅子の椅子にのせている。椅子のパイプに手足を縄跳びでしばりつけているので身動きがとれない。

 私は、休日の学校に彼女を呼び出していた。
 忘れ物があるから取りに来てほしいと連絡すると、意外にもすんなり受け入れた。
 のこのこやってきた彼女を、力業で捕らえて拘束したのであった。

 平井瑞希は胸に大きなリボンのついたフリフリのワンピースを着ていた。少女っぽい。普段学校で見せるイメージと違いすぎて、興味深かった。

 私は、彼女の足元にかがんで、

「……こら! 話聞け! なにすんの!?」

 突き出された彼女の右足から上履きを脱がし、フリルのついた可愛いソックスも脱がした。

 怒りっぽい人は、……
 右足の小指と薬指の間からまっすぐ下におろしたところの……

「んひっ!? ちょ……こらぁ、やひひ、やめてよっ!」

 つつーっと人差し指で部位を確認していると、平井瑞希はぷるぷる体を震わせた。
 足裏の皮膚を軽くなぞっているだけなのに、もうくすぐったいらしい。
 普段しかめっ面なので、笑いをこらえる表情が愛らしい。

「や……ちょっと! んふっ、触るな! 触るなって! んひひ、きもいきもいきもいぃ」

 彼女は、必死に首を左右に振って叫ぶ。

 私はくっと指を立て、本格的にソコをくすぐりはじめた。

「ぃぃいいい゛ぃ!?? ――んばっ……あはははははははははは!? んぢょっ……やめ、やめにゃぁぁああああっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、ひぃぃひひひひひひひひひひひひひ~~!!」

 思いのほか激しい笑い声に驚いた。

 私はコリコリとほじくるように指を動かす。
 土踏まずのくぼみのちょうど左上のあたり。骨のすぐ下の柔らかい部分だ。
 怒りっぽい人は確かにココの部位が弱いようだ。

「ひっひっひっひっひ!!? やめてぇあはははははははは!!! なんでこんな……あははははははははははは!!! 笑い死んじゃう! 笑い死んじゃうからぁあっはっはっはっはっは~~!!」

 平井瑞希は激しく体をゆすって笑っている。
 眉をへの字に曲げ、だらしなく大口を開けて……。
 普段の厳しい彼女の様子からは想像できないほど崩れた表情だ。

「やめてやめてやめてぇぇ~~っへっへっへっへっへっへ!!! ほんとにつらいぃひひひひひひ~~!! なんでもするからぁぁっははっはっはっはっはっはっは~~!!!」

 なんでもする、という言質をもらったので、彼女に協力してもらって、臆病な子を学校に呼び出してもらうことにした。
 臆病な子ですぐさま思いついたのは、同じクラスの松村葛葉(まつむら くずは)というショートカットのおどおどした子だった。が、私とはあまりにも接点がなさ過ぎて呼び出しづらかったのだ。
 平井瑞希の呼び出しなら、怖がって応じてくれるだろうと思った。

~~~

「ひぃ……き、木村さん? なんでこんなことするのぉ……なんだか、この椅子べたべたするし……」

 数分後。
 松村葛葉は、平井瑞希と同じ姿勢に拘束され、私の目の前にいる。
 ついさっきまで平井瑞希をくすぐっていた椅子をそのまま使ったので、彼女の汗や鼻水、よだれなどが付いて、べたつくようだ。

 彼女の私服は、柄物Tシャツにミニスカート。
 私は彼女の両足から上履きとスニーカーソックスを脱がしとった。

「やっ……な、やめてよぉ」

 私はおびえて震える彼女の両足に手を添え、

「ひゃひっ!?」

 ちょうど足裏のど真ん中のぷっくらした皮膚を、両手の中指でカリカリと掻きむしった。

「ぶひゃ!?? はひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!? なに!? なにぃいいひひひひひひひひひひひひひひひひ!!! ふひゃひゃひゃはははははははははは~~!!!」

 途端に松村葛葉は首をねじって笑い狂う。
 両足の指がもぞもぞと動いてくすぐったそうだ。

「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!! あひっ、足くすぐりだめぇぇえっへっへっへっへっへっへっへっへ~~!!!」

 土踏まずの内側寄りやや上。おそらく足の裏でもっとも皮膚が柔らかいところだろう。
 ここが臆病な人の最もくすぐったい部位らしいが……

「きひゃはははははははは!!? やめへ……なんか、なんか言ってよぉぉっはっはっはっははっはっは!!! ごめんなしゃいごめんなしゃいぃひひひひひひひひ!!! 私なんかしたなら謝るからぁっはっはっははっはっはっはっは~~!!!」

 激しく髪の毛を振り乱して笑う彼女を見ていると、間違いなさそうだ。

 後々になって考えてみると、足裏ってどこくすぐられても大体くすぐったいんじゃないかと思い至った。しかし、クラスメイトの足裏をくすぐるのは案外楽しかった。また実験にかこつけて誰かくすぐってみたいと思う。




(完)