シノンが送ってきた住所は商店街の隅にある小さなビルだった。
「え……? ここで、あってる?」
 なんども確かめてみるが、指定された住所に間違いない。
 入り口をうろうろしちると、スマホにメッセージが届く。『2階まで来て』
 怪訝に思いながらも、外付けの階段を上がる。扉が半開きになっていた。恐る恐る中をのぞくと、薄暗い廊下が奥まで続いている。
「シノン……?」
 かすれる声で呼んでみる。返事はない。人の気配すら感じられない。
 本当にここであっているのか?
 私は不安になり、踵を返した。
 そのとき、突然扉の内側から手が伸びてきて、手首をつかまれた。
「……ぃっ!?」
 中に引っ張り込まれたかと思うと、突如甘い香りが鼻をつき意識が遠のいた。

 目を覚ますと、奇妙な光景が広がっていた。
「え? ……なに、これ?」
 
「ぎゃはははっははっはっは!!!? いひぃい~~っひっひっひっひっひっひだずげでぇぇぇ~~!!!」

 部屋の真ん中にあるX字の拘束台の上で無防備におっぴろげた体を5、6人の全身タイツの人間にくすぐられている女の子。声がかすれて最初わからなかったが、その顔立ちから小学校時代の友人シノンであることがわかった。
 シノンは私立の可愛いセーラー服姿だったが、胸のリボンはほどけ、スカートもずり落ちている。X字拘束台の下に彼女のものらしい運動靴とソックスが無造作に散らかっている。
 私は部屋の隅で手首と足首を縛られて身動きが取れなかった。
 シノンは三つ編みの髪の毛を振り乱して笑っている。大口をはしたなく開け、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして……。目が合った。

「あひゃっひゃっひゃ……ミユキ起きたっ! ミユキ起きたから!! きゃはははははははは!!! どめでっ、早くとめてぇぇっへっへっへっへっへっへっへ~~!!!」

 シノンは激しく身をよじって笑いながら、顎でこちらを指し示す。
 全身タイツの人間たちは、こちらに気づくと、くすぐる手を止め、シノンの拘束具を外した。
 自由になったシノンは、足をもつれさせながら自分の鞄やソックスを拾い上げ、靴をつっかけた。
「え? シノン、どういうこと?」
「ミユキ……ごめん……」
 シノンはそれだけ言って、逃げるように部屋を出て行った。
 すると、全身タイツの一人が近づいてきて、
「ようこそミユキちゃん。くすぐりサロンへ」
「くすぐり……サロン……?」


(つづく)