「やだ……! やめてください!」
 抵抗は無駄だった。
 私は、全身タイツの人間5人がかりで、X字の拘束台にしばりつけられた。四肢を引っ張り伸ばされ、腋や股をまったく閉じることができない。
 シノンの笑い叫ぶ姿を思い出す。
 自分がこれからされることを想像するとぞっとした。
「はじめよう」
 全身タイツのひとりがそういうと、足元にいた2人のタイツ人間にローファーを脱がされた。
「あ……っ、ちょっ――だははははははは!!?」
 紺ソックス越しに足の裏を激しくくすぐられ、思わず吹き出す。
 次いで、左右にいた2人のタイツ人間がわき腹をくすぐり始める。
「うひゃっはっはっはっは!!!? ちょっ……どこ触って――あはははははははっ」
 シャツの裾から手をつっこまれ、素肌のお腹やおへそまでくすぐられた。
 すべすべのタイツに包まれた指先が素肌を撫でまわす感覚は、尋常ではないほどくすぐったい。
「いひっひっひっひっ!!? やらっ、やめてっ!! やめてぇぇ~~あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」
 身をよじりたくても、四肢を拘束されているためかなわない。
 両手の指や足指を激しく動かしても、なんらくすぐったさは紛らわせなかった。
 突然足元が涼しくなる。
 ソックスを脱がされたのだ。
 足元の2人は、素足になった私の足の裏をズリズリこすりつけるようにくすぐってきた。
「いひゃっはっはっはっはっは!!!? やらぁぁっはっはっはっは~~ぐひひひひひひひひひ!!」
 土踏まずや指の股まで入念にくすぐられた。
「ミユキちゃん、君が助かる方法を教えよう」たっぷり数分間くすぐられたところで、頭上で声がする。
 酸欠で息苦しい。笑いすぎてのどが痛く、よだれで口元がべとべとだ。
 私は激しく笑いながら耳を傾けた。
「君の友達をひとり、このサロンに紹介してほしい。ひとり紹介してくれれば、その子と入れ替わりに、君は解放しよう」
 そういうことか……。
 シノンが謝ってきた理由がようやくわかる。シノンは私を身代わりにしたのだ!
「やっはっはっはっは!!! やだっはっはっは!!! そんなのっ、絶対やるかぁぁっははっはっはっはっはっはっはっは~~!!!」
 私は首を激しく左右に振って拒否した。
 いくらくすぐったくても、友達を売るなんてできない。
「耐えたければ耐えればよい。この条件は君のために提示しただけだ」
 すると、頭上に待機していた2人が私の首と腋をくすぐりはじめた。
「ふにゃはぁぁあひゃっはっはっはっはっは!!? ひゃめっ、くひぃぃ~~ひひひひっひっひっひっひっひっひ!!!」
 タイツの生地が首筋に触れる感覚がたまらなくくすぐったい。
「だめっ、っへっへっへっへ、首やめっ、あひゃぁぁああ~~!!!」
 そんなことを口走ってしまったばかりに、首をくすぐっていたタイツ人間は、私の第一ボタンをはずし、ネクタイを緩め、首から鎖骨にかけて直にこそぐりはじめた。
「うひひひひひひひひ!!? ぐぎぎひひひひっひひひひひ、ひぎっ……ひぎっ……あひやぁああぁあぁぁああああああ~~!!!」
 私は全身を激しくくすぐられ続けた。
 実際には1時間にも満たないかもしれないが、地獄に長く感じられた。
 あまりのくすぐったさにもはや狂う寸前。
 私は限界だった。
「わがっだっはっはっはっはっはっは!!! 紹介するっ!! 紹介するからぁはっはっはっはっははっは!!! もうやめでっ、くすぐらないでぇぇ~~っへっへっへっへへっへっへ~~!!!」
 私は涙を流して懇願する。しかし、すぐにくすぐりが止まることはなかった。
「なんでっ!? ひぃっひっひっひっひっひ!!! 紹介するっ、しょうかいするってぇぇっへへっへっへへっへへ~~!?」
 最初に「紹介する」と宣言してから、4~5分経って、ようやくくすぐりが止まった。
 タイツ人間のひとりが、私のバッグを勝手にあさり、スマホを取り出した。
 拘束されたままの私の手元へ持ってきて、操作するよう促す。
 私はシノンから通話がかかってきたことを思い出した。
 躊躇していると……
「ひゃひぃ!!?」
 いきなり足の裏を人差し指でなぞられた。そのまま上下に指を動かされる。
「ひひひひひ……わかった!!! かけますっ、ひひひひひひかけるからひゃめてぇぇひっひひっひっひっひ!!!」
 私は震える指で、親友のエリに向けて通話開始ボタンをタップした。



(つづく)