「がお」
「……んーみすずぅ?」
 早朝、布団の中。
 晴子は聞き覚えのある声にうっすらと目を開けた。
 声の主とおぼしき観鈴の姿はない。
「……気のせいか?」
 晴子が呟いた。
 直後、突然、

「うひゃひゃひゃひゃっ!!!?」

 晴子は馬鹿笑いをして、布団をまくり上げた。

 晴子の腹の上に、観鈴が乗っている。
「観鈴……なにしてんの?」
「がお」
 晴子が聞くと、観鈴は再び晴子のお腹をこちょこちょとくすぐりはじめた。

「うひゃははははっ!!? こ、こらっ!!! 観鈴やめっ!! あっはっはっはっはっはっは!!!」

 観鈴の細い指が、晴子の露出したお腹をくすぐる。
 まるで、宝物を愛でるかのような手つきで。

「がお、がお」

「こら観鈴ぅうひゃっはっはっははっはっはっ!! その『がお』言うんやめぇってあれほどひゃひゃひゃっひゃ!!!」

 晴子は大笑いしながら観鈴を引きはがそうと肩を掴む。
 しかし、観鈴は晴子の体にしっかりとしがみつき、放さない。

「がお! がお!」

「ほひゃひゃやからぁぁっはっはっはっははっ!!! せ、せめていったん!! いったんこそばすんやれぇぇっへっへっへっへっへ!!!」

「がお! がお!」

 観鈴は晴子をくすぐる指を止めなかった。

「ほひゃ『がお』はやめぇぇぇっへっへっへっへ!!!」

「がおっ!! がおっ!!」

 観鈴は語気を強めて主張し、晴子のへそを愛でるようにいじくる。

「ほひひひひひひひっひっ!!! わかった! 『がお』は良え!! 言うてええからこそばんやめぇぇえひゃははははははは!!!」

「がお! がお!」

 観鈴は嬉しそうに良いながら、さらに脇腹やお腹をこそぐようにくすぐる。

「ひゃはははははははだかっ、やめぇぇってぇぇぇ~~ひゃっはっはっはっははっはっはあぁああああああ!!!!」

 ごちん!

「が、がお……」

 げんこつを食らって、観鈴は涙目になる。
「あのな。観鈴、じゃれるんもええけど、やめ、言うたらやめなあかん」
「がお……」
 しょんぼりとうなだれる観鈴を見て、晴子はため息をついた。
「……まぁたまにはな、甘えてきてもええけどやな……」
「がおっ」

 観鈴は嬉しそうに笑った。
 晴子は反射的に『がお』を叱りそうになってやめて、

 ごちん!

「が、がお……」

「ほやから『がお』言うんはやめ!」

 やっぱり叱ることにした。


(完)