「……オレも、今回ので罪を背負ったと思う。けど、かわりに一つだけ分かった」

 おまえ寄りの殺人衝動――。

 僕は式のことばに顔をしかめるしかないけれど、そのとき雨の中で笑う式はとても綺麗だった。
 はじめて見た、彼女の本当の笑顔だった。

~~~

「……そのエピソードで、なんでおまえがオレを縛り付ける必要があるわけ?」

 式はいつもの着物に革ジャケット姿で、椅子に座らせ縛り付けてあった。
 足を前方へ伸ばさせ、もう一つ別の椅子を用意。足首を縛って固定してあった。ブーツは脱がせてあるため素足。よくあんなごついブーツを素足で履いていられると思う。しかし、目の前にある式の素足は驚くほど白く、蒸れているようには見えなかった。

「僕、その晩、式の笑顔を思い浮かべながらマスターベーションしたんだ」

「真顔で言うな」

「真面目な話だよ。なんどもなんども。……でもさ、式の笑顔のバリエーションがあんまり想像できなくて。しばらくしたら萎えちゃったんだ」

「おまえ、変態だな」

「うん。だから、今日は、式のいろんな笑顔が見たいと思って呼んだんだ」

 式は眉をしかめた。
 当然だ。僕の言っていることなんて、理不尽だし、理屈もめちゃくちゃだとわかっている。
 だけど、しかたがないのだ。

 僕は、式の本当の笑顔を見たあの日、壊れてしまったんだ。

 式は呆れたようにため息をついた。
 こいつはもうダメだ……と、諦観したように見えた。

「オレを、どうするつもり?」

「足の裏を、くすぐろうと思う」

 その瞬間、式の足の指がきゅっと縮こまった。

「おまえ、バカだな」

 式の侮蔑。
 見限られた。……そう思った。

 式の不愉快そうな表情にまで、僕は興奮してしまう。僕はもうダメだ。……

 そっと式の足の裏へ指を伸ばす。
 くるっ! と身構えたのか、式の体が強ばったのがわかった。

「……っ」

 柔らかかった。
 まるで赤ちゃんの肌のように。

「……っ、……っ」

 人差し指を土踏まずに当てて、ゆっくり上下に往復させる。
 式は、無表情を装うかのように目を閉じていた。
 しかし、口元をきゅっと締めて、我慢しているのが見え見えだ。
 式の足も、指でなで回すたびに、ぷるぷると小さく震えている。

「……僕、式に笑って欲しいんだけどな」

 指を二本にして、こそこそと土踏まずをひっかくようにくすぐった。

「……んいっ……!」

 式の口から声が漏れた。
 効いてる。効いてる。

 こんどは両手を使ってみる。
 式の左足の裏。
 踵と指の付け根に人差し指を当てて、指の腹でなでてみる。

「ひっ……んっ、ふくぅ……」

 式は笑い出したくないのだろうか。
 恥ずかしがっているのだろうか。
 肩が震えている。
 顔は徐々に紅潮し、口元がひくひくと上下し始めた。

 笑えば、楽になれるのに。

 今度は爪を立てて、足の裏をマッサージするように上下させた。

「くふっ……ひひっ、んふぅぅ」

 式の口から、わずかに笑いが漏れた。
 必死に笑いをこらえる表情。
 式のこんな顔はじめて見た。
 僕は、勃起してしまった。

 なんども反復させていると、どんどんくすぐったさが増してくるのか、式の動きが激しくなった。

「んひっ、ひひひっ……や、んぅっ……ふくっ!? んんぅぅっ……」

 首を左右にぶんぶんと振って、無邪気なこどもみたいだった。
 ぷすぷすと笑う式。

 ここでいきなり五本の指で掻きむしったらどうなるだろう?
 意地悪な考えが頭をよぎる。

「んふっ……っふふっ……いひぅっ!」

 式の顔は真っ赤だ。
 眉がへの字に、ときにVの字にゆがめられる。
 もどかしさに苛立っているのか、必死に笑い出すのをこらえているのか。
 目の前の足の指はぎゅっと縮こまっている。

 そんな式を見ていると、やっぱり、大笑いさせたくなった。

「5、4、3、……」

 僕が唐突に秒読みをはじめると、明らかに式の体が強ばったのがわかった。
 足もがちがちに緊張している。

「2」

 と言った瞬間、僕は五本の指で、式の両足の裏をガリガリと力一杯掻きむしった。

「――ぶふぅうううううぅぅ」

 式は体を仰け反らせて盛大に噴き出すと、

「くあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!! おまっぁぁっはっはっはっはっはっは、いい加減にしろぉぉぉ~~はははははははははははは!!!」

 大口を開けて笑い出した。
 一気に緊張が解けたのか、体を大きく揺さぶり、足の指をくねくねとくねらせて笑う式。

「いひゃっはっはっはっはっははっは!! ほんとにやめろぉあぁあっはっはっはっははっは!!」

 不機嫌そうにしていることの多い式の満面の笑み。
 眉はへの字に曲がり、顔は真っ赤、目に涙を浮かべ、だらしなく大口を開けて笑っている。

 僕は夢中で式の足の裏をくすぐった。

「ひやぁぁあっはっはっはっはっはっは!!? もうだめぇあぁぁあっぁっぁがっはっはっはははははははははは!!!」

 一度笑い出してしまうと、もう止まらないようだ。
 式はどんな刺激にも敏感に反応してくれる。

 足の指を掴んで反らし、指の付け根やつっぱった土踏まずをほじる。

「ふひぃぃぃぃっひっひっひひひひ!!? だぁぁぁはははははははははははっ!!! やだっ!! だめぇええはああはははははははははは!!!」

 式の目から涙が溢れた。
 式の歪んだ笑顔は、苦痛と怒りを含んでいた。
 僕は夢中で指を走らせる。

 もう戻れない。

 それでも僕は、式が好きだった。


(完)