酔った勢いだったのだ。

「きゃははははははははっ!! お願いっ、……ひっひっひ!! やめてぇぇぇああっはっはっはっはっはは」

「ほ~れほ~れ。いっつもしけた面してっと幸せが逃げちまうぞ~? かっかっか」

 地底の宴会の席に響き渡る、甲高い悲鳴と高笑い。
 悲鳴のような笑い声を上げているのが水橋パルスィ。高笑いの主が星熊勇儀だ。
 勇儀はパルスィの素足の足の裏をくすぐっていた。
 パルスィは片足を抱え込まれており、ぼこぼこと勇儀の背中を殴りつけている。それでも鬼の力による拘束からは抜け出せない。

 その日、勇儀はいつも以上に飲んでいた。ひとしきり暴れ、楽しんだ。そんな中、ひとりぽつんと座っているパルスィを見つけた。パルスィは誰とも会話せず、つまらなさそうな顔をしていた。勇儀は辛気くさい奴が嫌いだった。そこで、くすぐって無理矢理にでも笑わせてやろうとしたのだ。
 勇儀はパルスィの隣に座ると、いきなり足首を掴んで転ばせ、靴と靴下を脱がし取った。
 嫌がって暴れるパルスィ。止める周囲。そんなことお構いなしに、勇儀はくすぐりはじめたのであった。

「あぁぁあっはっはっははっはっはは!! こんなの嫌ぁああはっははっははは!!」

「何言ってんだ、ヒック……。お前、笑えば可愛いじゃないか」

 酔っ払った勇儀に歯止めは利かなかった。

「きゃぁぁあっはっははっはは!! 恨んでやるっ! 恨んでやるからぁあぁあはっはははははっはははははは!!!」

 パルスィは罵詈雑言をまくし立て、涙を流して笑い続けた。

~~~

 翌朝、勇儀は罪悪感に見舞われた。
 昨夜のことはぼんやりとしか思い出せない。
 しかし、泣くまでパルスィをくすぐりまくったことは覚えている。

「……謝んなきゃなぁ」

 勇儀はパルスィの元を訪れた。
 パルスィは意外にもあたたかく出迎えてくれた。
「おう、パルスィ! 昨日はすまなかったな!」
 出会い頭に謝罪した。パルスィも許したくれたようで、茶とお菓子をご馳走してくれた。
 めっちゃ飲んで、めっちゃ食った。
 13個目のまんじゅうを口に運んだあたりで、勇儀の意識は途絶えた。

~~~

 勇儀が目を覚ますと、体の自由が利かなかった。仰向け大の字に寝そべったまま、両手両足を札で封印されているようだ。

「目が覚めたかしら」

 目の前にパルスィがいた。
 頭が痛い。

「どういうことだ、おい」

 勇儀がたずねると、パルスィは呆れたというような表情を浮かべる。

「あなた、昨日私にしたことを覚えてないのかしら」

「謝ったろ?」

「それで済めば博麗霊夢はいらない。あの程度で許されたと思えるあなたの単細胞さがねたましい……」

 パルスィは勇儀の下駄を脱がせた。

「なにするつもりだ?」

「わからない? あなたが昨日私にやったことへの復讐……」

 言いながらパルスィは両手を勇儀の素足へ近づける。

「復讐って、まさか――」

 その瞬間、勇儀の足の裏へ強烈なくすぐったさが走った。
 パルスィは10本の指で、勇儀の足の裏をくすぐっていた。

「ぶわっはっはっはっはっははっはっはは!! だっはっはっははっは!? なんだこらぁぁぁっはっはっはっはっはっはっははっは!!!」

 勇儀はたまらず笑い出す。

(なんだこのくすぐったさ? たかが足の裏をくすぐられた程度で!)

 勇儀は笑いながら困惑していた。

「さっきあなたが飲んだお茶には睡眠剤、おまんじゅうには感度を高める媚薬を入れていたの」

 パルスィは勇儀の疑問を察したのか、さらりと言った。

「あがぁぁっははっはっははっははっはは!! そんなっ……なんてことをおおおっはっはっはっはっはっははっは!!!」

 あまりのくすぐったさに涙が出てきた。
 勇儀は腹の底から沸き起こる笑いを抑えることができない。

「あんな大勢いる前で、あんなに笑わされて……私は……っ!」

 パルスィは昨夜のことを思い出したのか、わなわなと肩を震わせた。見るからに怒っている。よほど恥ずかしかったらしい。

「絶対に……許さない……」

 パルスィはギリと歯を鳴らすと、爪を立ててガリガリと勇儀の土踏まずを掻きむしった。

「ぐあぁあぁあははははははははははははははは!!!? 爪はっ!! 爪はだめぇぇああははははっはははははははははは!!!」

「やっぱり足の皮膚もごついのね。強めの方が効くみたい」

 パルスィが要領を得てきたのか、時間が経つごとにどんどんくすぐったさが増した。

「いぎゃぁあはあははははははははははは!! もうだあっぁぁあっはっはっははっは!!! 謝るっ! わるがったっつってのにぃぃぃひいひひひひひひひひひっひひひ!!!」

 笑いすぎてお腹が痛い。
 涙まで出てきた。

「口が悪い……やり直し」

「がぁぁはっははっははっははっはは! 悪かったぁぁぁっははっははっはははは!!! わるがったからぁああはっはははっはっはは!!!」

「誠意が感じられない……」

「ふざけんなぁぁああはっはははっはっははははは!!! 足が攣るうううううはっはっっははっはっははっはっは~~!!!」

 勇儀がいくら許しを請うても、パルスィはやめてくれない。
 笑いすぎて、次第に喉がかれてくる。
 そんな勇儀を見て、ニヒルに笑うパルスィ。

(昨日酒の席にいたときより、ずいぶんと楽しそうじゃねえか……)

 勇儀は薄れゆく意識の中で、そんなことを思った。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 『東方地霊殿@上海アリス幻樂団』より、水橋パルスィさん、星熊勇儀さんです。