「アリサさん、元気だしてくださいね!」
「一人も楽しいですよ!」
「ファイト!」
「ドンマイ!」
「戦車が恋人でいいじゃないですか~」

 大学選抜チームとの激闘から数ヶ月。
 サンダース大学付属高校二年のアリサに思い出されるのはM3中戦車の一年どもの嘲笑だった。
 アリサにとって、片思い相手たかしの話題は禁忌。ずいぶんと長い期間恋心を抱き続けているにもかかわらず、目を合わせることすらろくにできず、ちょっと声をかけられただけでもしどろもどろになってしまう。当然告白もできていない。アリサは、恋に対して劣等コンプレックスを抱いていた。そうして溜まったストレスを戦車道で発散していたのだ。
 それをあの一年どもは、無線傍受をやり玉にあげて「彼氏のことも盗聴しそう」だとか「束縛しすぎ」だとか「だからたかしにフラれる」だとか、からかってきた。
 あいつら、……許さない。
 憎悪は日に日に増していった。
 アリサは、いかにして彼女らに復讐してやろうか、策を練りはじめた。

・・・

 夕刻。
 澤梓は練習を終えて寮への帰路を急いでいた。
 セーラー服はかなり汗ばんでいる。一刻も早く風呂に入りたかった。
 身体はくたくた。足も棒のよう。一歩踏み出す度に足の裏が熱くなるのを感じた。
 そんなとき、突如頭上で大きな音が降りてくる。
 バタバタバタバタ――ヘリの音だ。
 足を止めて見上げると、目の前が真っ白になった。ライトに全身を照らされたのだ。
 ヘリは梓の真ん前に降りてきた。
 梓は突然のことに尻込みしてしまい、反応できなかった。
 ヘリの中からあふれ出てきた男数名は一瞬のうちに梓を組み伏せた。
「や……!? な、なんですか! やめてくだ――」
 梓はハンケチを口に押さえつけられ、意識が遠退いていく。
 薬品が染みこんでいたようだ。

・・・

「……んっ、……?」

 梓は、獣臭さに目を覚ました。
 妙に首が痛い。
 目の前に自分の腿があって、すぐ傍にコンクリートの地面が見える。地面の上に黒っぽい豆粒が複数点在していた。レーズン?
 首を上げようとすると、腕とふくらはぎが痛んだ。
 ぼんやりと左右を見渡す。
 綿菓子のような白い物体がうじゃうじゃ跳ねたり走ったり動いていた。
 そこはウサギ小屋だった。

「な、な、なにこれー!?」

 梓は思わず叫んだ。
 体勢がきつく、声を出すと腹筋が痛んだ。

 梓はぺたんと尻をついて、身体をくの字にまげたまま身動きが取れなかった。
 体育の柔軟体操でやる長座体前屈の姿勢。
 目の前に前屈をした目の高さぐらいの木の板が置かれていた。
 板の中央に上下二つずつ穴が並んでいる。
 それぞれ穴の中へ、自分の手足が吸い込まれている。
 両足と両手を大きく前へ伸ばし、手首と足首を木製らしい板状の枷に固定されているのであった。
 手首から先、足首から先は目の前の板の向こう側にある。
 向こう側の両足が涼しい。こちら側に見える膝から下も肌が露出している。
 どうやら靴と靴下は脱がされているようだ。

「えっ!? やっ……これ、抜けないっ」

 梓はガタガタと両手足を引き抜こうと力を込めるが、まったく抜ける気配がない。
 なぜ自分がこんなところでこんな目に遭っているのか、まったく理解できない。

「だ、だれかー!! いませんかー!?」

 叫んでみても反応無し。
 と、そこで梓が目覚めたことに気づいたのか、ウサギたちが梓の元へ集まってきた。
 ウサギたちは身動きの取れない人間が物珍しいのか、鼻をひくひくとさせながらまとわりついてくる。

「ちょっ……ひゃっ!! ウサギさ――きゃはっ!? やっ、くすぐったぃ」

 梓は大きく腕を前方へ投げ出しているため、脇腹も腋もガラ空きだった。
 そこへウサギが顔を押しつけ、もぞもぞ動かれるのはたまらなくくすぐったい。

「やめっ……あはははっ! ちょっと!! ……だめっ! だめだってぇぇははははは!!」

 スカートの下から露出した腿や膝小僧にもヒクヒクと鼻を近づけてくる。

「ひゃぁあああぁ!!? やっ……ははははははっ! やめっ、ウサギ……ひひひひひ!!」

 梓はウサギのふわふわの体毛に露出した脚をなでられ、たまらず笑い声を上げる。
 さらに木板枷の向こう側では、板から突き出た足の裏を物珍しそうに眺めるウサギが数羽。

「ちょっ!! はははは、ウサギさ――だめぇ! 離れてぇぇぇ! やっ……あははははは!」

 梓は足の指を縮こまらせ、足先を左右に振ってウサギを遠ざけようとする。
 しかし逆に、ウサギたちは、激しく動く足に対し余計に興味を示したらしい。
 ウサギたちは鼻をひくひくさせながら、梓の素足にまとわりついた。

「きゃっ!!? あははははっ!? だめっ……うさぁぁっはっはっはっは! ひぃぃぃ~~やめぇえぇえ!!!」

 ウサギの耳やしっぽが、踵や土踏まずをなでてくる。
 さらに蠢く足指に興味を持ったらしいウサギは、鼻の頭をぐりぐりと足の指の股へねじこんでくる。

「ひぁぁああははははははは!!! やだっ!!! ぁあぁぁ、ウサギさんだめぇぇえっはははははははははは!!!」

 梓の上半身に興味を示していたウサギたちは、いつの間にかセーラー服の裾から内部へと潜り込んでいた。
 服の中をもぞもぞと動く毛の塊。
 生温かい物体が身体中を這い回る感覚に、梓は悲鳴を上げた。

「やははははははははっ!!! やめてぇぇえはっはっはっはっはっは!!! そんなとこ入らないでぇぇ~~っはっはっはっは!!!」

 スカートの中へ侵入したウサギは、脚の付け根に顔を押し当てた。

「やぁぁああはっはははっはっはっは!!! やめてぇぇえ!!」

 服の中で蠢き続けるウサギ。
 首元へよじ登ろうとして服のすき間に挟まってしまったらしく、腋の下で後ろ足をばたつかせられる。たまったものではない。

「きゃはははははははは!!? もおおおお~~そんなとこ入るからぁぁあっはっははっはっはっはっは出てぇぇぇえ~~!!!」

 まとわり付くウサギたち。
 梓は全身を襲うくすぐったさに、涙を流して笑い続けた。

「だれかぁぁあああ!!! やあぁぁ! たはっ、たすけてぇええ~~っはっはっはっはっはっはっはっは~~!!!」


(つづく)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 ウサギさんチーム好きです。