くすぐりキノコに冒された高鴨穏乃、松実玄、新子憧は、ボーリング場を訪れていた。
 鷺森灼をくすぐるためである。


「は? くすぐり? 意味わからな……。冷やかしなら帰ってほし」

 受付カウンターの内側から、灼はしっしと手を払い追い返そうとする。灼はポロシャツにスカート、エプロン、黒のハイソックスを身につけている。

穏乃
「うぇひひひ」


「うけけけ」


「ひょひょひょ」

 三者、微笑みながらカウンターを乗り越える。


「……ちょっ……!? 奇声上げながらこっち側こないでほし……」

穏乃
「灼さぁあん、笑うと気持ちいいですよ!」


「知らな……。なっ、わっ!? 近づいてこないで――」バッ

 穏乃が掴みかかろうとしたところを、灼は飛び退いてかわす。


「待って灼ちゃん、逃げないで! 怖くないから!」ジュルリ


「血走った目で涎垂らしながら言われても説得力が全然無……」


「灼さん、大丈夫。はじめてのときはあたしも怖かった。でも、一回経験しちゃえばなんてことないの! 安心して体を預けてみて」ジリ……ジリ……


「なんか憧が言うと、別の意味に聞こえる気が――」

穏乃
「隙あり!」


「あっ!」

 灼の背後に回っていた穏乃が押し倒した。
 すかさず憧と玄が灼の腕と足を押さえた。

穏乃
「うぇひひひひひひ!!!」


「こわっ……」

 灼は両手足をまっすぐ上下に伸ばしたまま身動きが取れない。万歳に伸ばした腕に憧、揃えて伸ばした足に玄が乗っかり押さえつけている。穏乃は灼の腰あたりに馬乗りに。


「灼ちゃん、靴下ぬぎぬぎしよーね」

 玄は、灼の靴を脱がし、靴下のつま先を掴んで引っ張る。


「ちょ、玄……!? 伸びちゃう……そんな引っ張らないで――んはっ!!?」ビクンッ

 灼は突然体を震わせた。
 憧が灼の伸びきった腋を人差し指でつついたのだ。


「あれ~。灼さん実はくすぐり弱い? あんまイメージ無かったけど」ニヤニヤ


「……そっ……そんなことな……」


「こっちょこちょ~」コチョコチョ


「くひゃははははははっ!!?」ビクビク

 灼、憧にガラ空きの腋の下をくすぐられ笑い出す。

穏乃
「灼さんが、すごい、笑ってる!」


「あんまり大声上げて笑わないもんね。灼ちゃん。今日は思い切り笑ってね」

 穏乃が灼の脇腹を、玄が灼の素足の足の裏をくすぐりはじめる。


「ひあぁはははははっ!!? ちょっ……つよっ、あぁぁ~~っはっはっはっはっはっはっは~~!!? 三人がかりはだめぇぁあぁ~~はははははははははははは~~!!!」


「灼さん、腋弱ーい、……ふひひ」

穏乃
「お腹ぴくぴくしてますよ! ……うぇひひ」


「足の指びくびくしてるかわうぃ……」

 憧、穏乃、玄は恍惚とした表情を浮かべ、灼の体を激しくくすぐっている。


「ひゃっひゃっひゃ!? 三人ともなにがあったぇえぃえいははははははははははははは~~!!!?」

 灼、大口を開け、涙を流して笑う。

穏乃
「灼さぁん、どこが一番くすぐったいですかぁ?」コチョコチョ


「ひゃあははははははっ!!? そ、そんなのぉぉ~~わかんなぁぁっはっはっははっはっはっはっは~~!!!」


「言わないと灼ちゃんもっと強くしちゃうぞぉ」カリカリカリ


「あひぃぃいい!!? 玄ぉおおひひひひひひっ!!? 爪立てないでぇぇぇえっへっへっへっへっへ、足ダメだからぁぁぁあっはっははっはっはっは~~!!!」


「えー、じゃあ灼さん、腋は平気だって言うの?」ぐりぐりほじほじ


「うお゛おほほほほほほほほっ!!? そんにゃぁっ、強いぃいひひひひひひひひひひっ!! 腋もやめぇぇぇえはははははははははははは~~!!?」


「しずの一人負けー」

穏乃
「ええっ!? 灼さん!? 横っ腹もくすぐったいですよね!?」ゴリゴリゴリ


「あはぁぁぁああぁはははははははは!!? つぼにぃぃひっひいっひっひひっひっっひっひ!!? ぜぜぜ、全部ぅういひひひひひひっ!!! 全部だめだからぁぁあっはっはっはひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 灼、体を上下に震わせ、目を見開いて笑い狂う。
 顔は真っ赤に紅潮し、口から涎を垂らしている。


「じゃあ灼ちゃんの一人負けだね」


「灼さん、罰ゲーム」

穏乃
「灼さん! がんばってくださいね!」

 こちょこちょこちょこちょ


「ぐああぁあぁああははははははははははは~~!!!?」

 灼の表情が徐々にとろけていく。
 くすぐりキノコの阿知賀侵略は順風満帆。


(完)


穏乃がくすぐりキノコに冒された
憧もくすぐりキノコに冒される



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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 阿知賀の中で一番好きな鷺森灼ちゃん。
 チャームポイントその1)台詞を言うとき、形容詞の活用語尾終止形の「い」を省略する癖がある
 チャームポイントその2)私服がダサい
 チャームポイントその3)はるちゃんへの狂信的な崇拝と肥大理想化