くすぐり作文晒し場

カワイイ女の子の靴下脱がしーの足の裏をコチョコチョしちゃう系小説投稿ブログ! 本番行為は一切無しなので、健全な18歳児でも安心してお楽しみいただけます!

うちの子関連

SOLE TICKLER くすぐり過ぎにご用心

 テックリンワールド。
 くすぐりモンスターが蔓延る混沌の世界。
 冒険者は『擽師』なる者を倒すため、あるときは単独で、あるときはパーティを組んで旅をしていた。

「ミサ、次はどこ行くのさ?」
 腰まで伸びた長いツインテールをなびかせて言う小柄な少女。剣士リンである。布のツーピースの上に勇者気取りのマントを羽織っている。両腰に短剣を掲げている。
 隣を歩くミサと呼ばれたボブヘアの少女は、魔法使いのミサキ。右手にステッキを装備し、ローブに身を包んでいる。
「この先に小さな町があります。そこで少しTpointを調達しましょう」
 Tpointとは、この世界における経験値である。Tpointを一定数貯めるとレベルが上がり、取得技も増える。
 リンとミサキの二人で旅をはじめてしばらく、『擽師』を倒せるだけの力をつけるために、Tpoint集めに奔走していた。

「うわあああああ!! 冒険者だあああ!」
「冒険者が来たぞ、みんな逃げろおおお」
「キャー」
「冒険者警報発令だぁああああ」
 町に到着したリンとミサキを人目見るや、一目散に逃げ出す町人たち。
 冒険者は一般人に嫌われている。

 なぜなら――

「きゃははははははははっ!? やめっ、やめてぇぇぇぇ~~~あっはっはっは!!」

 道具屋の娘らしいエプロンを着けた三つ編みの少女が笑い狂っていた。
 ひとり逃げ遅れたところを、リンとミサキに押さえつけられ、二人がかりでくすぐられているのだ。

 ――Tpointは、人間をくすぐることでより貯まる。
 冒険者は通りすがりの人間を見境無く襲ってはくすぐる。
 そのため、善良な一般人にとっては、冒険者はモンスターよりも厄介な存在なのだ。

「あぁぁっはっはっはっはっはっは!!? もういやぁぁぁ~~~!!」

 地面に仰向けIの字に寝かされた状態で、両腕、両足にリンとミサキがのっかっている。
「そういうなよ。『擽師』倒すためなんだからよー」
 リンはガラ空きになった娘の腋の下をくすぐっていた。
「文句なら、こんな世界にしてしまった『擽師』にお願いします」
 ミサキは娘の素足の足の裏をくすぐっていた。傍らに脱がされたブーツが転がっている。

「冒険者なんか大っ嫌いぃいい~~っひっひっひっひ!!」

 くすぐったがらせればくすぐったがらせるほど、取得できるTpointは多くなる。
 そのため冒険者は日夜くすぐりのテクニックを磨いているのだ。

 数分後、やっと解放された娘は、へらへらと引きつった笑みを浮かべて失神していた。

「しけてんなぁ。もうちょい搾らせてくれてもいいじゃんよー」
 リンはぶーぶーと口をとがらせた。
 娘の耐久力が予想以上に低かったらしい。
「一般町人はこのぐらいが限度ですね。……それにしても」
 と、ミサキは不審そうに眉を寄せ、
「この町。冒険者に対する警戒がかなり高いですね。ひとりくすぐっている間に、通行人がすっかりいなくなってしまいました」
 町を見渡して言った。
 民家の窓も扉も閉ざされ、外にもまったく人影がない。
「適当に探してれば誰か見つかるんじゃね? てか、宿屋行かね?」
「……そうですね。道中で消費した体力を回復させましょう」
 リンの提案に、ミサキがのった。
 さすがに宿屋まで冒険者出禁ということはないだろう。
 二人は宿屋へ足を向けた。

 冒険者に対する警戒が異常に高い町に迷い込んだリンとミサキ。
 二人はまだ、自分たちの置かれた状況の危険性に気づいていない。


○○○


「……んぁ? ……は!? なんだこりゃ!?」

 リンは目覚めるやいなや、パニックに陥った。
 記憶では、宿屋のベッドで眠ったはずだった。
 それがどうして、薄暗い洞窟のような場所に移動しているのか。
 体を起こす。尻が冷たく背中が痛い。体の節々もギシギシ痛んだ。身動きがうまくとれないことに気づく。
 両腕が動かない。背中で手首を揃えて縛られていた。
 両脚も動かない。足を前に投げ出した状態で、板状の足枷に足首を固定されていた。

「リン。油断しましたね」

「ひぁっ!?」

 突然横から声がかかり、リンは素っ頓狂な声を上げた。
 横で並んで座っているのはミサキだった。
 ミサキもリンと同様に手首を縛られ両足を足枷に固定されていた。見ると、板状の足枷はリンのものと繋がっている。一台で4人までまとめて横一列に拘束できる便利なタイプだ。

「どうやらあの宿屋は、冒険者を捕らえるための罠だったようです。町人の異様な警戒心を甘く見すぎました。私も迂闊でした」

 ミサキは呆れたように言った。

「そんな他人事みたいに言ってる場合かよ!? てか、ここどこだよ!?」

「おそらく町にくる途中にあった洞穴の中。町の住人達が、招かれざる冒険者を投棄するために使っていたようです。冒険者は一般人に恨みをかいやすいですからね」

「つまり、私ら、ポイされたってこと? このまま薄暗い穴の底で、誰にも見つからないまま腐って死ぬ!?」

「そうならないために、なんとか自力で脱出したいところなんですが……」

 そんな問答をしていると、突然「キキー!」とかん高い声が聞こえた。
 二人は驚いて顔を上げる。

「……え、も、モンスター?」

「……ゴブリンですね」

 二匹のゴブリンだった。
 通りすがりらしい彼らは、キーキーと謎の奇声を上げながら、リン達の元へ近づいてくる。

「みっ……ミサ! あいつらこっちくるじゃん!! なんか魔法!」

「杖がないと無理です。どうやら捨てられた際に装備が外れてしまったらしく……」

「やばいじゃんよ!!」

 リンが地面を見ると、そこらじゅうに自分たちの持ち物が散乱していた。
 衣類はそのままであるが、アイテムや装飾品の類いは、すべて手元からはなれてしまったようだ。

「リンの短剣はこちら側に落ちているのですが、杖がどうしても見つかりません」

 ミサキが首をねじってリンに示す。ミサキの背後数メートル先にリンの短剣が落ちている。

「短剣あんのかよ!? じゃあそれでロープ切れんじゃん!」

「リン。ちゃんと見て下さい。私の手は体の前で縛られています。どんなに体をねじっても届きませんでした。リンが寝てる間に何時間も試したんです」

「んじゃあ私が!」

 リンは言いながら背中に縛られた腕を無理矢理伸ばしながら上体を反らせた。
 短剣にはまったく届かない。

「ふんがああああ!?」

「リン。背中を攣りますよ」

 そんなやりとりをしているうちに、ゴブリン二匹がリンとミサキの前までやってきた。
 物珍しそうに首を傾げてリン達の顔を覗き込んでくる。

「……な、なんだよっ! やんのかあ!? あぁ!?」

 リンが威嚇する。

「……リン。挑発しないでください」

 ゴブリン達はリン達の身動きがとれないとわかると、ケケケと嘲笑のような声を上げた。
 そして、一匹がリンの足元にしゃがみ込み、ブーツを掴んだ。

「おいこら!? 触るなよぉ!」

 リンはガタガタと体中を揺り動かしてもがくが、足首から先はまったく動かない。
 ゴブリンはリンの両足からぐいぐいとブーツをひっぱり、すぽっと脱がし取ってしまう。
 リンの素足が露わになった。

「……あの町の住人もなかなか鬼ですね。モンスターの沸いた区域に、動きを封じた冒険者を置き去りにする。そうしておけば、自動的に冒険者はモンスターの餌食というわけで……」

「感心してる場合かよ!?」

 ミサキの足元でもゴブリンがブーツを脱がしにかかる。
 ミサキは足を左右に振って抵抗するが、無意味。すぽんと両足ともブーツを脱がされ素足にされた。

「万事休す……ですね」

「あきらめんなよ! あきらめんなよお前ぇぇ!!」

 次の瞬間、ゴブリンに二匹は同時に、リンとミサキの足の裏へ指を這わせはじめた。

「ぐふぅっ!? ――ぶふぁあああっはっはっはっはっははっはっは!!?」

 リンは盛大に吹きだした。
 ゴブリンはガサガサに乾燥した五本の指で、リンの柔らかい足の裏の皮膚を掻き回す。

「にゃぁあああっはっはっはっはっはっは!!? やめぇぇぇえぇ~~!! くすぐったすぎるぅうううはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 リンは大笑いしながら、上半身を左右に激しくよじって暴れた。


○○○


「……うくっ! ひぃ……、ひっ、んふっ!?」

 一方のミサキは、足の指を縮こまらせ、足をゆるやかに動かしながら、なんとか笑い出すのをこらえている。
 ゴブリンの指の動きを予測し、打点をずらすことで、くすぐったさを軽減しているのだ。

「くふ……リン……笑いすぎです……んひっ!!」

 ミサキはなんとか突破口を見いだそうとしていた。
 が、リンの笑い声が激しく、集中できない。

「ぶあぁあっははっはっははっははっは!!! 無理無理無理いぃいいっひっひっひっひっひひゃぁぁあ!!!」

 リンは激しく身をよじって笑う。
 足の指がびくびくとあまりに激しく動くので、ゴブリンは邪魔に感じたのか、親指を紐で結んでしまった。

「あぁぁああははははははははははは!!? こんなぁぁあ卑怯だぁぁあああっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

「うく……っ、リン……ちょっとは、ふひっ……こらえて……――っ!!?」

 涙を浮かべ大口を開けて笑うリンの様子を横目で見ていたミサキは、突然目を見開いた。
 リンの背中にかかった勇者気取りのマントが、ばさばさと浮き上がり土埃をまき散らす。
 マントの下に、ミサキの杖が転がっていた。
 リンが暴れたことで、さきほどまでマントの下に隠れていた杖が見つかったのだ。

「ひっ……り、リン! 後ろに、杖っ……ふひひっ……杖! ……とってくださ……ひ!?」

 ミサキはなんとかリンに杖の所在を伝えようとする。
 リンは後ろ手で縛られているために、手を伸ばせば届く位置にある。

「にゃははははははははははははは!!! やめえぇぇ!!? あぁぁあ~~っはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 リンは激しく笑っているため、まったく聞こえていない。
 リンの足元のゴブリンは、いつのまにか、ブラシやら耳かきやらを駆使してリンの足の裏をくすぐっていた。
 ブラシがリンの土踏まずをこすり上げ、耳かきが足指の股をこりこりと掃除する。

「うひいぃぃぃっひっひっひっひっひひ!!? たすけぇぇええ!! うにゃぁぁああっははっはっはっはっはっはっは!!!」

「り、リンっ……! くひっ……ちょっとガマンして、……背中にひひっ、杖がぁッ……ふひゃっ!!?」

 ミサキはなんども訴える。
 杖さえあれば、この状況を打破できる。
 それなのに、リンはくすぐったさに身を委ねてひたすら笑い続けている。

「り、ひひひっ……いい加減にっ!! あぁひっ!? ひひ、後ろ見て!! ひぃぃッ……ひひひっ!! ちょっ……!? おねがっ……後ろに杖っ……くひひひ!!!」

 ミサキの足元のゴブリンは羽根を持ち出し、足の裏をなぞり上げてくる。
 ゴブリンはなかなか笑い出さないミサキをくすぐるにあたって、パターンを変えることを学習したようだ。
 羽根で全面をなで上げた上で、さらにガサガサの指先で局所的に引っかかれると、とてつもないくすぐったさがミサキを襲う。

「ひふぅぅううう!? ……リンっ!! 後ろっ! 後ろぉおひぃぃぃい!!?」

 ミサキは苛立ちとくすぐったさで、限界だった。
 打点ずらしでくすぐったさを軽減するテクニックは、所詮その場しのぎなのだ。長時間のくすぐりには耐えられない。

「ひっ……ひひひひっ!! り、うひろっ!! 後ろ見てっ、ひっひひ、杖!!! おねがぁぁひぃぃぃ」

 ミサキは顔を真っ赤にして、歯を見せながらもなんとか笑い出すのはこらえていた。
 足の裏をなであげる羽根。
 足の裏をガリガリとこすりあげるゴブリンの指。 
 そんな繰り返し。
 たかだか低級モンスターの単純なパターン攻撃でも、蓄積されれば効いてくる。
 足の裏を意識すればするほど、くすぐったさが増してくる。
 隣で激しく笑うリン。
 リンのかん高い笑い声に、ミサキはますます集中を欠かれる。
 そんななかでミサキは、ほんのコンマ数秒、ゴブリンの指先の動きを見誤った。
 わずかな時間。一瞬予測できなかったくすぐったさが、ミサキを襲う。
 たったそれだけで、ミサキの中で、何かが崩れた。

「――ひぁ? ……ぷひっ!? ひひゃはははははははははははははははははは!!?」

 ミサキは突如、大口を開けて笑い出した。

「ひひゃひひひひひひひひひひひひ!!? ひぃぃっひっひっひっひっひっひっひっひ!!! はひぃぃぃぃいい~~!!?」

 ゴブリンのくすぐりは何も変わっていない。
 同じような動きを繰り返しているだけ。 
 それなのに、今までとは比べものにならないほど強烈なくすぐったさがミサキを襲った。

「ひひゃっはっはっはっはっはっはは!!? ひぃぃっひひひひひひひひ!! むひぃぃひひっひふへぇぇぇひひひひひひひひ~~!!」

 ミサキは激しく体をよじり、髪の毛を振り乱して笑った。
 言葉を発することさえできない。
 溜め込んだくすぐったさをすべて解放するかのように、ミサキは笑い狂った。
 ミサキの頭の中は、くすぐったさでぐちゃぐちゃにかき乱された。
 くすぐったくてたまらない。笑わずにはいられない。
 打開策など、考える余地もなかった。
 意識の狭間で、リンの笑い声が少しずつ収まってきていることに気づいた。


○○○


 …………

「リン。できればもう少し早く復帰してくれませんかね?」

「だってさ……、ミサが馬鹿みたいに笑いまくってるの見て、やっと頭が冷えたっていうか……」

 リンがミサキの杖に気づたのは、ミサキがくすぐったさに陥落して数分経ったころだった。
 リンは身をよじって杖を掴み、ミサキに渡した。
 ミサキは笑いながらも必死に杖を構え、全体攻撃魔法を発動。ゴブリンを足枷もろとも吹き飛ばし、二人は生還したのだ。

「馬鹿みたいに、は余計です。……たしかに、他人が笑っている姿を見て、誘発される場合もあれば、逆に冷静になる場合もあるという――」

「講釈はいいって! それよりさ! これからどうすんのさ?」

 ミサキはまゆを潜めた。
 リンに話を遮られて少しむっとしたようだ。
 しかし、すぐに諦めたようにため息をついた。

「……とりあえず、あの町に報復しますか」

「異議無し!」


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
ミサリン

 なんと! ショタおね足枷魔神のDDD様より、リンとミサキのイラストをいただきました!
 鼻血が出るほど嬉しいです! 足の形の再現率にも感涙!!
 いただいたイラストを元にssを書かせていただきました!
 圧倒的感謝! 本当にありがとうございました!

 ssの設定は、ツクールRPG『Sole Tickler』の世界観にだいたい準拠。

 新作ツクールRPG『Sole Tickler ~隠された擽力~』できました! ← New!

SOLE TICKLER 旅の一コマ

 ここはテックリンワールド。
 例のごとくくすぐりモンスターが蔓延る混沌の世界だ。
 冒険者は『擽師』なる者を倒すため、あるときは単独で、あるときはパーティを組んで旅をしていた。

「ミ~サぁ~、いつまで怒ってんだよ」
 腰まで伸びた長いツインテールをなびかせて言う小柄な少女。剣士リンである。勇者を気取って布のツーピースの上にマントを羽織っている。両腰に短剣を掲げている。防御を捨てた二刀流が彼女の戦闘スタイルなのだ。
 ミサと呼ばれたボブヘアの少女は、ずんずんと背を向けて足早に歩く。右手にステッキ、黒いローブに身を包み、いかにも魔法使いの出で立ちだ。
 リンは、彼女の肩を掴んだ。
 魔法使いミサキは振り返りキッとリンをにらんだ。
「いい加減に学んで下さい! リン! 宝箱は罠の可能性があるので、開ける前に必ず私に確認しろとあれほど言ったじゃないですか!」
 ミサキはかなり怒っているようだ。
 どうやらリンが何度目かのミスをしでかしたらしい。
「だから謝ってんじゃんよ~。私だって別に好きで罠にはまってんじゃないって!」
「リンがソロで勝手に罠にはまるのなら何も言いません。しかし、パーティーを組んでいる以上、全員で決めたことには従ってもらわないと困ります。巻き込まれるのは迷惑なんです」
「かっちーん! そこまで言うことないじゃんよ!」
「言います。宝箱は開ける前に全員の同意をとってください! お願いします!」
「全員の意見取ってたら間に合わないときだってあったじゃん! この前のボス戦前、薬草出てこなかったらミサ死んでたくせに!」
「あのときはあのときです。揚げ足をとらないでください」
「揚げ足じゃねーし! ミサの守備力低すぎるんだよ! 攻撃遅いし! 状態異常かかりすぎで守りながら戦うのめんどくせーんだかんな!」
「リンは、私の全体魔法と火力にどれだけ助けられているか、わかっててそんなこと言っているんですか?」
「だぁもうっ! うっせーなぁ! それはそれじゃん! 揚げ足とんなし!」
 そこで、後ろからのんびりついてきていたポニーテールの少女。僧侶ハルナが声をかけた。
「まぁまぁリンちゃんもミサキちゃんも、そろそろその辺で――」
「「ハルナ」さん「は、入ってこないで」ください!」
 リンとミサキが同時に言った。
 ハルナは二人の息の合い方に吹き出してしまう。

 三人は、そんなバランスで楽しい(?)旅を続けていた。

「これだからがさつなエンハンス系は」
「まーたミサは系統のこと言うー! コンジュア系は細かいこと気にしすぎだっつーの!」
 いつまでも言い合いを続けるミサキとリンの後ろをニコニコしながらハルナがついていく。
 そんな三人の前に、ひとつの宝箱が現れた。
 辺り一面草花の生い茂る部屋のど真ん中にぽつんと、開けて下さいと言わんばかりだ。
「「「…………」」」
 一瞬の沈黙があって、
「開けてイイ?」
「ダメです」
 リンが聞くと、ミサキは即答した。
「ええ!? なんで!?」
「こんなこれ見よがしな罠がありますか。開けなくても先に進めます。じきにボス戦です。急ぎましょう」
 ミサキはさっさと部屋の出口へと向かった。
「えー……なんか私の勘では、開けた方がいい気がすんだけどなー」
 リンは宝箱の前でぶーたれた。
「その勘とやらで何回痛い目を見たんですか」
 出口の前で振り返ってミサキは言う。
「早くしてください。パーティー1枠ののリンが来ないと部屋を出られないんです」
 ミサキが急かす。ハルナは二人を交互に見て、
「リンちゃん? 行く?」
 リンは少し考えてから、
「えいっ!」
 宝箱を開けた。
「ちょっ!?」
「リンちゃん!?」
 ミサキとハルナが声を上げた。
 その瞬間、宝箱が光ったかと思うと、ツタが地面から勢いよく伸びて絡み合って壁を作り、ミサキとハルナの間を隔てた。


○○○


「どうしようリンちゃん。ミサキちゃん、閉じ込められちゃった」
「正確に言うと、閉じ込められたのはうちらなんだけどね……」
 宝箱を中心として、リンとハルナの周囲四方に、ツタの壁が完成していた。
「でも、ミサキちゃん、リンちゃんがいないと部屋出れないから」
「結局どっちも閉じ込められたってことなんだよね。わかってるよ……私が悪かったよ……」
 リンは膝を抱えてしまった。
 自分のせいで再び二人に迷惑をかけたことに責任を感じているようだ。
「あ、でも待って。リンちゃんの剣なら、このぐらいの壁、破れそうじゃない?」
「マジで!?」
 リンは顔を上げた。
「ならさっそく――」
 リンが両手に短剣を構えたそのとき、
『ゲコ』
「げこ?」
『ゲコ』『ゲコ』『ゲコ』『ゲコ』――、
 リンとハルナの周囲に、まるで植物のような擬態をした小さなカエルのモンスターが数十匹集まっていた。
 ぴゅっ。
 カエルの一匹が、リンに向かって水鉄砲を吐いた。
「リンちゃん! 危ない!」
 ハルナはリンの前へ飛び出した。


○○○


「リン。あとで覚えておいてくださいね」
 ひとり部屋の一画に隔離されたミサキは忌々しげにつぶやいた。目の前に、一匹のカエルのモンスターが現れていた。
『ゲコ』
 ミサキはステッキをカエルに向けた。人間ぐらいの大きさがある。爬虫類嫌いにとってはたまらない姿だろう。
 ミサキが詠唱を始める前に、カエルは勢いよく飛び上がり、口から水鉄砲を発射した。
「くっ!」
 ミサキはステッキで弾く。
 ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっ。
 カエルはぴょんぴょんすばしっこく飛び跳ねながら次々と攻撃してきた。
「く……っ。スピード型の遠隔攻撃ですか……かなり相手が悪いですね……」
 ミサキの魔法は発動に時間がかかる。
 攻撃を防ぐのでいっぱいいっぱいだった。
「あっ!」
 攻撃を弾こうとステッキをつきだした瞬間、カエルの長い舌で柄の部分が絡め取られた。
 勢いよく舌が引き戻され、ミサキはステッキを奪われた。
 部屋の隅へはじけ飛び転がるステッキ。
 ミサキは青ざめた。
 カエルの攻撃は続く。
 ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっ。
「くっ……」
 攻撃を丸腰で避け続けるのには無理があった。
 右手首がカエルの舌に絡め取られ、
「うっ、しまっ……!」
 体勢を崩したところを、左手、左足、右足、と四肢を舌に絡み取られ、ミサキは大の字に拘束されてしまった。
 カエルの口からは、四本の細長い舌が伸び出ていた。
 よく見ると、口の中に目がある。
『ゲーコゲーコゲーコ』
 カエルはしてやったりと笑っているようだ。
 さらにもう二本、舌が口の中からにょきにょきと生え出てきて、ミサキの体へ伸びてきた。
「く……」
 ミサキは顔をしかめた。


○○○
 

「きゃはははははははっ!!! あぁ~~っはっはっはっはっはっは!!」

 ハルナは仰向けに地面に寝そべって三匹のカエルに舌で上半身をくすぐられていた。
 リンはその少し離れた位置で、体中にまとわりついてくる小さなカエルどもを必死に短剣で払い続けている。
「くそっ……なんで水鉄砲で麻痺なんだよ――って、よって来んな! 敵多すぎて剣二本じゃ間に合わねーよ!」
 ハルナは体がしびれて動けない様子。
 カエルのされるがままに舐めまわされ、ぶんぶんと首を振って笑っている。

「あひゃっははっははっはっはっ……りひっ、リンちゃん堪えてぇぇぇっひゃっはっはっはっはっはっは~~!!」

 ハルナは涙を流して笑いながらも、リンにエールを送っていた。

「あんたの方が大丈夫かよ!? わわっ! またこいつっ! ……敵の攻撃多すぎて、ワンターンが長げぇよ!!」
 リンはカエルの相手が手に負いきれず、ハルナをかばうこともできない。
 また、カエルの小さな攻撃が重なって蓄積ダメージも貯まっていた。
 徐々に動きが鈍くなる。

「あぁあはっはっはっはっはっはふわぁぁ~~~!!?」
 ハルナの声にリンは振り返る。
 カエルは麻痺で動けないハルナのブーツを脱がして素足にし、足の裏をぺろぺろと細長い舌で舐め始めた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃぎゃぁぁぁ~~っはっはっははははははははははは!!!」

「こんのっ!! ミサの全体攻撃があれば……って、全部私のせいだよバカヤロウ!」
 リンはノリツッコミをしながらカエルを切り刻んでいく。
 が、突然一匹のカエルに足元をすくわれ、転倒。うつぶせになって、起き上がるまもなく、数十匹のカエルの舌にぐるぐる巻きに拘束されてしまった。
「はなせくそっ!!」
 両腕が体側につけられて拘束されてしまったため、まったく攻撃することができない。
 カエルどもはよじよじとリンの体にのぼり、ブーツを不器用に脱がし始めた。
「こらっ!! 馬鹿っ!? さわんなっ!」
 リンは地面に腹をつけたまま叫んだ。
 が、カエルどもに言葉は通じないのか、あっさり両足ともブーツはずぽっと脱がし取られてしまう。
 リンの素足が露わになった。
「こらぁぁっ!! 降りろっ……降りろってぇ!」
 リンはかなり狼狽している。
 足元が見えないために不安なのだろう。
 カエルどもは、一斉にリンの素足の足の裏を細長い舌の先でちょろちょろくすぐりはじめた。

「にゃぁぁぁああぁははっはははっはははっはは!!? やめろぉぉ~~っはっははっはっははっはははっ、だぁぁぁっはっはっはっははっは~~!!」

 リンは体を海老反りにしてもがいた。
 カエルの舌は、うねうねとうごめき、土踏まず、かかと、足の指と細部まで舐めまわしてくる。

「だぁっははははははははは!!? ふざけんなこらぁぁぁっはっはっはっはっはっはっはっは!!」 
 リンは怒りながら大笑いした。

 一方のハルナも、
「きゃひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!? あひゃぁぁあっはぁぁあ~~!!」
 服の中をカエルにまさぐられ、かなりくすぐったそうだ。
「リンちゃんあと少しぃぃぃ~っひっひっひっひっひっひひっ!!」

「にゃっ!? 少しってなんだよぉぉ~~~っはっははっはっはっははっはっは!!!」

 リンにはまだ、ハルナの言葉の意味がわからなかった。


○○○


「くっ……ふっ……くふひっ、ひひ……っ!」

 空中で四肢を大きく広げて拘束されたミサキは、両腋の下を、カエルの細い舌で両腋の下を撫でるようにくすぐるられていた。
 上下にちろちろと動く舌に合わせて、体をくねらせるミサキ。

「ふくっ……ひぃっ……くふふっ!」

 顔を真っ赤にして歯を食いしばるミサキ。
 そこへ、さらに二本、舌が伸びて、ミサキの足元へ迫る。

「あっ……くっ! やっ、やめてくださっ……ふひっ」

 カエルの舌はブーツの隙間から器用に入り込むと、もぞもぞと動く。
 ミサキの素足が露わになった。
 脱がされた二足のブーツが、ぼとっと地面に落ちた。

 カエルの舌は、ミサキの素足の足の裏をちろちろ舐め始めた。

「ひひゃっ!? ひっ……ひっ、ふひぃぃ~~んぅ~~~!!!」

 蒸れてくすぐったいのか、ミサキは顔を下に向けて、必死で笑いをこらえている。
 肩が上下に動き、息も荒い。
 もう限界だろうと思われた。

 カエルもそれを察したのか、くすぐっていた四本の舌の動きをとめると、
「……んっ」
 一瞬の静止の後、一斉に激しく動き始めた。

「だっ、ばっ、ふ……――、っ、ぶひゃぁあぁああっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!?」

 盛大に吹き出したミサキは大口を開けて笑い出す。
 体はびくびくと震え、素足はくねくねとよじれている。

「ひひゃひゃはははははははははっ!!? ひぃぃ~~ひゃっはっはっはっはっはっはっは!!」

 脇腹から腋の下を這う舌は、ぐりぐりとツボを探すようにミサキの体へ食い込む。

「ひぃぃひひひひひひひひひひひっ!? とまっ……だめっ、ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」

 足の裏を這う舌は、足指をからめとり、指の間までくすぐっている。

「ひゃめ……っひやぁぁあっはっはっはっはっはっはっはひひゃぁぁぁああ~~!!!」

 四肢の自由を奪われたミサキは、まったく為す術なく、笑わされ続けた。


○○○


「ごめんぅぅぅ~~ごめんてぇぇだっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!! ハルナごめんえぇぇはははははははは!!」

 リンは、ぐるぐる巻きにされたまま足の裏を舐めまわされ、涙を流して謝罪しながら笑っていた。
 笑わされ続けて、勝手にひとりで反省しているのだろう。

 一方のハルナは、
「きゃはははははははははっ……きたっ!! きたぁぁあっはっはっは!! いくよ!」

 突然ハルナの体が光ったかと思えば、もの凄い爆音と閃光とともにハルナとリンの体を囲んでいた小カエルどもが一瞬で吹き飛んだ。
「なっなんだってぇぇぇ!?」
 リンも攻撃を受け、驚きの声とともに吹き飛ぶ。
「ヒール!」
 ハルナはすぐさま自身の体力を回復させ、リンの元へ。
「リンちゃん、無事?」
 ボロボロになったリンは、
「……残りHP1。ギリ」
「ヒール!」
 回復したリンは、
「ハルナ、あんたそんなのあったんだ……あ、いや、それより、ごめん」
「謝らなくていいよ。リンちゃんのおかげで、ほら」
 ハルナは、残った宝箱の奥から鍵を取り出した。
 リンが手に取ると、
『ボス部屋の鍵を手に入れた!』
「あ、そういうこと……」
「じゃあミサキちゃんを助けに行こう」


○○○

 
「ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ、ひゃぁぁああ~~っはっはっはっはっはっはだぁあぁあ~~!!」

 ミサキの体をくすぐる舌は十本に増えていた。
 腋や首から腿や足の裏まで全身を激しくくすぐられ、ミサキは涙を流して馬鹿笑いしている。

「もうやあぁっはっは!! 増えないでっ、増えないで下さいぃぃ~~っひひひひひひひひひひひひい!!

 そのとき、
「どりゃぁぁぁああ!!」
 ツタの壁を突き破って飛び出したリンが、ミサキの体を拘束していたカエルの舌を叩き切った。
 落ちるミサキの体を、ハルナがキャッチする。
「うはっ!? でかっ!」
「ハルナさん。助かりました。ありがとうございます。……リン、あなたは……っ! いえ、後にします。そこに転がっているステッキを取って下さい」
「なんだよミサぁ! こっちだって助けたじゃんよ!」
「おしゃべりはそこの爬虫類をブチ殺した後です。リン、引きつけ役をお願いします。あ、ハルナさん、私の回復をお願いします」
 ステッキを受け取ったミサキは、冷徹な視線をカエルへ向けた。
「おお、こわっ」

 カエルは木っ端微塵になった。

「リンは反抗期ですか!? 私が何か言うと必ず逆のことをするんですか!? そういう性質を持った生き物なんですか!?」
 リンは地面に正座をさせられて、ミサキに叱られた。
「まぁまぁ、ミサキちゃん。リンちゃんのおかげでボス部屋の鍵も手に入ったわけだし、そのへんで」
 ハルナが口を挟むが、
「まだです。鍵の手柄は認めた上で、今後も三人で行動する以上は方針はしっかりと固めて――」
「あ~あ、宝箱が罠かどうか見破る系の能力があればなあ」
「そういう希望的観測に頼りすぎるところが、危険だと言っているんです」

「あのさ……宝箱の前で、毎回セーブすればいいんじゃない?」
 ハルナの一言に、二人とも口をつぐんだ。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 『調教くすぐり師の指』は三周年を迎えます。
 そこで登場するキャラ達をファンタジーの世界にぶっこんだらどうなるだろうと勝手に妄想して書きました。
 ちなみに、タイトルの『SOLE TICKLER』。
 sole には「たったひとりの」という形容詞以外に「足の裏」という名詞がございます。そこで sole tickler 誰のことなんでしょうか。あとカタカナで読めば「ソウル・ティックラー」。「魂」「根源」「指導者」などの意味を持つ soul と音をかけ合わせて……。
 ものすごくどうでもいい部分にもこだわってみるのがertスタイルです。
 
 コチラもどうぞ!

第三奴隷のくすぐり調教

「……ん」
 T高校二年K組の図書委員山本美咲(やまもと みさき)はうっすらと目を開いた。

(何が、起こったのか?)

 美咲は自身が仰向けに寝そべっていることに気付く。どうやら、ベッドの上のようだ。
 起き上がろうとして、ぴくりと眉を寄せた。
 両腕両脚がX字に引き伸ばされ、手首足首をロープで縛り付けられている。
 ギシっとロープのきしむ音がする。
 美咲は目を左右に走らせながら、気を失う前の記憶をたどる。

(確か、陽菜(はるな)さんに誘われ、家にお邪魔して……)

 目の前に二年K組学級委員長佐藤蓮(さとう れん)の姿があった。

(あ……)

 思い出した。

『やあ山本美咲さん。実はここ、僕の家なんだ。ハハッ』
 玄関先で蓮にいきなり霧状のスプレーを顔に吹き付けられ、美咲は気を失ったのだ。
 即効性の催眠スプレーなど、一体どこで手に入れたのかはわからない。
 
 蓮の後ろに、同じくK組学級委員長斉藤陽菜(さいとう――)、K組の伊藤莉子(いとう りこ)が慎ましく並んで立っている。

(陽菜さんも、グルだったわけですか……)

 美咲は、心底残念に思う。
 友人の裏切り行為に対しては何の感情も湧かないが、軽々と誘惑に乗って他人の家に上がりこんだ自身の迂闊さには、大きな憤りを覚えた。
 陽菜や莉子が何の目的で蓮に協力しているのかは理解できない。莉子は浅はかだが、陽菜は学級委員にふさわしく的確な状況判断ができる人間だと、美咲は認識していた。その陽菜が協力するという事は、それなりの代償があるはず。しかし、それを推測するには情報が不足している。
 ならば、自分がこれから何をされるのかを考えるべき。
 ロープの拘束は固く、自力での脱出は不可能と判断される。
 男子が女子を家に監禁、拘束して、やること。それはおそらく、性的な加虐行為だと予測された。
 
「委員長。これはどういうことですか?」

 美咲は思考を十分に巡らせてから、口を開いた。
 自力での脱出が不可能である今、自分に残された選択は覚悟を決めるしかない。次の問題は、この後自分に降りかかるであろう行為の後、どう対応するかである。

「山本美咲さん、僕は君が好きだ」
 蓮はさらりと言った。
「は?」
 思わず美咲は聞き返す。

 ストレートな愛の告白がくることは、美咲の予測になかった。
 褒め殺し、もしくは、下品なサディスト宣言か……。いずれにせよ、普段の学級委員としての佐藤蓮のイメージを崩壊させるものには変わりないと思われたが。
 蓮の言葉を反芻し、美咲はギリと奥歯をかみ締めた。
 独りよがりな愛情表現は、美咲の忌み嫌う行為のひとつであった。
 いや、それ以前に、蓮の言い方や表情がどうも打算的に見え、蓮が本気で恋愛対象として自分を認識しているようには思えなかった。

「委員長。ふざけてるんですか?」
「とんでもない!」
 蓮は言うと、ベッドの上の美咲の腰あたりにまたがり、
「君の心と、僕の心を、しっかりと通わせたい」
 言いながら、ブレザーのボタンを外した。

 蓮の不敵な表情は、美咲をぞっとさせた。

(自分の行為の異常性を認識した上で、自分を欺くために、ゆがんだ愛情、狂気を演じているのか……それとも本気か……?)

 美咲には蓮の目の奥になんらかの自信が垣間見えることが恐ろしかった。

「私をレイプする気ですか?」
 美咲は直接的な表現を選んだ。少し声が上ずった。

(イエスで良いが、絶対に許さない)

 美咲は覚悟を決めていた。
 蓮は答えず、美咲の顔を見ながらボタンを外し続ける。
 美咲を眺める視線はいやらしく舐めるようで、口元がほころんでいる。
「委員長。見損ないました」
 美咲は、蓮の態度を「イエス」と取った。
「私、絶対に泣き寝入りなんて、しませんから」
 蓮の顔をにらみつけ、冷たく宣言した。
 その様子を見た蓮は、やさしく笑みを浮かべ、
「レイプなんてしないよ。僕だって、絶対に、君を泣き寝入りさせたりなんてしない」

 美咲は眉をしかめた。
 蓮の言葉に嘘はない様子。

(本当にこのヒトは、一体何がしたいのか……?)

 蓮がこれから何をしようとしているのかまったくわからないことは、美咲を不安にさせた。

 すると蓮は、美咲のブレザーを観音開きにして、
「今日この瞬間は、君との愛の始まり。忘れられない快楽になるよ!」
 人差し指をいきなり美咲の腋の下へ差し込んできた。

「んぐ……っ!!?」

 予期せぬ刺激に、美咲の体が緊張する。
 体はとっさに腋を閉じようと反応するが、手首のロープが腕の降下を許さなかった。
 蓮の指先がこちょこちょと腋の下を刺激する。

「くっ……い、委員長!? ……何を?」

 美咲は混乱していた。
 なぜくすぐられるのか。まったく意味がわからない。

「あっ……、ぐ……!!」

 美咲は蓮の指から送られる『くすぐったさ』に耐えた。
 他人にくすぐられる経験がろくに無い美咲にとって、笑いたくもないのに笑い出しそうになる独特の感覚は新鮮だった。
 美咲はあまり他人に笑顔を見せることを好まない。
 それを知って、蓮は姑息な手段で、美咲を笑わせようとしてくるのか。
 美咲はぐっと奥歯をかみ締めた。

「おお、耐えるね。でも僕の愛はこんなもんじゃないよ?」 
 蓮は美咲の腋の下をくすぐりながら言った。

「な……、くっ……!」

 これが蓮の愛情表現だとしたら、絶対に受け入れるわけにはいかない。
 笑い声を上げると、蓮の思うつぼ。
 こんな奴に笑顔など見せたくないと思うものの、蓮は間違いなく、美咲が笑い声を上げるまでくすぐり続けるだろう。
 美咲は、自分の置かれた異常な状況に絶望すると同時に、蓮の意向を裏切りたい一心で抵抗を続ける決意をする。

「何が、……愛ですか、……ぐ、こんなことっ!」

 蓮の指から送られてくる『くすぐったさ』がどんどん強くなってきた。
 美咲のアバラや脇腹の上を、十本の指が這う。
「君が好きだよ」
 蓮は囁いた。
 まずい、と美咲は思う。
 蓮の指から送られてくる刺激は、思考を麻痺させるようで、蓮の言葉がうまく解析できない。
 警戒を解いていないにもかかわらず、一瞬蓮の言葉をすんなり受け入れようとしてしまった。

「あっ、……さっき、……聞きました、ぐ……っ」

 美咲は目線を宙へ泳がせた。
 くすぐったいという感覚は、これほどまでにきついものだっただろうか?
 単に笑いの衝動を引き起こすというだけでなく、心の壁をこじあけて、精神の内側へ無理やり侵入してくるような、そんな心地がする。

 そのとき、ぐりっとアバラをえぐられるような感覚。

「うぐっ!!?」

 蓮が鉤詰めのように曲げた人差し指で、美咲のアバラをほじくっている。
 美咲は奥歯をかみ締め「……んく、……」と笑いたい衝動を飲み込んだ。 
 油断をすると、本気で笑い出してしまいそうだ。
 自分の顔が紅潮しているのがわかる。
 くすぐったさに悶える姿を蓮に見られることは、不快だった。
 美咲は蓮に対する明らかな嫌悪感を確認するが、その嫌悪感が、だんだん、ぼんやりと霧がかかるように見えにくくなっていく感覚に困惑する。美咲は必死に『くすぐったさ』を押しのけて、思考を巡らせる。『くすぐったさ』はどこまでも美咲の思考を邪魔してきた。そして、把握した。脳内に蔓延る異物は、この『くすぐったさ』だ。しかし美咲にはこの『くすぐったさ』が、どうして自分の嫌悪感や思考にまで干渉してくるのか理解できなかった。
 くすぐったいという感覚は、相手への好意を示す防衛反応ではなかったか? 相手に敵意があるにも関わらず、どうしてこれほどまでに『くすぐったい』のか。どうしてこんなに、笑いたいのか。

 笑い出してはいけない。

 美咲が強烈な『くすぐったさ』の中、ぎりぎり出した結論はそれだけだった。一旦笑い出してしまうと、自分のすべてが壊れてしまうような気がした。
 
「しぶといねぇ。まだ心を開いてくれないのかい?」
 蓮が、タイミングを見計らったかのように言ってくる。
 美咲の意識が蓮の指先へ向かう。
 サワサワとアバラ骨を撫で回される感覚は、じれったく気持ちが悪い。
 ごりごりと骨をしごかれる感覚は、腹の底から無理やり笑いを引っ張り出そうと迫られているような、強引さを感じる。

「くっ……ふっ……、ん」

 言葉が出ない。
 美咲は、乱暴に侵入を続ける『くすぐったさ』と戦うのに必死だった。
「答えてよ」
 蓮はふぅっと美咲の耳元で息を吐いた。
 
「ふぁっ!?」

 不意打ちだった。
 指から脳へ『くすぐったさ』が一気に流れ込んでくる。
 美咲は「……んぐ」と唇をかみ締めて、
「へ、変態……」
 佐藤蓮という人間に向けて、精一杯の嫌悪感を示した。

 蓮は「好きだ」と直接的な愛情表現を口にしながらくすぐってくる。
 美咲には蓮の口から出る言葉が、空虚に感じられる。

「く、……んぅっ……」

 美咲は『くすぐったさ』に体が熱くなるのを感じた。
 突然、蓮が美咲のお腹辺りのワイシャツのボタンを外した。
「い、委員長……っ! や……っ」
 お腹が露出してつめたい。
 美咲は焦った。

 素肌を……、あの指で……?

「可愛いおへそだね」
 蓮は、人差し指を美咲のおへそへ当てた。

「あぁっ!?」

 美咲は腹部の奥がぞくりと疼くのを感じた。
 人差し指でへそをほじくる感覚がもぞもぞと全身へ伝わる。

「やんっ……ばっ、ひっ、くぅぅぅ!?」

 美咲は嬌声のような悲鳴をあげてしまう自分が情けなかった。
 へその周囲をくるくると指先で円を描くようになぞられ、たまらず下半身を緊張させる美咲。

「ふぅく……っ!? もう、ひ、ひ……、いい加減に……っ!」 

 膝をがくがくと揺らして悶える美咲に、蓮は再び「好きだ」と囁いく。
 美咲は目を引き攣った顔で、蓮をにらんだ。

「……んぅ、ぐっ」

 素肌のお腹をいじり倒され、言葉が出ない。
 襲い掛かる『くすぐったさ』はどんどん増幅していくばかりである。
 美咲はあまりの『くすぐったさ』に目を開けていられなくなり、ぎゅっと目を閉じた。沸き起こりそうになる笑いを必死に腹の奥へ抑え込む。

「美咲、君は強い」

「んぐっ……!? あふぅっ……!!」

 蓮の声とともに突然膝小僧に刺激が生じた。
 美咲の膝小僧の上を蓮の指がこちょこちょと這う。

「んんっ……だ、だめ……っ!」

 直に皮膚から伝わる『くすぐったさ』の攻撃力は凄まじい。
 笑いを必死に押し殺すうちに、美咲は呼吸もきつくなってきた。

「美咲の強さが欲しい」

「……ん、はっ? ……んなっ」 

 蓮の言葉が明確に聞こえてきた。

「僕には君が必要なんだ。だからどうか、僕を受け入れてくれないか?」

 蓮の言葉は、美咲の精神に大きく響いた。
 体は限界。
 いっそのことこの『くすぐったさ』に身を委ねてしまった方が楽になれるかもしれない。
 しかし……

「美咲。好きだ。君の力になりたい」

 笑い出してはいけない。

 美咲は自身の出した結論に確信を持ち始めていた。明らかに、自分の思考回路に変化が生じている。普段の自分ならば、蓮の「受け入れてくれないか」という表現にここまで精神が揺れることはない。一瞬たりとも、「もう笑ってしまっていい」などと、思うはずが無い。確実に、この『くすぐったさ』は、自分の基準を根底から揺るがす異物。ウィルス。癌。
 笑い出してしまったら最後、『くすぐったさ』の侵入に歯止めがきかなくなり、自分の中の価値基準が、すべて書き換えられてしまう。

「んんん~~……」

 美咲は首をぶんぶんと振り、思考を邪魔する『くすぐったさ』を振り払った。

 蓮はくすぐる指を止めると、美咲の必死の抵抗をあざ笑うかのように、美咲の右足の靴下を脱がした。
「美咲。すごく魅力的な足だよ」
「……っ」

 美咲は、しまった、と思った。
 蓮の言葉で、美咲の意識は一瞬で自身の足へ向けられた。
 その瞬間、美咲の右足の裏に強烈な『くすぐったさ』が走る。

「ひゃんっ!!!? ふひぃっ……くひぃぃっ!!」

 たまらず美咲の口から、笑いがこぼれ落ちた。
 右足は親指と人差し指を蓮につかまれ、自由を奪われた。
 土踏まずを爪の先でカリカリとくすぐられ、かかとから足指の付け根までをなで上げるようにくすぐられる。

「ひゃひぃっ!!? ひぃっ! ひひ、だはっ!? だめっ!! ふくぅぅぅひぃっ!?」

 美咲は必死に笑いを抑えようとするが、無理やり抑えつけた先からどんどん笑いがあふれ出てくる。素足を直にくすぐられる感覚は想像以上にきつい。『くすぐったさ』の侵入を防ぐことはもはや不可能、と、美咲が悟った瞬間、

「美咲。君も僕を求めている。一緒に楽しくなろう?」

 蓮の言葉と一緒に、足の裏から侵入した膨大な『くすぐったさ』が全身へ駆け巡った。
 
「くふぅぅぅぅ……っ!!!? ひっ、ひっ……ひひゃっ!! ひひひひゃひゃひゃひゃっ!! ひゃっはっはっは~~~っ!!!」

 美咲は、ついに笑い出してしまった。
 同時に『くすぐったさ』が勢いよく、美咲の内側へ侵入してくる。頭の中はたちまち『くすぐったさ』で満たされ、何も考えることができない。

「ひゃひゃっひゃっひゃ~~~!! くひゃっ、いひひひひひひ~~~」

 美咲は体を仰け反って、狂ったように笑う。
 次から次へと流れ込む『くすぐったさ』にまったく対応できない。

「陽菜、莉子」
 蓮の言葉で動いた陽菜が美咲の脇腹をくすぐってきた。

「はひゃっ、はひゃひゃひゃ!! はるな、さんっ!! なんでっ、ひひひひひひひ~~」

 陽菜は薄ら笑いを見せた。美咲は怪訝に思うが、すぐに『くすぐったさ』に押し流された。
 莉子は美咲の足下で左足の靴下を脱がし、足の裏をひっかくようにくすぐってきた。

「いひひひひひっ~~、ひひひっ~~、ひっひっひっひ」

 美咲は『くすぐったさ』に翻弄され、三人のクラスメイトによってたかってくすぐられているこの異常事態すら、笑いたくなるほどおかしな状況に感じられた。

「可愛いよ。美咲」
 蓮の甘い言葉が、美咲の耳に届く。

「ひゃっはっはっは、そんにゃっ、ひひっ! ふざけひぃぃっ?!! いっひっひっひっひ~~」

 美咲は、抗おうとした。
 とにかく、蓮の言葉を否定したい。その一心。それ以上の思考は不可能だった。

「ぐひっ!! ぐひっ、いぃぃぃひひひひひひひひっ!!! ひひゃひゃひゃ~~」

 足の指が反らされ、足の裏を激しく掻き毟られる感覚。

「美咲の指の間、きつくて気持ち良いね?」

「ふひゃぁぁぁっ!!? ひゃひひひひひひひっ、ひゃめっ!! ひゃめぇぇぇぇぇひひひひひひひひひひ~~っ!!!」

 足の指と指の間に、無理矢理、指がねじ込まれる感覚。

「くふぅぅぅひぃぃぃ~~っひっひっひっひっひっひっひ!!!! もぅっ、ひひゃぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!」

 あらゆる感覚が、笑いたくなるほど、おかしく、新鮮に感じられた。
 美咲は自身の口から涎が吹き出し、目からは涙があふれ出ていることに気付く。
 屈辱。
 美咲の中には、佐藤蓮に対する嫌悪感が残っていた。
 その嫌悪感も『くすぐったさ』の前では無力だと、美咲は悟っている。
 自分の中で、すべてが『くすぐったさ』に壊されていく。
 壊されたくない。
 が、壊されるのは時間の問題。
 悟ってしまった自分が憎い。悲しい。……

「はひゃっひゃっひゃ!!? ひぃぃぃ~~っひひひひひ~~っ!!!」

 お腹、足の裏から送り込まれる高圧電流のような激しい『くすぐったさ』によって、たった今生じた怒りや悲しみは瞬く間に『くすぐったさ』の波に飲まれ、見えなくなった。

 あとどのくらい笑い続ければ、すべての書き換えが終わるのか、美咲には計算できない。
 そんな絶望を、あとどのくらい持ち続ければよいのか、美咲にはわからなかった。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 2012年に小説スレに投稿した作品『調教くすぐり師の指』の第三話山本美咲編の被害者視点バージョンです。
 2014年1月25日にpixivで実施したリクエスト企画にて見送らせていただいた、fe様のシチュ「美咲さんをとことんくすぐって欲しいです。シチュは美咲さんだったらなんでも有りですけども、くすぐり効かないよって顔している美咲さんを徐々にくすぐって降参させたい」を参考に書かせていただきました。
 一度こんな感じの既投稿作品アレンジをやってみたかったので、この機会を利用させていただきました。
 読み返してみると、「降参」まで行ってないですね\(^o^)/ あくまで「参考にさせていただいた」ということで、ご了承ください。

笑いは百薬の長

 T高校一年G組の保健委員宮崎里奈(みやざきりな)は、クラスメイトの小山春花(こやまはるか)の体調が気になっていた。
 春花は身長150cm程度、髪の毛をツーサイドアップに結んだ病弱な女の子で、よく倒れる。春花が授業中に倒れるたびに、里奈が保健室に送り届けてやる光景は、すっかりG組では見慣れたものになっている。
 本日春花は三時間目の授業中に倒れ、午前中は保健室で休んでいた。昼休憩の後教室にもどってきたのだが、五時間目が始まってからずっと顔色が悪い。
 授業が半分ほど進んだところで、春花は教師に体調不良を訴え、保健室へ行く旨を伝えた。教師が指示を出す前に、里奈は「私が連れて行きます」と席を立った。
「いつもごめんね。宮崎さん」
 保健室に向かう途中、春花は心底申し訳なさそうに顔をゆがませる。
「小山さん。無理しないで……」
 里奈は身長約163cm、ショートボブで、春花と並んで歩くと見事なでこぼこコンビに見えた。
 入学式の日、偶然トイレに訪れた里奈が気分悪そうにうずくまっていた春花の背中をさすってやったのが、二人の出会いだった。里奈が保健委員に立候補したのも、春花を気遣ってのことだった。

「失礼します……」 
 里奈は春花の背中を支え、保健室に入る。
 保健室の中は無人だった。
 里奈は一番奥のベッドに春花を連れていった。
「小山さん。ここで休ん……でっ!?」
 振り向き際に突然、春花が里奈をベッドに押し倒した。

●●●

 突如ベッドの下から現れた四本のマジックハンドが、里奈の四肢を掴み、拘束する。
「え……っ、何?」
 里奈はまったく状況が飲み込めず、当惑する。身体が大の字に引っ張られ、ベッドの上に仰向けに押し付けられる。
 その様子を見下ろす春花の手には、リモコンのようなものが握られていた。
「……小山、さん?」
 里奈が春花の顔を見上げて言う。いやらしくぎらついた春花の眼差しが突き刺さる。いつもおどおどとしていた春花はと別人のように感じられた。
「ごめんね。宮崎さん。もう私、今朝までの私じゃなくなっちゃったんだ」
 春花はベッドの上に膝を乗せ、里奈のブレザーのボタンを上から順に一つずつ外し始めた。
「なっ……それって、どういう……?」
 動揺する里奈。
 春花は里奈の上着を大きく広げると、平坦な里奈の胸にワイシャツの上から手を置いた。
「きゃっ!?」
「ねぇ、宮崎さん。こういうのは嫌い?」
 春花は里奈に添い寝するように横になると、人差し指で里奈の胸の周りをさわさわと触り始めた。
「ひゃっ……ちょっ! ちょっと、小山さんっ……やめっ、く、ふくっ、くすぐったい……」
「あ、宮崎さん、案外くすぐったがりなんだぁ。ちょっとクールなイメージがあったから強そうに見えたんだけど」
 春花は甘ったるい声を出しながら、人差し指で里奈の腋の下をほじくる。
「あはっ、あはははっ……やっ……何っ!? 小山さん……んふっ、やめて」
 突然のくすぐったさに思わず吹き出してしまったが、なんとか耐え、身をよじる里奈。
「へぇ、耐えられるんだぁ? じゃあこんなのはぁ」
 言いながら春花は、指先で里奈の脇腹をつんつんとつついた。
「ひっ!!? ひゃ……っ!! ちょ、やだっ! やめっ……小山さんっ、ホントにっ! いひっ……どうしたのっ! ……んひっ!?」
 里奈は混乱していた。
 明らかにこれまでの春花の態度ではない。彼女にいったい何が起こったのか……?
 ふいに立ち上がる春花。
「教えてあげる。宮崎さん。見て、ここのベッド、全部新調されているでしょう?」
 里奈は、春花の責めの余韻で息を切らせながら、保健室内のベッドを見渡した。
 確かにベッドの形が若干変わっているようだ。
「『こちょこちょベッド』って言うんだって」
 里奈の足下に移った春花は、里奈の両足からローファーを脱がした。
「こ、こちょ、こちょ……?」
 里奈は戸惑い気味に復唱した。
「午前中。私、このベッドにい~~っぱい、こちょこちょされちゃった」
 春花はえへへと笑いながら、言葉をつなぐ。
「最初は苦しかったんだけど、だんだん頭の中がぼーっとしてきて、……そしたらね、昼休みに生徒会長さんがやってきたの……」
 春花がリモコンをいじると、ベッドの下から計十六本のマジックハンドが現れ、里奈を取り囲んだ。
「ひっ!?」
 思わず悲鳴を上げる里奈。
「あ、言われたとおり操作できたぁ」
 春花は嬉しそうに言い、
「会長さんにくすぐられたら、私、本当に、本当に、気持ちよくって頭の中がとろけそうになっちゃったんだぁ……うひっ」
 春花は思い出したのか、涎をたらして笑った。
 里奈はぞっとする。
「こ、小山さん、まさか……」
「書記の人に言われたの。五時間目の間に保健委員さんを連れてきて『こちょこちょベッド』でくすぐっておくようにって。そしたら私、会長さんにまたくすぐってもらえるんだぁ。だから、宮崎さん。ごめんね。うひっ」
 春花がリモコンを操作すると、十六本のマジックハンドが、一斉に里奈の身体へ襲い掛かった。

「――っ、はっ!!! あぁぁぁぁっははっはっはっはっはっはっはっ!!? だっ、駄目ェェぇ~~っはっはっはっはっはっはっは~~っ!!!」
 首、腋の下、胸、あばら、脇腹、脚の付け根、足の裏と、くすぐったい部分を一度にくすぐられ、里奈は悲鳴を上げた。

「宮崎さんが大声で笑うところ、私、はじめてかもぉ」
 ふふっと笑みを浮かべる春花。
「嫌ぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!! くすぐったいっ!! くすぐったいよぉぉ~~っふぁっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 里奈にとって、全身をくすぐられるのは初めての経験だった。
 しかも、くすぐってくるマジックハンドの力加減が絶妙で、里奈に耐え難いくすぐったさを与えた。
 首は撫でるように、腋の下はほじくるように、胸はいじくるように、あばらはほぐすように、脇腹はこそぐように、脚の付け根はえぐるように、足の裏はひっかくように……。
 マジックハンドの指がわきわきと、里奈の体中で蠢く。
「やだぁぁぁっはっはっはっはっ、くすぐったいぃぃぃっひっひ、こやっ!!! 小山さんとめてぇぇぇぇっへっへっへっへっへ」
 里奈は必死に身体をよじり、マジックハンドの指から逃れようとするが、左右から押し付けられた指が皮膚に食い込み、どうしてもくすぐったさから逃れらない。
「駄目だよ宮崎さん。機械とめちゃったら、私が会長さんにくすぐってもらえなくなっちゃう……。それに、宮崎さんもすぐ気持ちよくなってくるから」
 里奈は、朦朧とする頭で春花の言葉を咀嚼し、ぶんぶんと首を左右に振り、
「やぁぁっはっはっはっは!!!! 嫌あぁっぁっはっは、きもち……っ!!! 気持ちよくなんかなりたくないぃぃぃ~~っひっひっひっひっひっひ!!」
「やみつきになっちゃうよ」
「やだぁぁぁっはっはっははっはっはっ!!! 狂ってるっ!! ひっひっひ、小山さんおかしいよぉぉ~~っはっはっはっは!!!」
 腹の底からわきあがってくる笑いが抑えられない。
 里奈は、涙を流して春花に抗議した。
「あぁっ、宮崎さんそれはひどいよぉ」
 頬を膨らませて見せた春花は、「えいっ!」とリモコンのボタンを押した。
 途端、マジックハンドの動きが活発になった。
「いっ!!!? いやぁはははははははははっ!!!! 何ぃぃぃぃっ!!! 何したのぉぉぉ!!?」
「宮崎さんが私のこと馬鹿にするからだよ。ちょっとくすぐりを強めてみたの」
 春花は満面の笑みを里奈に見せた。
「やぁぁぁあっははははははははははっ!!!! こやっ!!! 小山さんやめてぇぇ~~っはっはっはっは!!! これっ、ひぃぃぃ~~ひひひひひひひひひ、これきつすぎるぅぅ~~ひゃはははははははっ!!!」
 里奈はびくびくと身体を小刻みに震わせて泣き叫ぶ。

「あ、このボタンは何かなぁ?」
 春花は首をかしげて言うと、再びリモコンの何かしらのボタンを押す。
 すると、首と脇腹をくすぐっていた計四本マジックハンドがベッドの下へひっこむ。
「あっはっはっはっはっ、何っ!!? 何したの小山さんっ、ひっひっひっひっ」
 すぐにもどってきた四本のマジックハンドには羽箒と孫の手が握られている。
「いやぁぁっはっはっはっ!!!? そんなっ……そんなの駄目ぇぇぇっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 里奈の哀願むなしく、羽箒は首筋、孫の手は両脇腹へ襲い掛かった。
「うはぁぁぁ~~っはっはっはっはっは!!! あぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!! ぐほっ、ひゃぁぁぁ~~っはっははっはっはっは!!」
 羽箒のぞくぞくとする感触、孫の手のぞりぞりとひっかかれる感触がたまらなくくすぐったい。
「いぃぃぃ~~っひっひっひっひっ!!! ひぃぃっひっひひ、死ぬぅぅ~~っほっほ、死んじゃうぅぅ~~っはっはっはっは!」

「じゃあこのボタンは?」
 春花は再びリモコンをいじろうと手をかける。
「ちょっとぉぉ~~っはっはは、遊ばないでっ! 小山さ……なははははははっ!!! 遊ばないでぇぇぇっ!!」
 里奈は叫ぶが、春花はにっこりと何らかのボタンを押す。
 すると今度は、内股をくすぐっていた脚をくすぐっていた一本がスカートの中へ侵入し股間をまさぐり、足裏をくすぐっていた二本がそれぞれ櫛と耳かきを持ち出してきて、足裏をかりかり引っかき始めた。
「あひゃっ!!!? きぃぃぃっひっひっひっひっひっ駄目駄目駄目ぇぇぇはははははははっ!!! 駄目だってばぁぁぁはっはっはっはっはっは!!!」
 スカートの中ではマジックハンドの指がいやらしく踊り、ソックスを履いた両足の裏では櫛と耳かきが的確に土踏まずを責めてくる。
「あぁぁっはっはっはっ!!! もういやっ、もう嫌ぁぁぁっはっはっはっはっはっは~~!!!!」

 五時間目の終了チャイムがなる頃には、すっかり里奈の声は枯れ、全身汗びっしょりになっていた。

●●●

「やあ、里奈、楽しんでるかな?」
 少し前の選挙で就任したばかりの佐藤蓮(さとうれん)生徒会長が、里奈の顔を覗き込んできた。至近距離で見る会長の顔は、なかなか格好良かった。里奈は、きっと鼻水と涎であろうぐしゃぐしゃな顔を見られ、恥ずかしかった。
「……た、楽しく、ないです」
 里奈は、息を荒くして答えた。
「会長さぁん。早く私をくすぐってくださぁい」
 隣の『こちょこちょベッド』で春花が艶かしい声を出した。上着と靴を脱ぎ、自ら大の字に寝そべり拘束されて、準備万端と言った感じだ。
「春花。里奈が終わったらすぐやってあげるから、それまで待っててね」
「そんなっ、会長さぁ~~ん……約束してくれたじゃないですかぁ。私待てないですぅ」
 駄々をこねる春花。
 そのとき、会長の隣にいたポニーテールの女子生徒が会長の袖をちょいちょいと引っ張った。
「佐藤君。休み時間、あと六分しかないよ。あんまり喋ってると……」
「ありがとうハルナ。聞き分けの悪い春花にはちょっとお仕置きが必要だね。ハルナ、そっちは任せるよ」
「うん」
 言うと、ハルナと呼ばれた女子生徒がリモコンを操作した。
 途端、春花の無防備な身体に計十六本のマジックハンドが一斉に襲い掛かった。
「やっ!!!? きゃははははははっ!!? あぁぁぁんっ、会長さぁぁんっ、にゃはははははははっ!!! お願いっっひっひ、会長さんの指でぇぇぇ!! うはははっ、会長さんの指でぇぇぇっ!!! ふにゃぁぁぁ~っはっはっはっはっは~~っ!」
 春花は高くかわいらしい笑い声を上げた。身体をねじり、髪の毛を振り乱し笑い狂う姿は、病弱な春花のイメージと程遠い。
「春花ちゃん。順番は守らないと駄目だよ」
 ハルナは、めっと諭すように春花に声をかけた。

「さて、里奈。くすぐりには慣れたかな?」
 佐藤会長は、言いながら里奈の両足からソックスを脱がし取った。
「……な、慣れません」
 里奈は正直に答えた。
 佐藤会長が何をしようとしているのかは予測できたが、大笑いして疲労困ぱいしており、頭がうまく回らない。
「……か、会長さんは、なんで……こんなこと」
 佐藤会長は里奈の質問には答えず、里奈のエジプト型の扁平足に指を這わせた。
「あっ、あぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!?」
「里奈は今日から、僕のくすぐり奴隷になるんだよ」
 佐藤会長の指が、しゃりしゃりと里奈の足の裏で音を立てる。
「やはははははははっ!!? くすっ、くすぐり奴隷って何ですかぁぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 佐藤会長は答えてくれない。
 かわりに、右足の親指と人差し指の間に、会長の指がねじ込まれた。
「うひゃっ、ひゃっはっはっはっはっ!!! 駄目ぇぇぁっ、やめてぇぇぇ~~かっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 里奈は、これまでに経験したことのない異様なくすぐったさにパニックに陥る。
 足の裏から送られてくる刺激は強烈で、直接の頭の中へ指をつっこまれ脳をぐるぐるとかき回されているような感覚がした。
「がぁぁぁぁ~~っはっはっはっはっはっ!!! 何コレぇぇぇっひゃっひゃっひゃ! おかしぃっ!! おかしぃぃぃっひっひっひっひっひ~~」
 里奈は隣から聞こえてくる春花の甲高い笑い声をかき消すような大声で笑い狂う。
「楽しくなってきたかい?」
 佐藤会長の四本指を、左足のかかとに感じた。右足は、土踏まずを二本の指でくすぐられている。
 会長の言葉とくすぐったさが、脳内に一度に流れ込み、雑念が押し出されていく。
「あぁぁぁあっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! 嫌あぁぁぁはははははははっ、狂うっ!!! ひひひひひひ、おかしくなっちゃうぅぅぅううっはっはっはっはっはっはっ!!!」
 里奈は自分を保とうと必死だった。
 が、見えないはずの足の裏の様子が、頭に浮かぶ。
 佐藤会長の指が踊り狂う。
 くすぐったい。
 左足の指を反らされ、指の付け根をがりがりと掻き毟られる。
 くすぐったい。
 脳裏の映像が鮮明になっていくにつれ、余計にくすぐったさが身体を支配していく。
「がぁぁぁぁっはっはっははっ、だっひゃっひゃっひゃ!!! うひぃぃぃぃ~~ひゃひいひぃひぃひぃ」
 
「どう? 里奈。僕の指、もっと欲しくないかい?」

 あ。

 里奈は、ぷつんと頭の中で何かが途切れる感覚がした。
 途端、強烈な欲求が、頭の内側から温泉のようにあふれ出てきて、からだ中を駆け巡った。

「あははははっ、もっとぉぉぉ~~っはっはっはっはっはっ、もっとくすぐってくださいぃぃぃ~~っひっひひひひひひひひひひひっ!!」
 里奈は涙を流して懇願した。
 里奈は驚き戦いた。

 どうして私は『もっとくすぐられたい』なんておかしなことを思って――

「あぁぁぁあひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!? ぐひゃひゃひゃひゃひゃっひぃぃ~~~ひひひひひひひっ!!!」
 両足の土踏まずが思い切り掻き毟られる。
 里奈は、一瞬脳裏をよぎった疑問を完全に忘れてしまった。

「にゃっはっはっは!! 会長さぁんっっはっはっはは、早く私をぉぉ~~、私をくすぐってぇぇ!!」
 隣の『こちょこちょベッド』で春花が叫んでいる。
 里奈は、佐藤会長が『春花ではなく自分をくすぐってくれていること』に、優越感を覚えた。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 このシリーズ、案外受け視点と相性がよさそうだったので、書いてみました。
 就任した明朗快活な新人生徒会長の黒い噂!? 最近、生徒会執行部員に続いて、どうやら専門委員長達の様子もおかしい!? 専門委員会一般生徒に忍び寄る影!

美咲流くすぐり拷問

(文化祭当日13時14分)

「林さくら(はやしさくら)。15歳。1年A組在籍。所属部活動、無し。4月時点での身長は153.9cm。体重が4――」
「や、やめ、やめて」

 林さくらはオドオドとどもりながら制止を求めた。
 T高校第一共用棟ジャーナル部の取調室にて、さくらは制服の上着を脱がされたワイシャツ姿で椅子に縛り付けられていた。両手首を左右の肘掛に、両足首を椅子の左右の前脚に、腰から太腿にかけてを座の部分に、しっかりとロープで拘束されている。ローファーは脱がされているため、白い靴下を履いた両足が宙ぶらりんになっている。
 部屋の中央に椅子、椅子と向かい合う壁側に長机が置かれており、2人の女子生徒が面接官のようにさくらと対峙していた。

「よ、吉田さん。勝手に、個人情報を生徒会と全然関係ない人に漏らすのは、規則違反だよ……」
 さくらは、左右非対称でボサボサの前髪の間からわずかに覗く左目で、長机の1人をおそるおそる睨んだ。

「林さん。これは情報開示じゃないから、規則違反にはならないの。私は自分の記憶にある林さんの情報を、『データベースに関係なく』ただ喋っているだけ」
 綺麗なアニメ声で淡々と返すのは、ジャーナル部データ管理責任者の吉田心愛(よしだここな)。ウェーブがかったワカメボブの頭頂部からアホ毛がぴょこんと飛び出している。
「残念だけど、ヨッシーに屁理屈で勝つのは無理だよ。生徒会則に一応目を通してるのは好感が持てるけどね」
 心愛の隣に座るジャーナル部員の清水希(しみずのぞみ)は、鼻でさくらをフォローした。
「希? いつも言っているけど、私のは屁理屈じゃなくて、ただ規則に準じた発言を――」
 心愛が少しムッとしたように言いかけると、
「お2人とも。尋問対象の言葉にいちいち耳を傾けないでください。時間の無駄です」
 長机と反対側の壁にもたれかかって腕を組んで立っていた山本美咲(やまもとみさき)が、じろりと流し目で心愛と希を交互に睨みつけた。文化祭当日で魔女を模した真っ黒なローブを身につけているせいで、普段以上に厳格な雰囲気を醸し出している。

 希はごくりと唾を飲んだ。
「す、すみませんっ」
「吉田さん。早く続けてください」
 希の謝罪に被せるように、美咲はやや苛立った声を上げた。
「失礼しました、山本先輩。続けます」
 心愛は特に動じた様子も無く淡々と述べ、さくらの頭越しに美咲へ軽く目線を送ると、『尋問対象』の説明を再開した。

「――対人関係において、目だったトラブルはありません。クラス担任は『妥協癖があるが、やり通す力は充分にある。友人を大切にできる生徒』と評価しているようです」
 心愛は空でスラスラと説明を終えた後で、
「今申し上げた情報は私の『曖昧な』記憶と印象によるもので、あくまで個人の見解にとどまるものです。ジャーナル部のデータベースとの関連は一切ありません」

 心愛がふうと息をつくと、目を瞑って聞いていた美咲はゆっくりと顔を上げた。
「……吉田さんありがとうございました。ある程度の人間性は把握しました。では」
 美咲は歩を進め、椅子に縛られたさくらと正対した。
「尋問を始めます」

◆◆◆

「林さくらさん。私は2年K組の山本美咲といいます。これからいくつか質問しますので、私の顔をしっかりと見て、簡潔に答えてください」
「……は、はい」
 さくらは怯えたように声を絞った。

「第一問。あなたは何をもって、第四共用棟二階のお化け屋敷が『不正かもしれない』と思ったのですか?」
 さくらはうつむく。
「答えてください」
 美咲はぐいっとさくらの顔を覗き込んだ。
「私は、あなたが本日11時32分に、お化け屋敷を訪れたことを、あちらで清水さんが持っている入場者名簿を見て知っています。その後、ランチ時間を利用してジャーナル部の記者である清水希さんに『不正かもしれない』と告発したことも知っています。時間稼ぎは無意味です」
 美咲が語気を強めると、さくらは目を泳がせながらゆっくりと口を開いた。
「ほ、他の階の、教室を回ったときと比べて……その、なんていうか、感覚が、狭いなって」
「って?」
 さくらはビクビクと身体を震わせ、目をしばたたきながら言葉を繋ぐ。
「……感じました。そ、それで、変だなって思っていたら、……入場するとき書いた名簿欄の4つ前の人に、追いついちゃって。一部屋だけ、防音が他の部屋よりしっかりしてるのに、装飾だけの部屋があって……。もしかしたらと、思い、ました」

 美咲はさくらの目を見て頷いた。
「林さん。なかなかの洞察力ですね。……そんなに怯えないでください。正直に答えていただければ、私は何もしません。怯えながら言うと、本当のことも嘘に聞こえますよ? この尋問に裁判のような公平性は一切ありません。私があなたの証言を嘘と判断した時点で、拷問に移らせていただきますので、あらかじめご理解ください」
 美咲は一瞬表情を和らげてさくらに微笑むと、すぐに表情を引き締めた。

「第二問。あなたの命運を左右する重要な質問ですので、慎重に答えてください。あなたは、清水さん以外の誰かに、このことを喋りましたか?」
 美咲はじっとさくらの目を見た。
「……っ」
 さくらは一瞬目を細め、質問の意味がわからないというような表情を作った。
 美咲は落胆したようにため息をついた。
「はい、いいえ、どちらですか?」

「……い、いいぇ――」
「肯定と見なします。第三問。あなたが情報を漏らした相手の人数は、何人ですか?」
 美咲は、急かすようにさくらの顔をにらみつけた。
「……え、い、言ってませ――」
「1人?」
「……っ」 
 さくらはぐっと息を詰まらせ、一瞬の間を作ってしまった。
「2人以上ですね、わかりました」
「……っ!? ち、ちがっ――」
「第四問。林さんが苦痛を免れる最後のチャンスです。あなたが情報を漏らした相手をすべて、フルネームで言ってください。学年組も一緒にお願いします。3秒間待ちます」
 美咲は言い終えると、さくらの後ろに回り、さくらの両肩に手を置いた。

 さくらはビクッと肩を震わせた。
「……ま、待って、待ってください。私、しみ、清水さん以外には誰にも――」
「3秒経ちました。拷問に移ります」

●●●

 美咲は、椅子に縛られたさくらの後ろで、中腰になった。
「これから林さんに1分間の苦痛を与えます。1分後、同じ質問をしますので、きちんと返事を考えておいてください」

「ちょ、ちょっと待っ――」
 美咲は、まだ何かを言おうとするさくらを無視して、両手の指を左右から、さくらのがら空きの脇腹へグッと突き刺し、ぐにぐにと激しく揉み始めた。

「――んナッ!!? んぁはははははははははっ!? なぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

 さくらはビクンと大きく身体をくねらせると、目をぎゅっと閉じて激しく笑い始めた。

 美咲は親指でさくらの背側の肋骨を刺激しつつ、残り8本の指でお腹回り、横っ腹をむしる様にくすぐる。
「んゃぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!! なぁ~~っはっは、やめっ……ひふっ!! ぁっはっはっはっはっはっはっは~~」

 さくらの両手の指がわきわきともがく。
 目に涙を浮かべて笑うさくらの姿を見て、希は「へぇ……」と感嘆の声を漏らした。

「なぁぁっはっはっは、やめてっ!! やめてくださいぃ~~っひっひっひ」
 笑い続けるさくらの後ろで、美咲は黙々と指を動かし続けた。
 さくらは笑いながら制止を求めるが、美咲はまったく聞こえないかのように無言であった。

 さくらの肋骨を規則正しくしごき続けた美咲は、ちょうど1分経ってピタリと手を止めた。
「ぶは……っ、ヒィ、……ハァ」
 さくらはジュルリと鼻水を鳴らして、泣き腫らした目を瞬いた。たった1分でもかなり体力を削られたらしく、肩で息をしていた。

 美咲はさくらの後ろから再び問うた。
「林さん。あなたが情報を漏らした相手をすべて、フルネームで言ってください」 
「……ヒィ、……ちょ、ちょっと、や、休ませて――」
「3秒経ちました。拷問を再開します」

 美咲は言うと、いきなりさくらの腋の下へ両手の親指を押し込み、指先でグリグリとえぐるようくすぐり始めた。

「んはっ!!!? んぁ~~ははっはははっはははははっ!!! ちょっと、ぁぁっはっはっはっはっはっは、待ってェェぇぇえははははははははっ!!!」

「続いて2分間、林さんに苦痛を与えます。2分後に同じ質問をしますので、きちんと返事を用意しておいてください」
 美咲は、親指をさくらの腋の下の骨に押し当てたまま、他8本の指をバラバラに動かし、さくらの乳房の脇をくすぐる。

「んぃひぃぃ~~っひっひっひっひ、はがあっぁっ!!! さ、ひひひひひひひ、さっきよりきついぃぃ~~っはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

「林さん。その通りです。k巡目の体感くすぐったさは ak という値で単純化されます。aは拷問用に私自身の擽力から算出した定数。k巡目にk分間くすぐり続けますので、各巡目における林さんの苦痛は ak^2 で表せます。すなわち、n巡目までに蓄積する林さんの苦痛は ak^2 の総和 an(n+1)(2n+1)/6 になります」
 美咲はつらつらと言いながら、8本の指でさくらの肋骨を横から選り分けるようにくすぐる。
 長机では、希が「さすがっ」と目を輝かせるのと対照的に、心愛は「また語りだしたよ……」とでも言いたげに呆れた表情を作った。

「んやぁぁっはっはっはっはっははっ!! いぃぃ息がぁぁっはっはっはっは、息が、できないぃぃぃ~~~っひっひっひっひっひっ!!!」
 
 さくらは首を左右にぶんぶんと激しく振って笑う。両足両足の指はぴんと反り返り、身体中が攣ったように痙攣している。

「身体が限界のようでしたら、次の休憩時にきちんと私の質問に答えることをお薦めします。苦痛は、巡目値の2乗に比例して大きくなります。わかりますね? 林さんが黙れば黙るほど、林さんの身体はつらくなります。林さんが白状するまで、永遠と続きますので、決断の機会を逃さないよう気をつけてください。残り1分で再質問します」

 美咲は、両手を上下に動かし、さくらの体側を指で舐るようにくすぐっていく。さくらは美咲の指の動きに合わせ、左右に身を捩って笑う。
 数十秒で、さくらは根を上げた。
「んぁなぁっはっはっはっはっはっ!!! なぁぁぁ~~ふぁぁあっぁっ!!! わかっ……ひっひっひっひ、わかりましたっ!! 言いますっ!! っはっはっはっは、言いますからっ! 一旦やめてっ、んぁぁっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

「ダメです。残り30秒あります」
 美咲はまったく指の動きを緩めない。
「そひひひひひっ、そんなっ!!? んぁぁっはっはっはっはっは~~っ!! ぃひひひひ、かぁはっはっは、もぅ、息がぁぁっはっはっはっ……」

「繰り返します。決断の機会は逃さないように気をつけてください」

◆◆◆

 ぴったり2分経って、美咲は手を止めた。
「さて、林さん。あなたが情報を漏らした相手を全員、フルネームで教えてください」
 美咲は再度、後ろからさくらの顔を覗きこむようにして言った。
 さくらは、大きく息を吐いた。
「3、2、――」
「い、い、言いますっ! 言います。……ごめん。マオ、ナナミ。し、清水さん以外には、え、A組の、石井真央(いしいまお)と西村菜々美(にしむらななみ)……です」
 さくらはボロボロと涙を流しながらうつむいた。友人を売ってしまった自分が許せないのだろう。

「以上2名で、すべてですか?」
 美咲は、さくらの正面に移動し、表情を確認する。
「すべてです」
 さくらはうつむいたまま言いながら涙を流した。

「吉田さん。その2人と林さんはどういう関係ですか?」
 美咲はさくらの顔を見つめたまま、心愛に聞いた。
「はい。親友同士と判断して問題ないと思われます。普段から仲が良く、3人で行動することが多いようです」
「ありがとうございます。とりあえず……A組ということは、さっそく後藤姉が使えますね。清水さん。彼女と協力して、2人を至急捕獲してください。手段は問いません」
「わ、わかりましたっ」
 希は勢いよく席を立つと、足早に退出した。

「さて、林さん。第五問です」
「…………え?」
 さくらは、びっくりしたように顔を上げた。予想外すぎて涙も止まってしまったようだ。

「あなたは何故、お化け屋敷に彼女ら2人と一緒に訪れなかったんですか?」

 さくらはポカンとした。

「入場者名簿によると、林さんの名前の前後入場者は、林さんと無関係の人間です。つまり、あなたは1人でお化け屋敷を訪れたことになっています。何故ですか?」
「……そ、それは」
 さくらの目がフラフラと泳いだ。
「……林さん。あなた、まだ誰か庇っていますね?」
 美咲がずいっと顔をさくらの目の前に近づけると、さくらは目を逸らしてしまった。
「肯定とみなします。第六問。それは誰ですか?」
「……っ」
 さくらはぐっと息を詰まらせた。

「さきほどの責めを受けてもなお黙るということは、よほど大切なお友達ですか。石井さんと西村さんの名前を出せば、誤魔化し切れると踏んでいたんでしょうが、甘かったようですね。いいですか? あなたが黙っていると、あなたに関わりのある生徒すべてに迷惑がかかることになりますよ? あなたと同中の生徒から、あなたが体育大会の種目で一緒に走った生徒まで、こちらではすべて把握しています」
「……ジ、ジャーナル部の、デ、データ、ベースで、ですか?」
 さくらは、ゆっくりと口を開き、おそるおそる聞いた。
 美咲は、眉をひそめ、さくらの顔を凝視する。一瞬さくらの口元がピクリと緩むのを、美咲は見逃さなかった。

「なるほど、他校の生徒さんでしたか」
「……っ!!!!!?」
 美咲の言葉に、さくらは目を見開いた。すぐに「しまった」という顔になるが、時すでに遅し。美咲はさくらの表情を見て、してやったりという顔を作った。

「あなたは今、『こちらではすべて把握しています』に対して『データベースでですか?』という確認を行い、しかも一瞬安堵の表情を見せました。『こちらで把握しているすべて』が『データベースの範囲に限られること』を確認したがっているということは、あなたの庇っている人物が『データベースの範疇外』にある可能性を示しています。他校の生徒さんは入場者名簿に名前を書きませんから、私のあなたに対する疑問はすべて解消されるわけです。あなたは午前中その方と文化祭を回り、午後から石井さん西村さんと合流したのですね」

 さくらは美咲の言葉を聞きながら、わなわなと唇を震わせた。
 美咲はさくらに近づき、ワイシャツのボタンに手をかけた。

「もしかしたら、最初にお化け屋敷の違和感に気付いたのも、その他校の生徒さんだったんじゃないんですか? 最初の質問時のあなたの挙動は、怯え以上に、真相を口走りそうになった焦りによるものだったのですね」
 言いながら美咲は、さくらのワイシャツのボタンを全て外し、バッと観音開きにした。さくらの桃色のブラジャーが露になる。太っているわけではないが、腹から腰にかけての肉付きはやや寸胴である。
「……っ!」
 さくらは顔を真っ赤にし、耐え忍ぶような表情をした。

「林さんのこれまでの態度から察するに、その生徒さんはすでにこの学校内にはいないのでしょう。すなわち、林さんご自身の口から名前と学校名を聞き出すしか本人を探す方法が無くなったわけです」
 美咲は息継ぎ無しに述べながら、腕まくりをした。

「では林さん。その方の名前と学校名、ついでに住所を、教えていただけますか? ……あ、覚悟を決めて、もう口を開く気すら起こりませんか。そうですか。では、身体の限界が来るまで頑張ってください」

 美咲は一方的に言うと、もはや一切目を合わせようとしないさくらの身体に、両手を伸ばした。

●●●

 椅子に両手両足を縛られ動けないさくらは、正面から迫り来る美咲の指の動きに「ひぃ」と軽く悲鳴をあげ、ぎゅっと目を閉じた。
 美咲は、右手の人差し指で、さくらのおへそをちょんとつついた。

「んひゃぁぁ……っ!!!」

 びくんと身体を震わせるさくら。
 美咲は指先をちょろちょろと動かし、さくらのへそを断続的に刺激した。

「ひゃっ……んひゃぁ!! んっ……! んひっ、ひぃ、ひひっ、ひひひひっ、くぅぅ~~、やめ、やめてくださいっ」

「林さんには選択権があります。庇っている人物の名前を吐くか、笑い死にするか。お好きな方をお選びください」
 美咲は、くるくると人差し指の先で、さくらのへそ周りをいじる。
「ひぃぃ、ひひひ~~、んぃぃっひっひっひっ!! んぅぅうぅひひひひひひひひっ」
 さくらのお腹がひくひくと動く。

「3分後に再度お尋ねしますので、きちんと、返事する準備をしておいてください」
 美咲は言うとさくらの前にひざまずくような姿勢で、両手の指をさくらの素肌のお腹へ当て、こそこそとくすぐり始める。

「んぁぁぁっははっはっははっははっ!! んひゃぁぁぁぁぁ~~~ははっははっははははっ!!! やぁぁ~~っはっはは、だ、ダメぇぇっはっはっはっはっ」

 さくらの横腹からおへそまでの区間を美咲の10本の指が、うねうねと這う。

「ぁぁぁ~~っはっはっはは、んひぃぃひっひっひひっ!! なぁぁ~~っはっはっは、はははははははははっ!!」

 さくらは大笑いしながらガタガタと椅子を揺らして暴れ、手首足首のロープがギシギシと音を鳴らした。
 美咲の指が、さくらの横っ腹の背側部分、肋骨のちょうど下あたりに食い込むと、さくらは一段と大きな反応を示した。

「んひゃぁぁぁっっひゃっひゃっひゃひゃっ!!! あぁぁ~~ひひひひひひひ、そこはダメぇぇ~~っ!!」
 さくらの身体が左右に反る。
「ココが弱いんですか」
 美咲はさらに指先の力加減を調整し、クリクリとほじくるように、さくらの素肌を刺激した。
「んにぇぇぇぇっぇひひひひひひひひひひっ!!? んぁぁぁあぁぁぁひゃひゃひゃひゃっ!!」

 もともとボサボサの髪の毛をさらにボサボサに崩して、涙を撒き散らして笑うさくら。
 美咲はさくらのぐしゃぐしゃに歪んだ顔を下から覗き上げながら、
「なるほど。林さんは、この部分に対して『弱点』という意識があるようですね。……把握しました。他の部位も、このぐらい反応できるよう開発しますので、頑張ってください」
 美咲は冷淡に言うと、両手の指をすぐ上、さくらの乳房の真横に押し当て蠢かせた。
「んひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ダメぇぇっ、ぬぁぁぁひっひっひっひっひっひっひっひっひ~~っ!」

「かなり感度が上がっています。全身が『弱点』と化さないうちに、ギブアップすることをお薦めします」

●●●

 さくらの上半身を散々くすぐりまわした美咲は、ちょうど3分経って指をとめた。
「名前と学校名、住所をおっしゃってください」

「……ヒィ、げほっ、……ぅぐ」
 さくらは咳き込んだ。
 口元からは涎が滴り、鼻水も垂れている。
 身体がすでに限界であることは傍から見ても明らかだったが、さくらは美咲の命令に応じようとはしなかった。
 さくらは美咲の顔を見、ぎゅっと目をつぶると、苦しそうに首を左右に振った。

「この状況でわざわざ抵抗の意志を見せるとは、なかなか度胸がありますね。林さんの覚悟に、敬意を表します。私も誠意を持って、拷問させていただきます」

 美咲は言うと、腰をかがめ、さくらの座った椅子の左右前脚を持った。左右後脚を軸に、椅子をさくらごと、ガクンと後ろに倒す。
「っ、ひゅぁっ!?」
 さくらはバランス感覚を失い驚いたのか甲高い声を上げた。
 椅子の背もたれが床につくと、重力に従いさくらのスカートがひらりと太腿までめくれた。
「……ぁっ、やっ!」
 さくらが咄嗟にもがいたため、余計にスカートがめくれ上がってしまう。

 椅子の前脚にそって突き出されたさくらの両足。美咲はそのつま先を持ち、靴下をぐいっと一気に引っ張った。ぽんと脱がし取ると、さくらのやや赤みを帯びた素足が露になった。
 すべての指の長さが完全に等しい、教科書に載るような見事なスクウェア型だった。靴下越しでも輪郭がややぼってりとした印象だったので、脱がす前から偏平足であることは予想できた。

「4分後に、もう一度同じ質問をします」
 言うと美咲は、さくらの両足の裏をガリガリとひっかくようにくすぐり始めた。

「ッ、うはっ、んひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ぬゃぁぁぁっはっはっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

 さくらは膝を左右にがくがくと揺らして笑う。
 必死に足をひっこめようとしているのか、ギチギチとロープの軋む音が激しくなった。

 美咲の指の動きに合わせ、さくらの足はくねった。
「んゃぁぁぁ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! やぁぁぁっひゃっひゃ、やめてぇぇ~~っ! ひぃぃぎぃいぃぃ~~」

 さくらは激しく身体を震わせ、涙と唾を辺りに撒き散らしながら笑い続けた。
 2分ほど経つと、さくらの笑い声はかすれてきた。

「んがぁぁ~~ひゃっひゃっひゃっひゃ、……言うっ、んひひひひひひひっ!!! いいまずぅぅぅぅうっひゃっひゃっひゃ、いいまずがらぁぁぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ、もぅやめてっぇぇぇ~~」

 とうとう耐えられなくなったのか、さくらは目をひん剥いて懇願した。
 
 美咲はガリガリとさくらの土踏まずを掻き鳴らしながら、
「まだ2分弱あります。決断の機会は逃さないように気をつけてください」

「そんなっ、っひゃっひゃっひゃ、がぁぁぁ~~っひゃっひゃっひゃっひゃぁ!!!」 
 美咲の無慈悲な宣告に、さくらは涙を流して笑い続けた。

●●●

 4巡目が終了し美咲が手を止めると、さくらはぐでっと脱力した。
「ヒィ……ひひひ、……ひひひ、かはっ……ひひぃ」

「さて、林さん。名前と学校名、住所を言ってください」
 美咲は、さくらの頭の前でかがんで、さくらの顔を覗きこんだ。

 さくらの目がゆっくりと美咲へ向く。
「……ひ、ひぃ……、ひひひ。っ。…………」
 さくらは口から笑い声を漏らしながらも、歯を食いしばっていた。
 
「3、2、1、…………」
 美咲は一瞬間を作って、さくらのアバラをくすぐり始めた。

「あぎゃぁぁっ!!!? んひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! んぎゃぁぁぁっはっはっははっははははっ!!! んあぁぁっ!! なんでぇぇぇ~~ひゃひゃひゃひゃひゃっ! 言うってぇぇぇぇっぇっ、言うっでいっだのにぃぃぃぃっひっひっひっひっひ~~っ」
 貪るような激しいくすぐりに、さくらは奇声のような笑い声を上げた。

「3秒経ちましたので、5巡目に入ります。私は3度も『決断の機会は逃さないように』と注意を促しました。『返事を用意するように』とも言いました。にもかかわらず、あなたは躊躇しましたね。再々の注意喚起の意図が読み取れませんでしたか? 質問には即答してください。姑息な時間稼ぎは無意味です」

 美咲はじっとりと汗で濡れたさくらの身体をくすぐりながら言った。

「んゃぁぁっひゃっひゃ、ぎゃぁぁぁ~~っひひひひひひひひひひっ!!! もぅダメェっ、ほんどにぃぃぃひひひひひひ! あの時間じゃぁぁぁっひゃっひゃっひゃ、言えないですぅぅっひっひっひひ~~っ!!」

 さくらは舌を出して笑いながら叫んだ。

「何甘いことを言っているのですか? きちんと準備をしていれば、言えるはずです。……いえ、本当は準備の必要なんてないのですよ? 今この瞬間にだって、言いたければ言えば良いじゃないですか」

「がひゃっ!!? んぐっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ!!! どうゆひぃぃぃ~~っひっひっひ!」
 さくらはビックリしたように美咲を見つめた。

「林さんは2度に渡って、拷問中『喋るからやめてくれ』という趣旨の宣言しましたね。そして2度とも、私の『まだ残り時間がある』という言葉を聞き、黙ってしまいました。わかりますか? もしも心が折れたのならば、その瞬間にすべてを喋って許しを乞うべきなのです。なぜそうしなかったか? あなたの心には依然として『あと少し耐えれば終わる』という余裕があるのですよ。まだあなたの心身は限界に達していないのです。あなたは完全に心が折れていないのに、妥協して、友達を売ろうとしたのです」

 美咲は糾弾するように言い、指の動きを激しくした。

「がひゃっひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! んぇぇぇひぇっひぇっひぇひぇひぇ!!!?」
 さくらの笑い声が裏返った。しばらくして目からはとめどなく涙が溢れ始めた。美咲の言葉がかなり効いたようだ。

「『言いたくない』と『くすぐられたくない』が葛藤しているうちは、まだ心に余裕がある証拠です。『言う』しか選択肢がなくなるまで、存分に笑わせます。今日ぐらい、限界まで頑張ってみましょうか、『妥協癖』のある林さん?」

「んがぁぁぁっはっはっははっはははは!! だぁぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃぁ~~っ!!!」

◆◆◆

(文化祭当日18時) 

「持ち上げたり貶めたり、言葉巧みに獲物の心をえぐる、陰湿な責めがまさにっ、美咲さんらしいですねー」

 ジャーナル部の応接室にて、PCで動画を見ながら感想を述べるのは佐々木杏奈(ささきあんな)であった。
 SM嬢のつもりなのかレ○ザーラ○ンHGのつもりなのか、よくわからない皮製のボンディジコスチュームに身を包んでおり、朝から美咲に「お化け屋敷と関係ない」と厳重注意を受けていた。

 室内には心愛と杏奈の2人きり。再生中の動画では、山本美咲を林さくらをくすぐり責めしていた。
 心愛は少々警戒しながら、脚を組んでふんぞり返って座る杏奈に、一切れのメモ用紙を渡した。
「佐々木先輩。こちらが、聞き出していただきたい内容です」

「ほぉ、ボスは達筆ですねー」
 メモを受け取るや、杏奈は言った。
「書いたのは山本先輩です」
「…………。あーあー、よくよく見れば、字のやけに力んだ感じ、美咲さんの無駄に攻撃的な性格がよく表れてますねー。…………。なるほど、実に興味深い内容ですねー」
 目を通した杏奈は、ぽいっと机上にメモを放った。

「で、自分の獲物は?」
「取調室です。すでにセッティングも完了しています」

 動画がちょうど、クライマックスに差し掛かった。
 PCから漏れる林さくらの笑い声は、はち切れんばかりの奇声である。
『んぎゃっぁぁぁっはっはっはっは、くくくくけぇひひぇひぇひぇ、K女ぉぉぉぉっひゃっひゃっひゃ!! K女のぉぉ~~っひっひ、小川未来(おがわみく)ぅぅぅぅひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ!!! じぬぅぅぅぅげぇひぇひぇひぇ!』

「23分11秒(尋問含)ですかー。常人にしては、よく耐えた方じゃないんですかねー?」
 PCを閉じながら、杏奈は薄ら笑いを浮かべた。
「山本先輩の6巡目を耐え切った人間は、未だにいないそうです」
 心愛が補足すると、杏奈はハッと鼻で笑った。

「まー、自分は自分のやり方で楽しませていただきますよー。他校の生徒で遊べるなんて、興奮が収まりません! ボスの信頼を裏切らないよう、自分も全力で任務あたらせていただきましょーぅ!」

 杏奈は勢いよく立ち上がると、K女学園の1年生で林さくらの幼馴染である、小川未来を拷問するために取調室へと向かった。



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