「……ロープマジック、ですか?」
向かいに座った手品研究会の林さんは不思議そうに聞き返した。
長い前髪で顔の半分が覆われているため、表情がよくわからない。
ぼく、斎藤さん、木森さんは放課後になって旧校舎のとある教室を訪れていた。
斎藤さんの中学時代の後輩が手品をやっているというので、協力を仰ぎに来た。ナワヌケやトリナワなどの技術を、暴れる相手をくすぐるときに使えるだろう、というのだ。
手品研究会ただ一人の会員である林さくらという女子生徒は、内気で自信なさそうなおどおどとした喋り方で、とても手品を上手くやれるようには見えなかった。
「もしかして、さくらちゃん、やったことない?」と、斎藤さん。
「い、いえ!」と勢いよく首を振る林さん。「だいたいメジャーなトランプマジックをリクエストされることが多いから、びっくりしただけで……」
「たとえば、ここにいる八重ちゃんを一瞬で縛り上げて動けなくして、また一瞬で解除する、とかできる?」
「ああ、そういうのでいいなら……」
林さんは立ち上がると、まっすぐ木森さんの横について、
「きゃっ!?」
「動けます?」
一瞬のことでまったくわからなかった。
椅子に座ったままの木森さんは、両手を体側につけたまま背もたれにロープでぐるぐる巻きに縛り付けられていた。どこからロープを取り出したのかもわからない。
「えっ!? なに? どうやったの?!」
木森さんは焦ったようにガタガタ椅子を鳴らした。
「手品です」と、林さんは少しばかり誇らしげだ。
木森さんは指先をクネクネ、首を上下左右にふり動かしながら、自分の状況を確かめようとしている。どうやらまったく身動きが取れない様子。
「ちょっと本当に動けないか試すね?」と斎藤さんは、両手をわきわき。
「待って……、陽菜さん、まさか……」
慌てふためく木森さんを無視して、斎藤さんは木森さんのおなかをくすぐった。
「いひゃひゃひゃひゃひゃ!? ちょ待ってえぇぇひひひひ!! ほんとに動けないからぁああはははははははは!!」
木森さんは激しく笑いだす。
ロープでからだをがんじがらめにされているから、さぞくすぐったいことだろう。
「ほんとにこれくるしぃいっひっひひひっひっひ!! もうわかったでしょおおははっははっははははは!!」
「どうやら本当に動けないようだね」
斎藤さんは満足そうに頷くと、くすぐっていた指を止めた。
木森さんはゲホゲホと大きくせき込み「陽菜さん、ひどいですよ……」と涙目になっている。
「動けないの、わかりました?」
林さんが得意げに言う。いつの間にか斎藤さんの後ろに回っていた。
斎藤さんは振り返り、
「で、さくらちゃん、これをどうやって――」
言いながら、視線を戻して絶句した。
ぼくも林さんの方を見ていて、気づかなかった。
「え?」
木森さんが驚いたような声を上げた。木森さんを椅子に縛りつけていたロープが完全にほどけていた。
斎藤さんは、ほどけたロープを手に取り、引っ張ったり自分の手首に巻き付けたりして、強度を確かめている。どう見ても種も仕掛けもない本物のロープだ。
「さくらちゃん、どうやったの?」
「手品です」
得意げに言う林さん。斎藤さんは、木森さん、ぼくの顔を交互に見て、満足そうに頷く。
「そっか、使えそうだね」
(つづく)
向かいに座った手品研究会の林さんは不思議そうに聞き返した。
長い前髪で顔の半分が覆われているため、表情がよくわからない。
ぼく、斎藤さん、木森さんは放課後になって旧校舎のとある教室を訪れていた。
斎藤さんの中学時代の後輩が手品をやっているというので、協力を仰ぎに来た。ナワヌケやトリナワなどの技術を、暴れる相手をくすぐるときに使えるだろう、というのだ。
手品研究会ただ一人の会員である林さくらという女子生徒は、内気で自信なさそうなおどおどとした喋り方で、とても手品を上手くやれるようには見えなかった。
「もしかして、さくらちゃん、やったことない?」と、斎藤さん。
「い、いえ!」と勢いよく首を振る林さん。「だいたいメジャーなトランプマジックをリクエストされることが多いから、びっくりしただけで……」
「たとえば、ここにいる八重ちゃんを一瞬で縛り上げて動けなくして、また一瞬で解除する、とかできる?」
「ああ、そういうのでいいなら……」
林さんは立ち上がると、まっすぐ木森さんの横について、
「きゃっ!?」
「動けます?」
一瞬のことでまったくわからなかった。
椅子に座ったままの木森さんは、両手を体側につけたまま背もたれにロープでぐるぐる巻きに縛り付けられていた。どこからロープを取り出したのかもわからない。
「えっ!? なに? どうやったの?!」
木森さんは焦ったようにガタガタ椅子を鳴らした。
「手品です」と、林さんは少しばかり誇らしげだ。
木森さんは指先をクネクネ、首を上下左右にふり動かしながら、自分の状況を確かめようとしている。どうやらまったく身動きが取れない様子。
「ちょっと本当に動けないか試すね?」と斎藤さんは、両手をわきわき。
「待って……、陽菜さん、まさか……」
慌てふためく木森さんを無視して、斎藤さんは木森さんのおなかをくすぐった。
「いひゃひゃひゃひゃひゃ!? ちょ待ってえぇぇひひひひ!! ほんとに動けないからぁああはははははははは!!」
木森さんは激しく笑いだす。
ロープでからだをがんじがらめにされているから、さぞくすぐったいことだろう。
「ほんとにこれくるしぃいっひっひひひっひっひ!! もうわかったでしょおおははっははっははははは!!」
「どうやら本当に動けないようだね」
斎藤さんは満足そうに頷くと、くすぐっていた指を止めた。
木森さんはゲホゲホと大きくせき込み「陽菜さん、ひどいですよ……」と涙目になっている。
「動けないの、わかりました?」
林さんが得意げに言う。いつの間にか斎藤さんの後ろに回っていた。
斎藤さんは振り返り、
「で、さくらちゃん、これをどうやって――」
言いながら、視線を戻して絶句した。
ぼくも林さんの方を見ていて、気づかなかった。
「え?」
木森さんが驚いたような声を上げた。木森さんを椅子に縛りつけていたロープが完全にほどけていた。
斎藤さんは、ほどけたロープを手に取り、引っ張ったり自分の手首に巻き付けたりして、強度を確かめている。どう見ても種も仕掛けもない本物のロープだ。
「さくらちゃん、どうやったの?」
「手品です」
得意げに言う林さん。斎藤さんは、木森さん、ぼくの顔を交互に見て、満足そうに頷く。
「そっか、使えそうだね」
(つづく)