ここはテックリンワールド。
 例のごとくくすぐりモンスターが蔓延る混沌の世界だ。
 冒険者は『擽師』なる者を倒すため、あるときは単独で、あるときはパーティを組んで旅をしていた。

「ミ~サぁ~、いつまで怒ってんだよ」
 腰まで伸びた長いツインテールをなびかせて言う小柄な少女。剣士リンである。勇者を気取って布のツーピースの上にマントを羽織っている。両腰に短剣を掲げている。防御を捨てた二刀流が彼女の戦闘スタイルなのだ。
 ミサと呼ばれたボブヘアの少女は、ずんずんと背を向けて足早に歩く。右手にステッキ、黒いローブに身を包み、いかにも魔法使いの出で立ちだ。
 リンは、彼女の肩を掴んだ。
 魔法使いミサキは振り返りキッとリンをにらんだ。
「いい加減に学んで下さい! リン! 宝箱は罠の可能性があるので、開ける前に必ず私に確認しろとあれほど言ったじゃないですか!」
 ミサキはかなり怒っているようだ。
 どうやらリンが何度目かのミスをしでかしたらしい。
「だから謝ってんじゃんよ~。私だって別に好きで罠にはまってんじゃないって!」
「リンがソロで勝手に罠にはまるのなら何も言いません。しかし、パーティーを組んでいる以上、全員で決めたことには従ってもらわないと困ります。巻き込まれるのは迷惑なんです」
「かっちーん! そこまで言うことないじゃんよ!」
「言います。宝箱は開ける前に全員の同意をとってください! お願いします!」
「全員の意見取ってたら間に合わないときだってあったじゃん! この前のボス戦前、薬草出てこなかったらミサ死んでたくせに!」
「あのときはあのときです。揚げ足をとらないでください」
「揚げ足じゃねーし! ミサの守備力低すぎるんだよ! 攻撃遅いし! 状態異常かかりすぎで守りながら戦うのめんどくせーんだかんな!」
「リンは、私の全体魔法と火力にどれだけ助けられているか、わかっててそんなこと言っているんですか?」
「だぁもうっ! うっせーなぁ! それはそれじゃん! 揚げ足とんなし!」
 そこで、後ろからのんびりついてきていたポニーテールの少女。僧侶ハルナが声をかけた。
「まぁまぁリンちゃんもミサキちゃんも、そろそろその辺で――」
「「ハルナ」さん「は、入ってこないで」ください!」
 リンとミサキが同時に言った。
 ハルナは二人の息の合い方に吹き出してしまう。

 三人は、そんなバランスで楽しい(?)旅を続けていた。

「これだからがさつなエンハンス系は」
「まーたミサは系統のこと言うー! コンジュア系は細かいこと気にしすぎだっつーの!」
 いつまでも言い合いを続けるミサキとリンの後ろをニコニコしながらハルナがついていく。
 そんな三人の前に、ひとつの宝箱が現れた。
 辺り一面草花の生い茂る部屋のど真ん中にぽつんと、開けて下さいと言わんばかりだ。
「「「…………」」」
 一瞬の沈黙があって、
「開けてイイ?」
「ダメです」
 リンが聞くと、ミサキは即答した。
「ええ!? なんで!?」
「こんなこれ見よがしな罠がありますか。開けなくても先に進めます。じきにボス戦です。急ぎましょう」
 ミサキはさっさと部屋の出口へと向かった。
「えー……なんか私の勘では、開けた方がいい気がすんだけどなー」
 リンは宝箱の前でぶーたれた。
「その勘とやらで何回痛い目を見たんですか」
 出口の前で振り返ってミサキは言う。
「早くしてください。パーティー1枠ののリンが来ないと部屋を出られないんです」
 ミサキが急かす。ハルナは二人を交互に見て、
「リンちゃん? 行く?」
 リンは少し考えてから、
「えいっ!」
 宝箱を開けた。
「ちょっ!?」
「リンちゃん!?」
 ミサキとハルナが声を上げた。
 その瞬間、宝箱が光ったかと思うと、ツタが地面から勢いよく伸びて絡み合って壁を作り、ミサキとハルナの間を隔てた。


○○○


「どうしようリンちゃん。ミサキちゃん、閉じ込められちゃった」
「正確に言うと、閉じ込められたのはうちらなんだけどね……」
 宝箱を中心として、リンとハルナの周囲四方に、ツタの壁が完成していた。
「でも、ミサキちゃん、リンちゃんがいないと部屋出れないから」
「結局どっちも閉じ込められたってことなんだよね。わかってるよ……私が悪かったよ……」
 リンは膝を抱えてしまった。
 自分のせいで再び二人に迷惑をかけたことに責任を感じているようだ。
「あ、でも待って。リンちゃんの剣なら、このぐらいの壁、破れそうじゃない?」
「マジで!?」
 リンは顔を上げた。
「ならさっそく――」
 リンが両手に短剣を構えたそのとき、
『ゲコ』
「げこ?」
『ゲコ』『ゲコ』『ゲコ』『ゲコ』――、
 リンとハルナの周囲に、まるで植物のような擬態をした小さなカエルのモンスターが数十匹集まっていた。
 ぴゅっ。
 カエルの一匹が、リンに向かって水鉄砲を吐いた。
「リンちゃん! 危ない!」
 ハルナはリンの前へ飛び出した。


○○○


「リン。あとで覚えておいてくださいね」
 ひとり部屋の一画に隔離されたミサキは忌々しげにつぶやいた。目の前に、一匹のカエルのモンスターが現れていた。
『ゲコ』
 ミサキはステッキをカエルに向けた。人間ぐらいの大きさがある。爬虫類嫌いにとってはたまらない姿だろう。
 ミサキが詠唱を始める前に、カエルは勢いよく飛び上がり、口から水鉄砲を発射した。
「くっ!」
 ミサキはステッキで弾く。
 ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっ。
 カエルはぴょんぴょんすばしっこく飛び跳ねながら次々と攻撃してきた。
「く……っ。スピード型の遠隔攻撃ですか……かなり相手が悪いですね……」
 ミサキの魔法は発動に時間がかかる。
 攻撃を防ぐのでいっぱいいっぱいだった。
「あっ!」
 攻撃を弾こうとステッキをつきだした瞬間、カエルの長い舌で柄の部分が絡め取られた。
 勢いよく舌が引き戻され、ミサキはステッキを奪われた。
 部屋の隅へはじけ飛び転がるステッキ。
 ミサキは青ざめた。
 カエルの攻撃は続く。
 ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっ。
「くっ……」
 攻撃を丸腰で避け続けるのには無理があった。
 右手首がカエルの舌に絡め取られ、
「うっ、しまっ……!」
 体勢を崩したところを、左手、左足、右足、と四肢を舌に絡み取られ、ミサキは大の字に拘束されてしまった。
 カエルの口からは、四本の細長い舌が伸び出ていた。
 よく見ると、口の中に目がある。
『ゲーコゲーコゲーコ』
 カエルはしてやったりと笑っているようだ。
 さらにもう二本、舌が口の中からにょきにょきと生え出てきて、ミサキの体へ伸びてきた。
「く……」
 ミサキは顔をしかめた。


○○○
 

「きゃはははははははっ!!! あぁ~~っはっはっはっはっはっは!!」

 ハルナは仰向けに地面に寝そべって三匹のカエルに舌で上半身をくすぐられていた。
 リンはその少し離れた位置で、体中にまとわりついてくる小さなカエルどもを必死に短剣で払い続けている。
「くそっ……なんで水鉄砲で麻痺なんだよ――って、よって来んな! 敵多すぎて剣二本じゃ間に合わねーよ!」
 ハルナは体がしびれて動けない様子。
 カエルのされるがままに舐めまわされ、ぶんぶんと首を振って笑っている。

「あひゃっははっははっはっはっ……りひっ、リンちゃん堪えてぇぇぇっひゃっはっはっはっはっはっは~~!!」

 ハルナは涙を流して笑いながらも、リンにエールを送っていた。

「あんたの方が大丈夫かよ!? わわっ! またこいつっ! ……敵の攻撃多すぎて、ワンターンが長げぇよ!!」
 リンはカエルの相手が手に負いきれず、ハルナをかばうこともできない。
 また、カエルの小さな攻撃が重なって蓄積ダメージも貯まっていた。
 徐々に動きが鈍くなる。

「あぁあはっはっはっはっはっはふわぁぁ~~~!!?」
 ハルナの声にリンは振り返る。
 カエルは麻痺で動けないハルナのブーツを脱がして素足にし、足の裏をぺろぺろと細長い舌で舐め始めた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃぎゃぁぁぁ~~っはっはっははははははははははは!!!」

「こんのっ!! ミサの全体攻撃があれば……って、全部私のせいだよバカヤロウ!」
 リンはノリツッコミをしながらカエルを切り刻んでいく。
 が、突然一匹のカエルに足元をすくわれ、転倒。うつぶせになって、起き上がるまもなく、数十匹のカエルの舌にぐるぐる巻きに拘束されてしまった。
「はなせくそっ!!」
 両腕が体側につけられて拘束されてしまったため、まったく攻撃することができない。
 カエルどもはよじよじとリンの体にのぼり、ブーツを不器用に脱がし始めた。
「こらっ!! 馬鹿っ!? さわんなっ!」
 リンは地面に腹をつけたまま叫んだ。
 が、カエルどもに言葉は通じないのか、あっさり両足ともブーツはずぽっと脱がし取られてしまう。
 リンの素足が露わになった。
「こらぁぁっ!! 降りろっ……降りろってぇ!」
 リンはかなり狼狽している。
 足元が見えないために不安なのだろう。
 カエルどもは、一斉にリンの素足の足の裏を細長い舌の先でちょろちょろくすぐりはじめた。

「にゃぁぁぁああぁははっはははっはははっはは!!? やめろぉぉ~~っはっははっはっははっはははっ、だぁぁぁっはっはっはっははっは~~!!」

 リンは体を海老反りにしてもがいた。
 カエルの舌は、うねうねとうごめき、土踏まず、かかと、足の指と細部まで舐めまわしてくる。

「だぁっははははははははは!!? ふざけんなこらぁぁぁっはっはっはっはっはっはっはっは!!」 
 リンは怒りながら大笑いした。

 一方のハルナも、
「きゃひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!? あひゃぁぁあっはぁぁあ~~!!」
 服の中をカエルにまさぐられ、かなりくすぐったそうだ。
「リンちゃんあと少しぃぃぃ~っひっひっひっひっひっひひっ!!」

「にゃっ!? 少しってなんだよぉぉ~~~っはっははっはっはっははっはっは!!!」

 リンにはまだ、ハルナの言葉の意味がわからなかった。


○○○


「くっ……ふっ……くふひっ、ひひ……っ!」

 空中で四肢を大きく広げて拘束されたミサキは、両腋の下を、カエルの細い舌で両腋の下を撫でるようにくすぐるられていた。
 上下にちろちろと動く舌に合わせて、体をくねらせるミサキ。

「ふくっ……ひぃっ……くふふっ!」

 顔を真っ赤にして歯を食いしばるミサキ。
 そこへ、さらに二本、舌が伸びて、ミサキの足元へ迫る。

「あっ……くっ! やっ、やめてくださっ……ふひっ」

 カエルの舌はブーツの隙間から器用に入り込むと、もぞもぞと動く。
 ミサキの素足が露わになった。
 脱がされた二足のブーツが、ぼとっと地面に落ちた。

 カエルの舌は、ミサキの素足の足の裏をちろちろ舐め始めた。

「ひひゃっ!? ひっ……ひっ、ふひぃぃ~~んぅ~~~!!!」

 蒸れてくすぐったいのか、ミサキは顔を下に向けて、必死で笑いをこらえている。
 肩が上下に動き、息も荒い。
 もう限界だろうと思われた。

 カエルもそれを察したのか、くすぐっていた四本の舌の動きをとめると、
「……んっ」
 一瞬の静止の後、一斉に激しく動き始めた。

「だっ、ばっ、ふ……――、っ、ぶひゃぁあぁああっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!?」

 盛大に吹き出したミサキは大口を開けて笑い出す。
 体はびくびくと震え、素足はくねくねとよじれている。

「ひひゃひゃはははははははははっ!!? ひぃぃ~~ひゃっはっはっはっはっはっはっは!!」

 脇腹から腋の下を這う舌は、ぐりぐりとツボを探すようにミサキの体へ食い込む。

「ひぃぃひひひひひひひひひひひっ!? とまっ……だめっ、ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」

 足の裏を這う舌は、足指をからめとり、指の間までくすぐっている。

「ひゃめ……っひやぁぁあっはっはっはっはっはっはっはひひゃぁぁぁああ~~!!!」

 四肢の自由を奪われたミサキは、まったく為す術なく、笑わされ続けた。


○○○


「ごめんぅぅぅ~~ごめんてぇぇだっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!! ハルナごめんえぇぇはははははははは!!」

 リンは、ぐるぐる巻きにされたまま足の裏を舐めまわされ、涙を流して謝罪しながら笑っていた。
 笑わされ続けて、勝手にひとりで反省しているのだろう。

 一方のハルナは、
「きゃはははははははははっ……きたっ!! きたぁぁあっはっはっは!! いくよ!」

 突然ハルナの体が光ったかと思えば、もの凄い爆音と閃光とともにハルナとリンの体を囲んでいた小カエルどもが一瞬で吹き飛んだ。
「なっなんだってぇぇぇ!?」
 リンも攻撃を受け、驚きの声とともに吹き飛ぶ。
「ヒール!」
 ハルナはすぐさま自身の体力を回復させ、リンの元へ。
「リンちゃん、無事?」
 ボロボロになったリンは、
「……残りHP1。ギリ」
「ヒール!」
 回復したリンは、
「ハルナ、あんたそんなのあったんだ……あ、いや、それより、ごめん」
「謝らなくていいよ。リンちゃんのおかげで、ほら」
 ハルナは、残った宝箱の奥から鍵を取り出した。
 リンが手に取ると、
『ボス部屋の鍵を手に入れた!』
「あ、そういうこと……」
「じゃあミサキちゃんを助けに行こう」


○○○

 
「ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ、ひゃぁぁああ~~っはっはっはっはっはっはだぁあぁあ~~!!」

 ミサキの体をくすぐる舌は十本に増えていた。
 腋や首から腿や足の裏まで全身を激しくくすぐられ、ミサキは涙を流して馬鹿笑いしている。

「もうやあぁっはっは!! 増えないでっ、増えないで下さいぃぃ~~っひひひひひひひひひひひひい!!

 そのとき、
「どりゃぁぁぁああ!!」
 ツタの壁を突き破って飛び出したリンが、ミサキの体を拘束していたカエルの舌を叩き切った。
 落ちるミサキの体を、ハルナがキャッチする。
「うはっ!? でかっ!」
「ハルナさん。助かりました。ありがとうございます。……リン、あなたは……っ! いえ、後にします。そこに転がっているステッキを取って下さい」
「なんだよミサぁ! こっちだって助けたじゃんよ!」
「おしゃべりはそこの爬虫類をブチ殺した後です。リン、引きつけ役をお願いします。あ、ハルナさん、私の回復をお願いします」
 ステッキを受け取ったミサキは、冷徹な視線をカエルへ向けた。
「おお、こわっ」

 カエルは木っ端微塵になった。

「リンは反抗期ですか!? 私が何か言うと必ず逆のことをするんですか!? そういう性質を持った生き物なんですか!?」
 リンは地面に正座をさせられて、ミサキに叱られた。
「まぁまぁ、ミサキちゃん。リンちゃんのおかげでボス部屋の鍵も手に入ったわけだし、そのへんで」
 ハルナが口を挟むが、
「まだです。鍵の手柄は認めた上で、今後も三人で行動する以上は方針はしっかりと固めて――」
「あ~あ、宝箱が罠かどうか見破る系の能力があればなあ」
「そういう希望的観測に頼りすぎるところが、危険だと言っているんです」

「あのさ……宝箱の前で、毎回セーブすればいいんじゃない?」
 ハルナの一言に、二人とも口をつぐんだ。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 『調教くすぐり師の指』は三周年を迎えます。
 そこで登場するキャラ達をファンタジーの世界にぶっこんだらどうなるだろうと勝手に妄想して書きました。
 ちなみに、タイトルの『SOLE TICKLER』。
 sole には「たったひとりの」という形容詞以外に「足の裏」という名詞がございます。そこで sole tickler 誰のことなんでしょうか。あとカタカナで読めば「ソウル・ティックラー」。「魂」「根源」「指導者」などの意味を持つ soul と音をかけ合わせて……。
 ものすごくどうでもいい部分にもこだわってみるのがertスタイルです。
 
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