昼休み、トイレで小便をしている最中のことだった。
 驚いた。ボクは突然、透明人間になった。
 鏡を見ると、確かに自分の姿は映っていない。
 半信半疑のまま、廊下に出た。
 ひとりの女子生徒が歩いてくる。
 同じクラスの杉本(すぎもと)さんだ。
 明るい子で、比較的男女分け隔て無く話ができる。普段なら愛想良く声の一つでもかけてくれるところだけど……。
 無視された。
 少しショックだった。
 試しに肩をぶつけてみた。

「きゃっ! ……え? なに?」

 杉本さんはきょとんとしている。
 やっぱりボクの姿は見えないみたい。
 しばらくキョロキョロと辺りを見回して、再び不審そうに歩きだす。

 味を占めた。
 ボクはそっと後ろから忍び寄り、杉本さんの脇腹をくすぐってみた。

「きゃっ――あはははははははっ!!? な、何っ、えぇあぁっはっはっはっはっは~~!!?」

 突然のことに驚いたみたい。
 杉本さんは体をびくっと大きく震わせて笑い始めた。

「ちょっとやめてぇぇぇははっははははははっ!!? なにぃぃっひっひっひっひ~~!!」

 両手を振り回して笑う杉本さん。
 廊下を歩く他の生徒は、なにごとかと足を止める。

「なんでぇぇ~~くすぐったいぃぃひひひひひひひひひひ!!?」

 やっぱりボクの姿は誰にも見えないみたい。
 廊下で急に大笑いをし始めた杉本さん。「どうしたの、あの人?」「ヘンなの」とひそひそ声が聞こえてくる。注目の的になってしまった杉本さんは恥ずかしそうに顔を赤くして笑っている。

 調子に乗ったボクは、後ろから杉本さんを押し倒した。

「ちょ……痛っ、あははははは!!? うえぇぇえなにぃぃひひひひひひひ!!!」

 すかさず馬乗りになって腋の下をくすぐる。
 杉本さんはバタバタと両手足を動かして暴れた。

 周囲の動揺も大きくなった。
 傍から見ると、突然女子生徒が笑いだし、廊下に腹ばいになって暴れているのだから、当然だろう。

「いやぁぁあぁくすぐったいぃぃっひっひっひっひ!!! 誰か助けてぇぇぇっはっははっははっはは~~!!!」

 ボクは後ろ向きになって、杉本さん両足を掴んで引き寄せた。
 上履きを脱がすと、白いソックスを履いた足の裏が現れる。
 灰色に汚れた足の裏に、ガリガリと爪を突き立てる。

「やははははははははっ!!? なぁぁあぁやだぁぁぁっはっははっはっははっはだぁぁ~~!!!」

 杉本さんはバンバンと廊下を叩いて笑い出した。
 どうやら足の裏が弱点らしい。
 ボクは、杉本さんの両足のつま先をつまんでソックスを脱がし取ると、素足にした足の裏をくすぐった。

「うひゃらぁはははっははははは!!? なやぁあぁははっはははなんで脱げるのぉぉ~~うひゃひゃひゃははははははははぁぁ~~!!!」

 杉本さんは一層激しく笑い出した。
 足の指はくすぐったそうにクネクネ動いている。

「やぁぁっはっはっははっはっ!!! ひゃぁぁあ~~っはっはっはっはっはっははぁぁ~~!!!」

 涙を流して笑う杉本さん。
 満足したのでボクは杉本さんを解放してあげた。

「ひゃはははっ――、え……っ?」

 杉本さんは突然からだが自由になって困惑したのか、きょとんとしている。
 起き上がってキョロキョロ周囲を見渡す。
「あっ……いや……」
 他の生徒の注目を浴びていることを改めて認識したためか、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
 女の子座りをした杉本さんの周りには脱がされた上履きとソックスが散らばっている。
 それを必死にかき集め、履き直す杉本さんの姿がまた、可愛かった。


(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 ぼんやりと思いついて、そのまま書きました。
 透明人間は楽しいナァッ!
 もしかしたら続くかもしれません。