「え、ダメです」

 T高校第一共用棟最上階ジャーナル部の応接室にて、データ管理責任者の1年生、吉田心愛(よしだここな)は、さも当然と言う風に言った。
 ウェーブかかったわかめ髪からは、今日もぴょこんとアホ毛が飛び出している。
 応接室中央に備えられたソファに、机を挟んで座っている訪問者は二名。

「え、ダメなの?」
 聞き返すのは2年生の伊藤莉子(いとうりこ)。快活なテニス部員で、硬質の髪の毛は両耳の後ろで二つくくりにしおさげにして肩に乗っけている。隣でぽかんと口を開けるのは、莉子の同級の高橋結衣(たかはしゆい)。やや(傍からはあざとくも見えるような)天然ボケの放送部員で、髪は、跳ね回る癖毛を肩辺りで切り揃え自然にならしてある。
 莉子と結衣の二人は、ジャーナル部陥落の知らせを聞きつけ、さっそくジャーナル部の管理するデータベースを見せてもらおうとやってきたのだった。

「何故、部外者である先輩達がデータを閲覧できると思ったんですか? ……その発想に至った経緯が、まったく理解できないのですが……」
 心愛は、対面した二名の顔を見比べながら、机上の湯飲みを手にとってすすった。清潔に着こなされたブレザーの右肩に『ジャーナル部 データ管理』の腕章が輝く。
 莉子は結衣と顔を見合わせ、ゆっくりと口を開く。
「えっ、だって、あのリスト。今度文化祭で狙う子達のリストって、ジャーナル部のデータベースから取ったんだよね?」
「そうです」
「だったら、アタシらにも見せて欲しいなーって」
「『だったら』の意味がまったくわかりません」
 莉子の上目遣いに、心愛はやや眉をひそめた。
「……先輩達、何か勘違いされているみたいなので、確認しておきます。ジャーナル部が管理するデータベースにアクセスし、全校生徒の個人情報を閲覧する権利を有するのは、データ管理責任者である私だけです。ジャーナル部の部長と生徒会長及び選管委員長は、個人データの情報開示をデータ管理者に要求する権利を有しますが、自由に閲覧する権利は有しません」
 心愛は淡々と述べた。
 莉子は再び結衣の顔を見、おちょぼ口を作った。
「えっ、佐藤くんや、山本さんに、見せたんじゃないの?」
「情報開示は、部長による正式な要求によるものです。立会人の有無に関しては、情報開示要求者とデータ管理責任者、双方が承認する限り、規則上問題ありません」
「……なんか、ずるくない?」
「現行の生徒会則に明文化されています。『情報開示』の項目を読み直してください」
 心愛は再び湯飲みをすすり、莉子と結衣、二人の顔をを見比べた。苦虫を噛み潰したような二人の表情に、心愛は半ば呆れ気味にため息をついた。
「……情報開示の要求でしたら、目的を明確にした上で、ジャーナル部の田中部長の承諾を得てください。現生徒会長の井上会長でも構いませんが、現会長は何を行うにも必ず部長に『お伺い』を立てるので、結局は部長に承諾を得ることになります。二度手間ですので、直接田中部長を訪ねるのが効率的かと思います。……松本選管委員長は隣の第二共用棟会議室Bにいらっしゃると思います。会長選挙前で、いつもに増して気が立っていると予測されます。アポ無しでの訪問は自殺行為ですので、先にどなたか学級委員長を通すことをお勧めします」
 言い終えると、心愛は席を立った。
「他に無ければ、お引き取り願います」

◆◆◆

 2年K組教室。
「全然取り合ってくれなかったねぇ~」
 結衣が自分の席で「あー」とため息混じりに伸びをしながら莉子に言う。
「心愛ちゃん堅いよねっ! ちょっとぐらい見せてくれてもいいのにさぁ。仲間なんだし!」
「仲間かぁ……。同時に、ライバルでもあるよね」
「ん? あっ、そっか! もしかしてあの子、佐藤くんの個人情報、独り占めする気じゃない!?」

 ジャーナル部の管理するデータベースが、一般生徒に公開されることはまず無い。そのため、生徒の間では様々な憶測が飛び交っていた。ジャーナル部のデータベースには個人の『初恋の相手』から『週間オナニー回数』まで、ほど細かな情報が管理されているという噂さえある。

 結衣はゴテンと机に頭を預けた。
「田中さんとかも一緒だしねぇ~。結衣達がいくら佐藤くんの情報見たいって言っても、絶対阻止してくるよぉ……。て、ことは、松本さん?」
「無理無理無理無理っ!! 松本さんは絶対に無理っ!! 怖すぎて話しかけらんないよっ! くそぅ。私もジャーナル部に入れるぐらい頭良ければ、まだチャンスが……っ!!」

「ジャーナル部に入ったからと言って、データベースが見れるとは、限りませんよー?」
 突如結衣の机の下から這い出てきた、ツーサイドアップミニテールのジャーナル部最低のインチキ記者、佐々木杏奈(ささきあんな)が二人の顔を見上げ、ニィっといやらしい笑みを浮かべた。
「さ、佐々木さんっ!?」
「そんなところからっ!?」
 結衣と莉子は同時に声を上げた。
「呼ばれた気がしたので来ましたー。莉子さん、結衣さん。どうやらお困りのようですねぇ?」
 杏奈は立ち上がり、揉み手をし、両者の顔を交互に見た。
「佐々木さん。今の話、聞いてたのぉ?」
 結衣はおそるおそる尋ねる。
「いやぁー。自分は偶然通りかかった、ただのジャーナル部員ですのでー。何にも聞こえてませんよー? もしかしたらジャーナル部の管理するデータベースをこっそり閲覧する方法のヒントを握っていたり、握ってなかったりする、かーもしれま、せ、ん、が~~?」
「データベースっ! 見る方法があるの!?」
 莉子が食いついた。
「クラスメイトの相談とあらば、仕方が無いですねー。協力しましょう!」

 杏奈は満面の笑みを浮かべ、二人の肩を抱くと、内緒話を始めた。

●●●

「げ、佐々木先輩……」

 第一共用棟ジャーナル部応接室で待っていた莉子、結衣、杏奈の三人の姿を確認すると、途端に心愛は顔を引きつらせた。
「『げ』とは挨拶ですねー、心愛さん。自分はこのお二人に頼まれて、立ち会うだけですから、そんなに警戒しないでくださいよー」
 杏奈は心愛の肩に手を回し、応接室中央のソファへと押しやった。
 後ろ手で、杏奈は心愛が入ってきた扉の鍵を閉める。

「せ、先輩方、今度は、何の御用ですか?」
 三人と向かい合って座った心愛は、かなり動揺した様子で尋ねた。よほど杏奈の存在が気がかりのようだ。
 莉子と結衣は顔を見合わせ、頷きあった。
「データベースの、管理者用パスワードを、教えてくれない?」
 莉子が言うと、心愛はびっくりしたように目を見開き、キッと杏奈を睨んだ。杏奈はすまし顔で返した。
「……先輩。きちんと規則通りの手順を踏んでください。正式な情報開示要求があれば、私は規則通り、ご所望の情報をお渡しします」
「管理者用パスワードがあれば、自由に閲覧できるんだよね?」
「……その質問にお答えすることはできません。我々ジャーナル部員は、一般生徒に対して、データベースのアクセス方法に関する質問は一切受け付けていません。これは、ジャーナル部規則によるものです」
 心愛は、チラチラと杏奈に非難の目を向けた。
「もう一回言うね。アタシ達に、管理者パスワードを教えてくれない?」
 莉子と結衣は、じっと心愛を見つめた。
 心愛は、ゆっくりと息を吐き、覚悟を決めたように目を軽く瞑った。
「絶対に、ダメです」

「そう、なら――」

 莉子が腰を上げようとした瞬間、心愛はすばやく立ち上がり、逃げようとした。が、一瞬で杏奈が心愛の後ろに回りみ、後ろから心愛の両肩を掴んだ。心愛はドスンとソファに尻餅をつく。
 ソファに深く腰掛けた状態で肩を杏奈に押さえつけられた心愛は、立ち上がることができない。
 心愛側のソファに移動した莉子と結衣は、心愛の両脇に座りなおした。
「せ、先輩方……。佐々木先輩に何を吹き込まれたのか、わかりませんが、バカな真似はやめてください」
「心愛ちゃん。どうしても教えてくれない?」
 心愛の左脇に座った莉子が、優しく声をかける。
「ですから。規則で禁止されているんです。……ちゃんと手順を踏んでいただければ」
「…………」
 莉子は結衣を見て頷くと、心愛の左足を取った。
「ちょっ、と、先輩っ!」
 制止させようと前方に差し出そうとした心愛の両手首を、杏奈は後ろからがっちりと掴み、ねじりあげた。
 その隙に莉子は、心愛の左足からローファーをカポっと脱がし取る。
 心愛の右脇に座った結衣も、心愛の右足首を握って持ち上げ、ローファーを脱がした。

 両脇から足を持ち上げられたことで、心愛はソファの上で両腕を万歳にM字開脚させられてしまった。
「せ、先輩っ!? パ、……パンツが見えちゃぅ……」
 顔を赤らめうつむく心愛。
「パスワード教えてくれたら、ここで終わりにしてあげるけど?」
「……っ」
 心愛は唇を噛んだ。
「だんまりなら仕方ないね。結衣ちゃん、やっちゃお」
「了解~」
 二人はにやりと笑い合うと、同時に心愛の足に指を這わせ始めた。

「――っ、ぷ、うはっ!!? やめっ、あはっ、あははははははははっ!!!」
 心愛は二人の人差し指が白いソックス越しの足の裏に触れた途端、びくんと身体を震わせ、笑い出した。
「おおっ!? 弱っ! そんなにくすぐったいの?」
 莉子は、くねくねと捩らせて逃げる心愛の左足を、指で追いかけながら言う。
「あはははははっ!! やめっ、やめてっ!!! きゃっはっはっはっはっはっは、足はっダメなんですぅぅぅぅ」

「なんか、こんなに笑ってくれると、ちょっと楽しくなっちゃうね」
 結衣は感心しながら、心愛の右足の裏で、右手ニ、三本の指を蠢かした。
「くぁっはっはっはっは!!! やめてくださいっ!! いっひっひ、ほんとにぃぃぃっ!! にゃっはっはっはっはっは~~っ!」
「やめて欲しかったら――」
「絶対にぃぃっはっはっは……っ、絶対に言いませんっ!! あっはっはっはっはっ!!!」
 心愛は、首を左右に振って笑いながら、莉子の言葉を遮った。
「ふーん」
 莉子は、心愛のかかとをグシグシとひっかいた。
「うははっははははははっ!!! あはっははははは、やめてぇぇ~~っ!! ダメですぅぅっはっはははっはっははっ!!」

 心愛を万歳にして両手首を押さえていた杏奈が、満足気に微笑みながら、
「どうですかー、お二人とも? なかなか楽しんでいるようにお見受けしますがー?」
「うん……なんか、佐藤くんのいじわるが感染っちゃったのかも。なんか、『絶対言わない』って言われると、余計吐かせたくなっちゃうよね」
 莉子は言いながら、くしゅくしゅと心愛の右足の裏をいじる。
「あひゃぁぁっはっははははははは、やめてっ!! ダメっ!! こんなことしてっ!! はっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

「結衣さんはどうですかー?」
「えっ、結衣? ……吉田さん、笑うとかわいいなぁと、思って」
 結衣は、左手しっかりと心愛の足の甲を持ち、ぎゅっと皺の寄った足裏を右手でわしゃわしゃと引っかいていた。
「いやぁっはっはははっはははは! しゃはぁっ、先輩ぃっひっひ、腕はなしてぇぇぇっはっはっはは~~っ」
 心愛が上半身を激しく捩り、涙ながら杏奈に哀願する。ソファがぎしぎしと音を立てた。

「お二人とも、なかなかの筋ですよー。……ですが、そんなもんじゃ、心愛さんは屈しませんよー? このぐらいは、やらないとっ!」
 杏奈は急に心愛の手首をはなすと、両手をすばやく心愛の腋の下に入れ込んだ。
「ぎゃはっ!!? あぁぁっはっはっはっははっははっはははっ!!? せんぱっ、先輩ぃぃっひっひっひ、あひひひひひひっ!!!」
 心愛は腋をぎゅっと閉じ、両脚をバタつかせて暴れだした。
 心愛の足を掴んでいた莉子と結衣は、振り払われてしまう。
「わわっ!? すごいっ、笑いよう……。心愛ちゃんの弱点、足って聞いてたんだけど……」
「ぎゃぁぁっはっはっははっはっははっ!!? 先輩っ!! ひひひひ、やめっ!! やめてぇぇぇひゃっひゃっひゃっひゃっひゃひゃ~~っ!!」
 心愛は座っていられなくなったのか、ごろんとソファの上に転げ、うつ伏せになった。
 杏奈はソファの背もたれを飛び越えて、心愛の背中に馬乗りになると、追い討ちをかけるように腋の下をくすぐる。
「がぁぁっはっはっはっはっはっはっはっ!!! やめっぇぇっひっひっひっひ、きゃぁぁっはっはっははっは!!!」
 ソファの上でバタ足をするように笑いもがく心愛。
 莉子と結衣は、あまりの心愛の暴れように言葉を失い、後ずさった。

「うーん、この感覚! やはり心愛さん、足が弱いようですねー?」
「え、そこ、腋じゃないの?」
 結衣が棒立ちしたまま恐る恐る尋ねる。
「おやおや、お二方にはコレが弱点責められた反応に見えると? まだまだですねーっ! この声、この暴れよう、この感情の昂り! まさに、自らの弱点が足だと、自白しているようなものじゃないですかー」
 杏奈は指を心愛の腋の窪みにむりやり押入れ、ぐりぐりとほじくり回していた。
「ぎゃぁぁっはっはっはっはっははっはっはは、やめっ!!!? だめぇぇぇっへっへっへっへ」
 上着越しにも関わらず、心愛には効果抜群のようで、心愛は涎を垂らしながらえび反りになって笑う。

「佐々木さん、そんなこと、わかるんだ……」
「結衣、全然わかんない……」
 杏奈は棒立ちする莉子と結衣をチラリと横目で見てニヤリと笑うと、くすぐる手をとめた。
「ぶはっ!!? ……げほぉぉ。けほっ、けほっ……」
 心愛は、解放された瞬間大きく咳き込み、ぐでっと脱力した。
「他人と喋っていると、なんとなく『この人もしかしてあの人のこと好き?』ってわかるときあるじゃないですかー。アレと一緒ですよ」
 ソファの上で脱力した心愛の身体を、杏奈はいとも簡単に、ごろんと仰向けに転がした。

「お二方」
 杏奈は、莉子と結衣を呼びつける。
「心愛さんの両手両足をしっかりと持っていただけますかー? ぴんと身体がIの字に張るようにー」
 莉子と結衣は顔を見合わせ、戸惑う。
「何やってるんですかー。自分が心愛さんの身体をくすぐるので、尋問はお二人でやってくださいって言ってるんですよー? 今ので、お二方より、自分の方が責めに適していることは明白じゃないですかー」
「あ、そういうこと……?」
 莉子と結衣は、杏奈に言われたとおり、心愛を押さえた。

「けほっ……せ、先輩達。な、何考えてるん、ですか? ……こんなことして、な、なんになるんですか」
 心愛はうっすらと目を開けて、頭上で両手を押さえつけている莉子の顔を見上げた。
「心愛ちゃんが、パスワードを教えてくれれば――」
「データベースなんか見て、何をするんですか! 興味本位でこんなこと、したことが、わかったら……、佐藤さんが、なんて言うか」
「えっ!? 佐藤くんっ!?」
「わ、私は佐藤さんに――」
 杏奈は、言葉を遮るように心愛の脇腹をぐにっと掴んだ。
「きゃはははははっ!!!?」
「お二人を惑わそうとするなんて、心愛さんも狡いですねー。余計なことを喋る口は、塞いでおかないとですねー」
 杏奈は片手ですばやく、心愛のブレザーのボタンを外すと、ワイシャツ越しにあばら骨をひっかく。
「ぎゃっぁっはっはっはっはっはっはっはっ!!? だぁっぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ」
「お二人とも惑わされないでくださいねー? 心愛さんは、助かりたくて必死なだけですから。パスワードさえ聞き出してしまえば、全校生徒の個人情報はお二人のもの! 情報を制する者には、明るい未来が待ってますよー?」

◆◆◆

 すると、莉子と結衣は手を離し、心愛を解放した。
「おや?」
 杏奈も手を止める。
「今、佐藤くんがどうのっていうの、すごく気になったから。それだけ聞かせてくれない?」
「……おーっと、これは、予定が狂ってしまいましたかねー……?」
 杏奈の呟きを無視して、莉子は、真剣な眼差しを心愛に向けた。
「……けほっ……、さ、佐藤さんは、私を信じて、データベースの管理を全任してくれたんです。パスワードを他人に漏らすなんて、佐藤さんを裏切るような真似、私にはできません」
「えっ!? どういうこと? 佐藤くんは、こうやって心愛ちゃんからパスワードを聞き出そうとしたんじゃないの? アタシらが上手く聞き出せたら、佐藤くんの信用も上がるって……」
 莉子は杏奈の方を見た。杏奈はそっと心愛の身体から下りると、自身の上着のポケットに手を突っ込み、そ知らぬ顔をした。
「パ、パスワードを聞き出すなんて、とんでもないです。佐藤さんは、私に協力を求めただけです。佐藤さんは、私のデータ管理責任者の立場をきちんと理解してくれていましたし、私のデータ管理責任者としての誇りを、尊重してくれました。私の使命は、佐藤さんが無事会長選挙に当選し情報開示を要求する権利を得るまでの間、――私が佐藤さんの『辞書』となる正当な理由を得るまでの間、データベースを守り抜くことです。……さきほどの先輩方の行為は、規則違反どころか、佐藤さんの意志に反するものです」
 心愛はゆっくりと身体を起こし、ソファに座りなおすと、服装を整えた。
 莉子と結衣は、杏奈を睨んだ。
「佐々木さん。話が違っ――」

『パスワードを教えてくれない?』
『先輩。きちんと規則通りの手順を―』
『やっちゃお』

 杏奈は、ICレコーダーを右手に掲げ、莉子と結衣に高圧的な眼差しを向けた。
「えー、さきほどの会話はすべて録音させていただきましたー」
「なっ……」
「さーて、お二人がボスのお気に入りの心愛さんを、拷問した挙句、勝手にデータベースを覗こうとしたなんて、ボスに知れたら、どうなりますかねー?」
 杏奈はふふんと鼻を鳴らす。
「なっ、さ、佐々木さん!? も、もしかして最初から結衣達をはめるつもりで……っ!!? だから佐々木さん、自分の声が入らないように、最初莉子ちゃんに全部言わせて……?」
 結衣は声を震わせた。

「おやおや、人聞きの悪い言い方はよしてくださいよー。自分はただ、従順な門下生が欲しかっただけですからー。ちょーっと最近、美咲さんと凛さんのラインが力をつけてきましてー。自分も実績を上げるためには、鞄持ちが――おっと、門下生が必要なんですよー。お二人に、ご協力願えませんかねー?」
 ニコニコしながら、杏奈はICレコーダーを指先で弄んだ。
「それ、脅してるの?」
 莉子は、杏奈の指先でくるくる回るICレコーダーを見つめた。
「そう取りますかー? 自分が『偶然』手に入れた音源には、それだけの価値があるってことなんですかね~~??」
 押し黙る莉子と結衣。二人の肩を、杏奈はそっと両腕で抱き寄せた。
「自分と一緒にいれば、悪いようにはしませんからー。お二方とも、嫌がる子を無理矢理に笑わせる楽しみは十二分に理解していただけたようですしー。貴重な体験、たっぷりと提供させていただきますよー? ほーら、しっかりと経験を積んでくすぐりスキルを身につければ、ボスに取り入るチャンスもありますよー。自分、テクニックについてはボスに一目置かれておりましてー。自分と一緒に居た方が、お二人の場合、と、く、に、チャンスは多いと思いますがね~~?」
「……チャンス」

「だ、騙されたら、ダメですよっ」
 ソファに座っていた心愛が声を上げた。
「……チッ」
「その音源、まったく証拠能力がありませんよ。お二人とも、そんな見せ掛けの脅しに屈する必要なんて、微塵もありません」
 心愛の言葉を受け、莉子は、
「で、でも……アタシたち。佐藤くんの意に反すること、やっちゃったのは、事実だし……」
「佐々木先輩の口車に惑わされ――、むぐぅっ!!?」
 いつの間にか心愛の後ろに回った杏奈は、心愛の口を塞ぐ。
「そうですよー? ボスにばれたら大変ですっ! 自分に従っていただいて、ボスに取り入るチャンスを作るのが、賢明だと思いますがねー?」
「んぐぅっ!!! んぐぅぅっ!!」
 心愛が暴れる。

「……結衣は、佐々木さんに従うよ」
「結衣ちゃん!?」
 結衣の言葉に、莉子はハッと顔を上げた。
「結衣さんブラボーですよー! 損得計算がきちんとできるのはすばらしいことですよー。莉子さんはいかがですかー?」
「…………」
 うーん、と考える仕草を取る莉子を見、杏奈はダメ押しする。
「おやおや、莉子さん。まさか、算数レベルの損得計算すら、ろくにできないほど、おバカさんなんですかねー?」
「んぐぅぅっ!!」
 心愛が激しく暴れるのを、杏奈はがっちりと押さえつけた。
「……わかったよ」
 莉子が折れた。
 と、同時に杏奈は心愛の口から手を離した。

「……っぷはっ、げほっ……せ、佐々木、先輩……。鼻まで塞いで……、窒息死させる気ですか……」
 杏奈は咳き込む心愛を見下ろすと、
「お二方!」
 莉子と結衣を呼びつけた。
「まずはこの目撃者を口止めしなければなりませんので、押さえていただけますか?」

 三人がかりで取り押さえられた心愛は、再びソファの上で、両手を万歳にしたIの字に押さえつけられてしまった。

●●●

「さぁ、心愛さん? 覚悟は良いですかー?」
 靴を脱ぎ、ソファの上で心愛に馬乗りになった杏奈は、両手の指をわきわきと動かして見せた。
「うっ、や、やめてください。佐々木先輩は、私を、く、くすぐる口実が、欲しいだけじゃないですか。……伊藤先輩、高橋先輩。ほ、本当に良いんですか!? 佐々木先輩なんかの言いなりになって」
「ごめんね。心愛ちゃん」
「結衣たちも、チャンス、欲しいから……」
 莉子と結衣は申し訳なさそうにしながらも、初めての悪事を楽しむ子供のような表情が垣間見えた。

「な、なんでわからないんですか……、佐々木先輩の言い回しなんて、悪徳商法の手口そのもの――ッ!!? ひぃぃんっ!!?」
 真剣な顔で語りかける心愛の右腋を、杏奈は左手の人差し指でつついた。
「そろそろ黙りましょうか、心愛さーん? まーだ立場が理解できてないようですねー? 自分に逆らったらどうなるのか、教えてさしあげましょーぅ」
「ひぃっ!! ひぃぃうぅぅんっ!!? うひぃぃんっ!! ひょっ!!? やめっ! いひぃぃんっ、くひぃんっ」
 杏奈が心愛の右腋をつんつんと突くたび、心愛の体はビクッビクッと震えた。
「心愛さんどうですかー? ぴーんと体が引き伸ばされてるせいで、余計にくすぐったいんじゃないですかー」
 言いながら、心愛の右肋骨辺りをトントンと指で叩くように突く。
「あはぁっ!!? ひひぃぃっ!! うひぃぃんっ!!? いっぅつっ!! くひひぃ、だっ!! だひゃっ!? だめぇぇっ」
 心愛の体が左側を弧にしてよじれる。

「莉子さん、結衣さん。体重かけてしっかり押さえてくださいねー。これからもっと激しく暴れますから」
 杏奈の命令に、莉子と結衣はコクリと頷いた。
 杏奈は左手でつんつんと心愛の右体側を突きまわしながら、右手で心愛のブレザーのボタンを外す。
「せっかくさっき脱がして差し上げたのにー、心愛さんは神経質さんですねー」
「ひひぃぃぃっ、やめっ!!! あひぃぃんっ……、くひぃぃんっ!!」

 心愛のブレザーを勢いよくバサっと観音開きにした杏奈は、心愛の脇腹を両手でぐにぐにと揉み始めた。
「くきゃはははっ!!? いやっはっはっはっはっは、ちょっと!!! ひぎぃっ!? いきなりっ! あははははははっ、少しは休ませてくださいぃぃ~~っ!!!」
 心愛の体が上下に震える。
「んーっ。良い声ですねぇ心愛さん。週に一度は聞かせていただきたい笑い声ですよー」
「きゃっはっはっっ!!? ぐるじっ、ひっひっひっひ、げほっ!! あははははは、ひひひひひ~~」
 力なく笑い涙を流す心愛を見、杏奈は手をとめた。
「ネクタイ取りましょうか。首がしまって苦しそうですねー」

 杏奈は心愛の赤いネクタイを解くと、心愛のワイシャツのボタンを上から三つ外した。
「……ひぃ、ひぃ。さ、佐々木先輩。わ、私は、ど、どうすれば……助かるんですか?」
「助かる、とは?」
「……く、くすぐるの、やめてください」
「なるほど。『なんでもするから、くすぐらないでくれ』という命乞いですね?」
「……っ」
 心愛は少しだけ顔をしかめた。『なんでもする』『命乞い』というワードが気に入らないようだ。
「ご心配なく。こちらとしても、ボスの辞書を勝手に持ち出したり、汚したりするわけにもいきませんからねー。条件付の交渉しかできないのは重々把握してますよー。……とりあえず、不可侵条約を結んでいただきましょうか」
「不可侵……、中立ってことですか? 佐々木先輩と対立関係にある人間に対し、佐々木先輩が不利になるような援助はしない……?」
「その通り! 心愛さんの口から、我々のことが漏れてしまいますと、我々、非常に動きづらくなってしまいますので、今後我々の行動は、すべて、黙って見過ごしていただきたいわけなんですよー」
「……だ、黙っているだけで、いいんですね?」
「おやおや、ずいぶん聞き分けがいいですねー」
「……この状況で、拒否する選択肢はありません」

 杏奈は心愛の不快そうな顔を眺め、フフンと鼻で笑った。
「心愛さんぐらいカシコイお方なら、後でこっそり告げ口する、なんて愚かな真似はしないとは思いますが……念のため、前払いで罰符をいただきましょうか。もし、口を滑らせたらどうなるか」
「なっ、え、えぇっ!!? ちょ――ッ」
 杏奈は、心愛の脇腹を再びくすぐり始めた。
「きゃっはっはっはっははっ!!!? なぁぁっはっはっはっはぁ、何のためのっ!!! ひひひひひ、何のための交渉だったんですかぁぁぁ~~っ」

 首を左右に振り乱して哄笑する心愛に、杏奈はニヤニヤと笑いかける。
「お~、さっきより生き生きしてますよー。やはり首周りは楽にしておいた方が良いですねぇ。自分、ブレーキのかかった笑いよりも、突き抜けた馬鹿笑いの方が見てて痛快です」
「あぁぁっはっはっはっはっはっはっ!! やめてぇぇっ!! 言いませんっ、誰にも言いませんってぇぇ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」

●●●

 杏奈はしばらく心愛の肋骨から脇腹をくすぐり回した後、心愛のワイシャツのボタンを全て外した。
「ほぉ~、今日はクマさんキャミじゃないんですねぇ」
「キャ……、キャラもの、着たことありませんっ」
 ワイシャツを観音開きにされ、薄紫色のキャミソールを晒された心愛は赤面した。

 杏奈は、心愛の全開になった右腋を、すっと左手の人差し指でひと撫でした。
「ひぁぅぅぅんっ!!」

「相当綺麗にケアされてますねー。それとも、生えない体質ですかー?」
「……っ」
 心愛はぎゅっと目を瞑り羞恥心を露にする。
 腋の下の腕筋がひくひくと動くのが見えた。

 杏奈は心愛の両腋の窪みに、そっと人差し指を近づけていく。
「ひぃっ!? ひぃぃっ、……ひゃっ、や、やめ、くふふ」
 指が触れずとも、心愛は肩をキュッとすくめて悶える。

「こちょこちょ」
「きゃははははっ!!? ……っ」

「口で言っただけですよー?」
 杏奈は、心愛の腋に触れるか触れないかの位置で指を寸止めしていた。
「もっ、ふひひっ……ぷふっ、きひ、……ダメです。やめて、ひひ、ください……。ホントに、くひひ、誰にも、……ぷふっ、告げ口なんてしませんからぁ」
 言いながら、心愛の腕の筋肉がぷるぷると震える。

「心愛さん。こんな無条件降伏のような形、悔しくないんですか?」
「あひっ、……仕方ありませんっ、ぷふふ、降伏しますっ」
 心愛の目には涙が浮かんでいた。頬は、今にも笑い出さんとヒクヒクと上下に痙攣している。

「じゃぁ、コレはすぐ諦めた罰ですよー」
 杏奈は両手の指を心愛の腋の窪みに乗せ、骨に皮膚を擦り付けるように動かした。

「なっ!!? ――あぁっぁぁぁぁっはっはっははっはははっ!!!? だひゃぁぁっひゃっひゃっひゃひゃっひゃっ!! ぐわぁぁぁぁ~~っっはっはっはっはっ、ひぃぃぃっはっはっはっは! 結局ぃぃひぃぃぃっひっひっひ、どう言ってもくすぐるんじゃないですかぁ~~っ」

 心愛はソファの上で上半身を上下に揺り動かして暴れた。
 腕と脚を押さえた莉子と結衣が、慌てた様子で体重をかけた。

「あぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! ほんどにぃぃぃひひひひひひひ、じぬぅぅぅうぅひひひひひひひっ!!! いやぁぁぁぁはっはっはっはっはっは」

 心愛は顔を真っ赤にして、涙を撒き散らしながら笑い狂う。
 口元ではぶくぶくと涎があわ立っていた。

「うーんっ。心愛さんは敏感肌ですねー。指先で弾いても結構効くんじゃないですかー?」
 杏奈は両手の指をワラワラと動かしながら、心愛の腋の縁辺りを弾く。

「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!? にゃぁっぁぁぁっはっはっははっははっはははっ!!! ひゃめぇぇっへっへへっへっへ、にへへへへへへ~~」

 心愛の鼻がじゅるりと音を立てた。
 発汗がひどく、髪の毛がオデコに張り付いている。

「おっと、心愛さん。もしかして、左腋の方が、弱いんじゃないですかー?」
 唐突に杏奈が言うと、心愛の左腋に顔を近づける。
「ひへぇぇへ……、もぅ……ひへへ、だずげでぇ~」
「良い感じに汗かいてますねー。指先でこそいであげますよー」
 杏奈は両手の指で、わちゃわちゃと心愛の左腋の下をいじくる。

「ぎゃぁぁぁぁひゃひゃひゃっひゃっひゃっひゃひゃっ!!! いひゃぁぁぁぁははは、やめっいぇぇへぇひぃひぇひぇひぇひぇえへっ~~っ!!!」

 心愛はほとんど泣き叫ぶように、甲高い声を上げた。
「一本橋こちょこちょって、いまどきの子でもわかるんですかねー? 腋の下は範囲が狭いので、ムーンウォークですよっ、ムーンウォーク!」
 杏奈はへらへらしながら、右手の中指と人差し指を、テンポよく交互に、心愛の腋の皮膚に擦り付ける。

「にゅへへへへへへへっ!!! きぃぇぇひぇっひぇっひぇっひぇっひぇっひぇっひぇ~~っ!!!」

●●●

 数分ほど心愛の腋を弄んだ杏奈は、
「莉子さん、結衣さん。解放していいですよ」

 莉子と結衣が力を緩めても、心愛はIの字のままぐでっと脱力したまま動かなかった。腕を下ろす気力も残っていないようだ。
「終り?」
 莉子が聞く。
「いえいえっ。おそらくもうそれほど激しく暴れる気力はありませんから、後は自分ひとりで充分です」
 言いながら杏奈は、自身のネクタイを取り、上着の袖をワイシャツごと腕まくりした。

「さぁて心愛さぁん」
 杏奈が、仰向けになった心愛を見下ろす。
「……ひぅぅ。もぅ、勘弁してくださぁい……」
 虚ろな目で、熱っぽい声を出す心愛。
「しおらしい声ですねー。余計に虐めたくなってしまいます」

 杏奈はソファの上で体を反転させ、心愛の左足を掴んだ。
「……さ、佐々木せんぱひ……、らめぇぇ~~」
 心愛は力なく杏奈の背中を掴む。

「おやおや、すっかり元気がなくなってしまいましたねぇ。でも、こうするとー」
 杏奈は、心愛の白いソックスの上から足の裏をくすぐった。
「みひゃひゃひゃひゃひゃっ!! もぅっ!! はひゃひゃひゃひゃぁっ!!?」
 心愛は杏奈の背中をどかどかと叩きながら笑う。

「元気になって何よりです」
「うはははははははっ!!! だめぇぇっ!! やめてぇぇ~~っへっへっへっへ、もうっ!! もう無理っ!! ホントにダメなんですぅぅぅっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
 渾身の力で暴れる心愛。
 杏奈はさらに体をぐるんと翻し、両脚で、心愛の股の間から左足を挟み込むような体位を取った。

「靴下脱がしますよー」
 杏奈は心愛の左足のソックスをつま先からびよんと引っ張り、脱がし取った。スクウェア型のやや偏平足気味の素足にのった小さな指が、一斉にきゅっと縮こまる。
 左手で心愛の足の甲を掴み、右手でカリカリと足の裏をひっかく。
「うひひひひひひひっ!! だまぁぁっはっはっははっははっ!!! もう許してっ! いひひひひっ!!? 許してぐだざいぃぃっひっひっひっひっひっひっ」
 心愛は上半身をねじり、ソファの上を這って逃げるようにもがく。
 杏奈はもがく心愛の左足を、がっちりとブロックした。
「足の指をそんなにくねらせても、逃げられませんよ~? 」
 右手の親指、人差し指、中指で食材を混ぜ合わせるように、心愛の足の裏をかき回す。
「ぎゃぁっぁっひっひっひゃっひゃ、あひひひっ!!! いぃぃぃひゃひゃひひひひひひひひひひっ、ほんろにぃだめぇぇへっへへっへへっへへっへっ」

 杏奈は右手で心愛の右足を押さえたまま、左手で、投げ出された心愛の左足のつま先を持って、力任せに靴下を脱がし取った。
「ふぇぇ、靴下返してぇぇ~~」
 心愛が顔を真っ赤にして弱々しい声を出した。
 杏奈は心愛の靴下をぽいっと投げ捨てると、心愛の両足首を持って開脚させた。自然とスカートがまくれ、薄水色のパンティが露になる。
「ふぁぁ~~……ぱんつぅ」
「今更何恥ずかしがってんですかー? そんなに股間が寂しいならぁ――」

 杏奈は右足を前方に突き出し、ぐりっと心愛の股間に押し当てた。
「はひゃぁぁんっ!!?」
 心愛の体が弓なりに仰け反る。
「おやおや、心愛さんややしっとりしてるじゃないですかー。高校生にもなってお漏らぁすぃですかー? それともぉ」
「ちがっ、ひひゃぁっ!? あせぇぇぇっ! 汗ですよぉっ、うひひ、ひひひっ……ひひひ! だめぇっ!!! 足っ!!! 足離してっ!! きゅひひひっ、ホント無理っ!! くすぐったいっ!! そんなとこっ、ひひひひっ、ひゃめ、やめてくださいっ」

 杏奈は右足の親指をきゅっと微動させた。
「くひゃぁぁぁぁんっ!!? だめぇぇぇっ!!! 動かさないでぇぇぇぇぇひひひひっ」
「秘部への直接刺激も、内股にソックスが擦れる間接刺激も、たまりませんかー? 喜んでいただけて嬉しいですー」
 杏奈はふふんと微笑むと、心愛の股間に右足をドドドと押し付けるように振動させた。
「ひゃぁぁぁっあっあっあっあっあっあぁぁぁ~~~っ!!? くわぁぁっぁ、ひひひ、はひひひひっ!!! ぎゃぁぁっぁっひぁぁぁぁ~~っ!!!」
 心愛は、両腕をバタバタさせながら、上半身をソファに打ち付けてもがいた。
「変になるぅぅぅ~~、くしゅぐったすぎてぇぇ、いやぁぁぁぁっはっははっはは~~っ!!」
 杏奈の掴んだ心愛の足の指先は、びくびくと痙攣していた。
「むでぃぃぃぃぃっ!! やめてぇぇぇっひっひっひっひ、ぃっいっぃっぃっぃ!!」

「ではー」
 杏奈は右足を心愛の股間から引き抜くと、今度は上半身ごと心愛の股の間に陣取る。
 肘を張って、心愛の膝を押さえ込むと、心愛は強制M字開脚の状態で、ほぼ身動きが取れなくなった。
「だずげでぇぇ……」
 心愛の顔は、頬の筋肉が引きつって、笑っているのか泣いているのか、よくわからない状態だった。
「おやおや心愛さん。股関節周り汗でびっしょりじゃないですかー」
「いぅぅぅ、いわなぃでぇぇ……」
「オシメ換えましょうねぇ~~」
 言うと杏奈は、親指を心愛の脚の付け根にぐりっと押し込んだ。
「きゃひゃひゃひゃ!!? うひぃぃっ、だぁぁっ!!」
 心愛の奇声を楽しみながら、杏奈は指を、心愛の股関節周りの汗を掬い取るように蠢かした。
「にぃぃゃぁぁぁっはっはっはっはははっはっ!! あへぇぇあへぇっへっひぃひぇひぇひぇぇ、やめてぇぇ~~っ!! いぃぃっひっひっひっひっひ、きっひっひっひ」
 顔を真っ赤にして、絶叫する心愛。
 体力も限界に近いのか、肘や膝がガクンガクンと鈍く跳ねた。四肢には力が入らないようだ。

 杏奈は両手の指をわちゃわちゃと、心愛の股間で動かす。
「いぃぃぃっひっひっひっひっひっひっひ、はひはひはひっ!!!? ひっひっひっ! おじっ……ぎっひっひっひっひっひ~~」
 目をひん剥いて笑う心愛を見、ついでくすぐったさにヒクヒクと痙攣する股間を見て、杏奈はニヤリと笑った。
「莉子さん。結衣さん。雑巾とバケツ、準備しておいてくださいね」
「えっ?」
 放置されていた莉子と結衣は顔を見合わせた。
「もたもたしないでください。後、隣室、『佐々木』と表示のあるロッカーから、一番大きなバッグ持ってきてください。至急です」

●●●

「ひぃぃー……ヒヒヒ、ぐふぅ、ぅひひひひ……」
 杏奈が手を止めると、心愛は舌を出したまま荒い息を立てた。
「心愛さぁ~ん」
「ヒ、ヒヒ、……もぅゆるじで、ぐれるんでずが?」
 心愛は、焦点の合わない目を杏奈に向けた。
「ずっとおしっこ我慢してたんですよねー? 大丈夫、最後気持ちよぉ~く出させてあげますのでー」
 杏奈のニッコリと満面の笑みを浮かべる。
 心愛はしばし呆然と杏奈の顔を見つめた。数秒ほどかけてようやく言葉を理解したのか、ぎゅっと目を瞑りぶんぶんと首を左右に振った。
「も、もぅいやぁぁ」
 心愛はぼろぼろと涙を流した。

「さぁ、ラストスパートですよー」
「いやぁっ」
 ソファの上を這って逃げる心愛の左足首を掴んだ杏奈は、そのまま心愛の素足の土踏まず辺りを人差し指の爪でガッガッと引っかいた。
「ひゃぁぁぁっはっはっははっはっははは!! あぁぁひゃひゃひゃひゃ、ひぇひぇひぇひぇひぇへぇ。ひぃぃぃひぃひぃひいぃひぃひぃひぃひぃぃぃ」
 ぐでっとソファに突っ伏したまま、狂ったような笑い声を上げる心愛。
「心愛さん、もう暴れることすらできず、ただのくすぐられマシーンのようですねー」
「あひひひひひひひひ、漏れるぅぅぅひひひひいひひひ、漏れぢゃうぅぅぅぅうへへへへへへへへへへ」
 杏奈は心愛の足の指の間をくりくりといじりながら、めくれ上がったスカートからのぞく心愛の内股の痙攣を見る。
「にゃぁっぁぁっはっはっははっははっははっ、だめぇぇぇっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ、もぅっ!!! ぎひひひひひ……」
「さぁ限界ですね。とどめです」
 杏奈は心愛の足の人差し指と中指を持って反らせると、ぴんと張った足の指間、指の付け根を、指先でカリカリ、チロチロとねちっこく弄り回した。

「――ッ!!? ぎゃッ……あぁぁぁぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、あひゃぁぁああああぁぁぁぁぁぁっ!!!?」

 心愛は白目を剥くと同時に、失神した。
 パンティから流れ出た聖水は、布を湿らせるよりも早く、脚の付け根から零れ落ちた。
 ポタポタとソファから床に落ちる音。杏奈は、ゆっくりと心愛の左足を置きながら、心愛のパンティが湿り気を帯びて変色していく様子を楽しんだ。

◆◆◆

「お二方」
 杏奈は、くるりと首を莉子と結衣に向ける。
「は、はいっ!?」「ふぇっ!?」
 バケツと雑巾を持ったまま突っ立っていた莉子と結衣は同時に素っ頓狂な声を上げた。
「雑巾とバケツとバッグ置いたら、今日のところは帰っていただいて結構ですよー。今後ともよろしくお願いしますー。自分が呼び出したら飛んできてくださいねー」
「えっ……」
 莉子が声を上げた。
「どうしましたー? ぽかんとして」
「アタシ達が掃除するんじゃないの? だって、佐々木さんの門下生って……」
「お掃除したかったんですか?」
「い、いや……その」
 莉子は言いよどんだ。
 杏奈はフフンと鼻でわらった。
「『やらされる』と思ってましたかー……ちょぉっと心外ですねー。では、迷走中の門下生に教訓の一つを伝授しましょうかー」

 杏奈はガチャンとバケツを持ち上げ、雑巾を手に取った。
「自分で遊んだおもちゃは、自分で片付ける。自分で片付けられないおもちゃでは、遊ぶべからずですよ」

(完)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 左ブックマークにございますブログ"らくがきをば@あい"の管理人であられるAisutea様よりいただいた絵をご紹介いたします。
心愛(ai様より頂戴)
 心愛!
 ダブルピース! 右腕のタグから、アホ毛までばっちり再現していただきました! トマトのように顔を赤らめて、唇をかみ締めている感じがたまりません。冷静なコンピューターをいじり倒して困惑させるのはさぞ楽しいでしょう! 本編ではもっぱら杏奈の専売特許になっておりますが……。
 こちらのイラストは2012年の10月にいただきました。
 メンバー随一の記憶力を誇る頭でっかちのマニュアル人間心愛をいじめまくった本作の表紙に使用させていただきました。