調教くすぐり師の指



高校二年生の佐藤蓮(さとうれん)は表向き明朗快活な男子学生。学級委員長を務めている。
物心ついたときには、すでに「くすぐり」という性癖に目覚めていた。
嫌がる女の子を無理矢理くすぐり、意思に反して笑わせる状況、苦しむ女の子の姿を想像して、蓮は激しく勃起した。
小学生のころは、子供向けアニメに出てくるくすぐりシーンを録画し何度も見返した。
中学生のころは、深夜両親が寝静まった後でこっそりと起き出し、ネット上のフェチサイトを巡回した。
そして、高校生になった蓮には新たな欲求が沸き起こっていた。

本物の女性をくすぐってみたい。

実行計画を頭の中で組み立て妄想旅行を楽しむ日々を過ごしていると、好機は訪れた。
両親の海外赴任が決まり、両親は半年間家を空けることになった。
両親が発つと、そこそこ大きな一軒家が丸々蓮の自由になった。
蓮はさっそく、折りたたみベッド、ビデオカメラ、ロープ、防音用絨毯など必要物資を通販で購入し、来客用寝室を模様替えした。



●●実行一日目(月曜日)●●


最初のターゲットはすでに決めてあった。
女子学級委員長、斉藤陽菜(さいとうはるな)。
成績・運動神経ともに上の下。身長は見た目162cmぐらい。肩まで伸びた髪をポニーテールに括っている。
容姿から中身まで、すべてにおいて「バランスが良い」と表現できる女子生徒だ。
誰にでも分け隔てなく接する彼女の周りには、いつもキラキラとした笑顔で溢れていた。

彼女を調教してしまえば、クラスの女子を動かしやすくなる。

放課後、蓮はさっそく陽菜の席へ向かい、爽やかに声をかける。
「やあ、斉藤さん。今日このあと時間ある?」
「あ、佐藤君。このあと? どうしたの?」

さすがは委員長。一昨日完全移行したばかりの冬服紺ブレザーは清潔感のある着こなし。
スカートもしっかり膝上2cm以内を守っている。
こちらの用件を聞くまで隙を見せないところも流石だ。

「次の文化祭のクラスの出し物について事前に打ち合わせておいた方がいいかと思ってさ」
「何を?」
「ホームルームの時間だけで、クラスに案を出してもらって意見を一つにまとめるのは難しいだろう? だからあらかじめクラスの皆に根回しをする。根回しする案をいくつか相談しておこうと思って」
「え? それって不正じゃないの?」
「いやいや、根回しはホームルームを円滑に進める上で大切だよ。根回しすることによって、無責任な発言に踊らされる、非現実的な案が面白そうというだけでなんとなく決まってしまう、そういった危険を回避できる。しかも、あらかじめ現実的な案をいくつかに絞っておく方が、準備もしやすい」
「う~ん……」
「そこでほら。ここ十年間の文化祭出店記録を先生からもらってきた。失敗例、成功例を僕たち委員長がしっかり分析、吟味して、よい文化祭にしようよ!」
蓮は素敵な営業スマイルを陽菜に見せた。

「……佐藤君、よく考えてるんだね。うん。私、委員長今年はじめてだからわからないことだらけだね。うん! 協力するよ。でも……」
「でも?」
「テスト期間中だから、あと十分ぐらいで校舎締められちゃう。資料、かなり量ありそうだし……」
「あちゃぁ、そうだったかぁ! どうしようか……」
「この近くに喫茶て――」
「あ! だったら僕のウチでやろうよ。ここから歩いてすぐなんだ。ハハッ」
「お邪魔していいの? だったらその方が周りに気を使わなくていいから助かる」

家に到着し、陽菜が両親に委員の仕事で遅くなる旨をメールしたことを確認してから、蓮は陽菜の顔に催眠スプレーを一吹きした。
眠った陽菜を抱え、準備した部屋に運ぶ。想像以上に軽くて驚いた。
折りたたみベッドに横たえ、ロープで両手足首を縛った。
仰向けでX字型に拘束された陽菜の寝顔を見ると、蓮は興奮した。

◆◆◆

「う……、う、ん?」
陽菜が目を覚ました。
「……え、えっ!? な、何っ?」
陽菜は自分の置かれた状況に、目を白黒させた。
「おはよう」
「さ、佐藤君……? なん、で……」
蓮は無言で陽菜の腰に「よいしょ」とまたがり馬乗りになると、ブレザーの前ボタンを上から順に外していく。
「佐藤君? な、何するつもりなの……っ? やめて」
陽菜は声が震えている。

「大丈夫、怖がる必要はないよ。痛いことはしないから」

「え、痛いって? ……きゃふんっ!!?」
蓮が人差し指を陽菜のワイシャツ越しの両腋の下に突っ込んだと同時に、陽菜の体がびくんと悶えた。
「きゃひっ!? ……ふ、ふふん、な、なにっ!? なひゃひぃぃっ!!」
「指一本ずつなのに結構利いてるね。斉藤さんってくすぐったがり?」
ほじほじと人差し指を動かせながら下へ下へと陽菜の腋をいじる。
「くひゃぁっ!!! ひっ、いひひひ。や、やめてっ……」
ブラの紐の部分が少し盛り上がっている。蓮は、そこを弾くように指を動かす。
「ちょぉぉぉっ!!? なひゃぁぁっ、なん、そんなとこっ!! きゃっ!? きゃはははっ」

陽菜は顔を真っ赤にして、首を左右に振ってくすぐりに耐えている。
万歳で下ろせぬ肘をがくがく震わせ、身をよじる姿はとてもかわいらしい。

「斉藤さん? 気持ちいい?」
「くひひひ、な、なんでっ、そ、きひっ!? そんなわけっ、やひひぃぃっ!!」
「じゃあ気持ちよくなるまでやってあげるからね」

蓮は爽やかに微笑み、陽菜の肋骨を両手で鷲づかみにし、ゴリゴリと揉みほぐした。
「ぎゃははははっ!?? なひゃっ!! なはははははっ~~!!」
陽菜は下品に口を開け、笑い出した。
「ひゃひゃひゃひゃっ!!!! だひゃっ!? だめっ!! うひひひひひひ!!!」
「斉藤さん、弱いねぇ。いじめがいがあるよ」
「きひいっひひひひひひっ~!!! ひゃめてぇぇへへへっへへへ」

蓮は一旦くすぐりを止め、陽菜のワイシャツの裾をスカートから引っ張り出した。
「……はぁ、な、なにっ……?」
大きく息をつく陽菜の素肌、脇腹の辺りを爪でこそこそとくすぐる。
「あははははっ!!! あははっ、ひひひひひっ~~」

感度が上がっているせいか、陽菜はソフトなくすぐりにも大きなリアクションを取る。
追い討ちをかけるように蓮は陽菜の腰辺りをもみもみとくすぐる。
「あひゃっ!!? はひゃひゃひゃひゃひゃっ~~!!! やめぇぇぇぇっ」

びたんびたんと背中を打ち鳴らしながら笑いもだえる陽菜。
口からは泡を吹き、目には涙を浮かべている。

しばらく脇腹と腰の良好な反応を楽しみ、蓮はくすぐりの手を止めた。
「どう? 気持ちよくなってきた?」
「……ひぃ、ひぃ……もう、か、かんべん、して……」
陽菜は息も絶え絶え、まともに会話できなくなってきた。
ここからが正念場である。

蓮は陽菜の足元に移動する。
陽菜の白いハイソックスは少しむっちりしたふくらはぎを覆っており、足の裏はほんのり薄茶色に汚れている。
蓮は陽菜の右足を掴み、土踏まずの辺りを人差し指でほじくった。
「やはははははっ!!! もうひゃめっ、て、だめっ、にひひひひひひ~」

陽菜は足をくねらせる。くすぐっていない方の足もびくびくと痙攣している。
膝を曲げようとがくがくと身をよじるのだが、両足首のロープはきつく、ギシリと空しい音が響くのみだった。

蓮は陽菜の反応を楽しみながら、右足からハイソックスをつま先からゆっくりとひっぱり、抜き取る。
すぽんと現れた陽菜の素足は、やけに白いギリシャ型の偏平足だった。
ふくらはぎの辺りにゴムの跡が付いており、いとをかし。

「ほ、ほねがい、……ひゃめ、やめて」
足の裏の皺の間に若干ゴミが挟まっていたので、蓮は爪を立ててほじくりだしてやった。
「ぎひゃひゃひゃひゃっ~~~!!! うひゃひゃっ、あひひひっ、きっひっひっひっひっひ~~~!!!」
「指の間も綺麗にしようね」
「きゅふふふふっ!!! ふひゅひゅひゅひっひっはっはっはっは~~!!」

蓮は陽菜の左足のソックスも脱がし、両足の裏で遊んでやる。
蓮の十本の指に連動するように、陽菜の足の十本の指も踊るように動いた。
「きゃひゃひゃひゃっ、きゃひゃひゃっ!!! やめっ、あひひひひひ、ぃぃぃいいっひっひっひっひっひっひっひっ!!!」

陽菜の頭上に移動した蓮は、ふっと息を陽菜の耳に吹き付けてやる。
「あひゃぁん」
それを合図にして、再び陽菜の腋の下をくすぐり始めると、陽菜は先ほどとは比べ物にならないほどの悲鳴を上げた。
「気持ちいいでしょう?」
「あっひゃっひゃっひゃっひゃ~~~」

蓮は、陽菜の腋の下をくすぐりたてながら耳元で囁く。
「くすぐられると、気持ちいいんだよ?」
「いひゃひゃひゃっ!!! あっはははっはは~~」

顔をぐしゃぐしゃに歪め笑い狂う陽菜の姿を見て、蓮は興奮した。
「気持ち良い?」「気持ちいいだろう?」と何度も陽菜の耳元で囁き続けると、徐々に陽菜のしかめ面が緩んでくるのがわかった。
蓮が囁くたびに、陽菜は否定のつもりかぶんぶんと首を左右に振るが、その反応も徐々に鈍くなっていく。

数分間腋の下を責められ、びくびくと体を痙攣させて大笑いしていた陽菜は、とうとう失禁してしまった。
「あーあ、おしっこ出るほど気持ちよかったんだね?」
「ひゃはははっ、ひひひひっ……」

その後2時間ほどくすぐり続け、陽菜はついに陥落した。
「ひひ、ふひひひ……きもひ、よはったれす……」
「君は僕の何?」
「ひひ、……ぺっと、れす」
「僕の言うことは」
「いひ、絶対、服従」

陽菜の調教に成功した蓮は、明日からの活動に期待を膨らませた。
調教失敗に備えて一部始終録画していたのだが、杞憂だったようだ。
想像以上に楽に落とすことができたため、蓮は自分の手腕に自信が持てた。



●●実行二日目(火曜日)●●


陽菜は学校ではいつもと変わらぬ明るい笑顔を見せていた。
なかなかの演者だな、と蓮は感心する。

二人目のターゲットも事前に決めてあった。
テニス部員、伊藤莉子(いとうりこ)。
華奢な体付きで、身長は160cmあるかないかに見える。
髪の毛は両耳の後ろやや下辺りで二つ束ね、両肩に乗っけている。
歩くたびにミニツインテールがぽんぽんはねるのは大変かわいらしい。
天真爛漫で、明るく元気。だからといって傍若無人というわけでは無い。誰にも嫌われないタイプの女の子だ。
運動神経は抜群らしいが、成績はあまりよろしくない。
そこで、テスト期間中はよく仲の良い陽菜と一緒に勉強をしているとか。
蓮はテスト期間というタイミングを上手く利用しようと考えていた。
莉子は勉強ができないことに、劣等感を抱いている。
精神的な弱点がある娘は落としやすい、と蓮は考えた。

「陽菜ちゃん! 数学全然わからないから、ごめんだけど、今日放課後教えてもらえるかな?」
莉子は明るい笑顔で陽菜に話しかける。
「いいよ。あ、でも今日ウチちょっとダメなんだ」
「えっ! そうなのっ?! じゃぁ図書館とかかな?」

勉強会は通例徒歩通学圏内の陽菜の家だった。莉子が電車通学であるゆえの配慮だ。
「今日友達の家で勉強する約束あるから、そこに一緒に来てもらってもいい? すぐ近くだから」
「えっ? 陽菜ちゃんの友達、急にアタシが行っても迷惑じゃないかな?」
「大丈夫、莉子ちゃんのこと知ってるから」
「ホント!? 誰っ? アタシの知ってる人!?」
「ヒ、ミ、ツ」
「え~」

ぷくっと頬を膨らませてはにかむ莉子を遠目で見ながら、蓮は「悪い顔」を「爽やかスマイル」に整え、「じゃぁ皆また明日ねハハッ」と片手を上げ颯爽と教室を去った。

陽菜を信用しきっている莉子は何の警戒もなく蓮の家に入った。
待ち構えた蓮は催眠スプレーを莉子の顔に吹き付けて眠らせると、抱き上げて部屋まで運び、陽菜と同じようにX字に拘束する。
莉子を持ち上げる際「軽っ!?」という蓮の感想に、陽菜は嫉妬したのか少しだけ頬を膨らませた。

◆◆◆

「んぅ」
しばらくして、莉子が目を覚ます。
「えっ!? 佐藤君!!? え、これ……どういうことっ?!」
莉子はギシリと両手両足に結ばれたロープを軋ませ、驚きの声を上げる。
すぐ感情が「怒り」に行き着かないのは莉子の人柄か、それとも外出用蓮の周到な役作りによる賜物か。

「伊藤さん。陽菜よりは冷静だね」
「え、は、陽菜ちゃん!?」
陽菜の方を見やり、蓮と交互に見比べる莉子。
「ど、どういう、ことなの?」
無表情の陽菜を前に、声のトーンを落とす莉子。
「アタシ、騙されたの?」
莉子の目に涙が浮かぶ。

「伊藤さんって数学苦手なんだってね」
「え?」
蓮は涙目の莉子のスカートに手をかける。
「ちょ、ちょっと、佐藤君!? 何をっ?!!」
「校則は膝上2cm以内。明らかに10cm超えてるから没収。こんなに折り曲げて……」
莉子のスカートを脱がすと、下には紺色のクウォーターパンツを履いていた。
「伊藤さん、電車通学でしょ? スカート濡れると帰り道困ると思うから」
「え? どういう……」

蓮は、莉子の両足の白いハイソックスを掴み、びよんっとひっぱり脱がし取った。
「ひゃっ!?」
現れた莉子の素足はなかなかの美脚で、スニーカーソックスの跡があった。
なるほど、テニスのときはいつも履き替えているのか。

足の裏を見ると、綺麗なエジプト型で、土踏まずは見事なハイアーチ。
足裏の中心は普段地面とまったく接触しないためか、真っ白だった。

「陽菜は左足」
蓮の指示に陽菜は黙って頷き位置に付く。
「えっ? えっ? な、何するの!?」
「数学なんてできなくても、もっと楽しいことがあるって教えてあげるよ」
「え、どうい……っ!!! ひぅっ!!? きゃっ、きゃははは」

蓮は莉子の真っ白な土踏まずを5本の指でカリカリとかき回した。
「きゃははははっ!!! ちょまっ! ちょまっ、ちょっと、あっはっはっはっはっはっ~~」
莉子は甲高い笑い声を上げ、ミニツインテールをぽよんぽよん振り回した。
「にょははははははっ!!! たっひゃっひゃっひゃっ、くしゅぐったいよぉぉ~~」

陽菜は莉子の左足の踵を掴み、足裏上下から中心を引き裂くよう、十本の指を駆使して引っかいていた。
「いひゃひゃひゃひゃっ!!! やめてぇぇぇっ!!! きゃっはっはっはっは」
莉子の足の指がシュリシュリと音を立てながらくすぐったそうにめちゃくちゃにうごめく。

「大きな親指だね」
蓮は莉子の足の親指を片手で掴み足の裏を反らせ、
指の付け根からぷっくら膨らんだ親指の付け根までのわずかな範囲を縦横無尽に引っかいた。
「やひゃひゃひゃひゃっ!!!! にょぁぁぁああああっはっはっはっはっは~~」
膝をがくがく振るわせる莉子。
上半身冬服ブレザー、クウォーターパンツに生足という格好はかなり特異である。

しばらく足の裏を弄繰り回したあと、蓮は上半身に移動し、莉子の腰にまたがる。
莉子と対面すると、莉子の顔はすっかり涙と涎と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

「楽しくなってきた?」
「あひゃひゃひゃっ!!! ひゃひゃひゃ、は、陽菜ひゃん!!! きゃはははっ、タイムっ!!! タイみゅひゃひゃひゃひゃ~~~!!!」
莉子が泣きながら懇願しても、黙々と土踏まずをほじり続ける陽菜。
「陽菜、一旦ストップ」
蓮の言葉に陽菜の手がぴたりと止まる。

「ふひぃ……げほぉっ、けほっ……」
莉子は胸を大きく上下させて、深呼吸をした。
「楽しくなってきた?」
「た、げほぉ……楽しい、わけ、ない、けほっ」
「陽菜」
蓮の言葉で、再び陽菜は指を激しく動かし始める。
「うひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!! きゃぁぁぁっはっはっはっは~~」

蓮は、大笑いする莉子の左のミニテールを持ち上げ、右手で莉子の首筋を触る。
「あひゃんっ!! ひゃはははっ、ひゃんっ!? ききっ!! うひゅひゅ」
いやいやと首を振る莉子だが、顔は真っ赤、時々薄く開かれる目には恍惚の光が宿ってきている。
「本当はもう気持ちよくなっているんだろう?」
「やはははっ!!! そんにゃっ!!!? ことぉ、あひんっ!? きゃはは」
蓮は時々人差し指を莉子の耳の穴に入れてみたり、うなじの後ろに這わせたりしながら、ぞくぞくと莉子の精神を崩していく。

「ほら、数学の問題が解けたときの快感ってあるだろう?」
「あひゃっ!!? ひゃひゃひゃ、ひははは~」
蓮は右手を莉子のうなじから服の中、背中へと這わせていき、ブラのホックを外した。
「あきゃっ!!? いひゃんっ、ひひひ」
「あんな一時的な快感より、よっぽどこっちの方が、気持ちよくないかい?」
「ひひひっ、うひひひ」
「1+2+3+4がわからなくても、人生楽しんでる子だっているんだよ?」

蓮の手は服の中で莉子の右腋の下へ到達し、思いっきりツボ入れする。
「あひゃっ!!!? あぁぁぁぁっはっはっはっはっはっはっ!!!! きゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~~!!!!???」

◆◆◆

結局莉子が完全に落ちるまで、開始から二時間もかからなかった。
莉子は失禁してしまい、汚れたパンツとクォーターパンツをナイロン袋に入れ、
素肌にそのままスカートを履いて帰る羽目になった。
この日初めて、莉子は校則通りきちんとスカートの長さを戻した。



●●実行三日目(水曜日)●●


陽菜も莉子も今までのなんら変わらない表情をしている。女性の切り替え能力は恐ろしいものだな、と蓮は感心する。
「きーみーもだよっ」
急に話しかけられヒヤリとする。蓮が顔を上げると、莉子が天真爛漫な笑みを浮かべている。
「ああっ、伊藤さんか! どうしたんだい?」
「女の表裏って怖いって顔してたよ? 君の方がよっぽど怖いよ」
「ハハッ! 褒め言葉として受け取っておくよ」

爽やか学級委員長とクラスのムードメーカーの会話は、日常茶飯。
クラスメイトのほとんどは気にも留めない。
……はずだった。

「で、今日は誰にするのかな? 品定め中かな?」
「生々しい言い方はよしておくれよハハッ。選別だよ」
「そっちの方が生々しいよ~」

まさか、これだけの会話で勘付かれるとは思っていなかった。
爽やかに笑いながら話す後ろで、ペラリとページのめくれる音がした。

◆◆◆

三人目のターゲットは即席で決まった。
図書委員で文芸部員、山本美咲(やまもとみさき)。
几帳面な性格で、厳格かつはっきりした物言いをする。人当たりが良いとは言いがたいが、進行役が上手く的確な発言をするため、なかなかクラスで発言権があった。美咲が言葉を発すると、クラス一同「山本さんが言うなら、……合ってるんじゃない?」と尻込みしてしまう。美咲を「恐い人」として敬遠する者も少なくない。
身長は151cmよりやや高い程度。ちょうどよい小柄という体型で、髪型はボブカットである。
成績はかなり良いはずだが、今日は偶然、陽菜のところへ参考書の答え合わせにやってきた。
クラスの中で美咲が気を許した数少ない相手が陽菜だった。これを利用しない手は無い。

美咲は「せっかくだから、他の問題も一緒にやらない? この参考書難しいよね」という陽菜の誘導にまんまと引っかかり、捕まってしまった。
X字で拘束され仰向けで寝息を立てる美咲の顔を見ながら、蓮は陽菜の人脈の広さに感嘆する。

陽菜を調教しておいて良かった……っ!

◆◆◆

「……ん」
美咲は目をうっすらと開く。ギシっと四肢の先でロープが軋む。
美咲は黙って目をきょろきょろとさせ、状況を把握しているようだった。
部屋には目の前に蓮。その後ろに陽菜と莉子がつつましく並んでいる。

「委員長。これはどういうことですか?」
一通り辺りを見回した美咲は、目の前の蓮をギョロリと睨みつけ冷たく言った。
「山本美咲さん、僕は君が好きだ」
「は?」
美咲は一瞬ポカンとしたが、歯を食いしばり、頬を赤らめるような隙は見せなかった。

しぶといかもしれないな、と蓮は思う。
美咲は、ストレートな感情表現に弱いと踏んでいた。
それは美咲と個人的に接点の多い陽菜と、人付き合いの得意な莉子の話、及び蓮の経験則から導き出した攻略法だった。
美咲を落とすにあたって、蓮は今日、一生分の臭い台詞を吐きまくる予定だった。

「委員長。ふざけてるんですか?」
美咲はできるだけ感情を込めないように言っているようだった。
「とんでもないっ! 君の心と、僕の心をしっかりと通わせたい」
蓮は美咲の腰にまたがり、美咲のブレザーのボタンを外す。
「私をレイプする気ですか?」
冷淡な目を向ける美咲だったが、ほんの少しだけ声が上ずっている。
恐怖か。美咲が恐怖しているのか! 蓮は興奮で手が震えた。
「委員長。見損ないました。私、絶対に泣き寝入りなんて、しませんから」
「レイプなんてしないよ。僕だって、絶対に、君を泣き寝入りさせたりなんてしない」
「…………?」


蓮は、美咲のブレザーの前を観音開きにする。
「今日この瞬間は、君との愛の始まり。忘れられない快楽になるよ!」
蓮は両手の人差し指をズンッと美咲の両腋の下に差し込む。
「んぐ……っ!!?」
そのまま中指、薬指を交えこちょこちょと動かしながら、美咲の腋の下を掻き毟る。
「くっ……い、委員長!? ……何を?」
美咲はぐっと奥歯をかみ締め、頬をひくひくさせている。
「おお、耐えるね。でも僕の愛はこんなもんじゃないよ?」
「な……、くっ……! 何が、……愛ですか、……ぐ、こんなことっ!」
蓮は両手を十本の指をうごめかせながら、美咲の腋から背中、あばら、脇腹あたりを縦横無尽に這わせる。

「君が好きだよ」
「あっ、……さっき、……聞きました、ぐ……っ」
美咲は目を逸らせた。
蓮は、両手の親指を美咲の肋骨にグリッと押し込む。
「うぐっ!!? ……んく、……」
美咲の歯がギリッと鳴った。

「しぶといねぇ。まだ心を開いてくれないのかい?」
蓮が美咲の肋骨辺りをサワサワと撫で回すと、美咲の体がびくっびくっと震えた。
「くっ……ふっ……、ん」
「答えてよ」
蓮はふぅっと美咲の耳元で息を吐いた。
「ふぁっ!? ……んぐ、へ、変態……」

直接的な暴言は、精神的に追い詰められている証拠。
蓮は美咲の腰をぐにぐにと揉んでやる。
「んくぅっ! ……」

蓮は「好きだ」「好きだ」と美咲の耳元で囁きながら、美咲の体を弄んだ。
だんだん美咲の顔が火照ってくる。
目を開けていられなくなったのか、美咲は固く目を閉じ、苦悶の表情を浮かべる。
額には冷や汗が滲み、しっかりとかみ締めた奥歯で、なんとか笑いを押し殺しているようだ。

「く、……んぅっ……、い、委員長……っ! やっ、……」
蓮は美咲のお腹辺りのワイシャツのボタンを外す。
「可愛いおへそだね」
人差し指で、露出させされた美咲のおへそをいじる。
「あぁっ!? いっ、……やんっ……ばっ、ひくぅぅぅ」

おへその周りを爪で円を描くように、やさしくなぞる。
「ふぅく……っ!? ……もう、ひっ……ひ、いい加減に……っ!!」
「好きだよ」
「……んぅ、ぐっ……」
美咲は、引きつった顔で蓮を睨んだ。体はびくびくと上下に震え、ロープがギシギシと音を立てる。

ほとんど限界が近いはずなのに、未だ笑い声の一つも上げないのは強靭な精神力ゆえか。
「美咲は、強いね」
「……っ」
一瞬びくんと美咲の体が大きくうねり、蓮を睨む。そして、固く目を閉じた。
「美咲……」
もう一度ファーストネームを呼ぶ。
「君は強い」
「んぐっ……」
蓮は自身の体を徐々に下半身に移動させ、スカートの裾の下に露出した膝小僧をつついた。
「あふぅっ……!! んんっ、……だ、だめ」

蓮は、美咲の性格にだんだん確信が持ててきた。
「美咲の強さが欲しい」
「……ん、はっ? ……んなっ、……」
「僕には君が必要なんだ。だからどうか、僕を受け入れてくれないか?」

負けず嫌い。
蓮は彼女の性格をそう判断していた。
美咲の精神を保っているもの、それは「負けたくない」という強い意志。
ならば、美咲の怖れる「敗北」を、甘美な「享受」に変えてやれば良い。

蓮は爪を立てこしょこしょと指を動かせながら、美咲の膝裏から膝小僧へと往復させる。
「んふぅっ……、ふっ……くふ、んふ」
「美咲。好きだ。君の力になりたい」
「んんん~~……」
美咲は目をぎゅっとつむり首をぶんぶんと振る。
揺らぎかけた意志を、残りわずかな理性で必死に活を入れているようだ。


蓮は、美咲の右足の白いハイソックスを、ふくらはぎを優しく撫でながら脱がしていく。ペリッとのりの剥がれる音がする。
「んん~~……ふ、く」
美咲のソックスの足の裏は、おろしたてなのか、真っ白だった。
かかとまで脱がしたソックスを一気に引き抜く。
小さい。美咲の足は、親指と人差し指だけ、他の三本指よりも突出して長く、しかも小指が薬指よりもやや大きく見える、特徴的な形をしていた。
土踏まずのくぼみはほとんど判別できないと言ってよい偏平足である。

「靴はオーダーメイドだよね?」
「……え?」
美咲は足元に移動した蓮を薄目で睨む。
「一緒だね。僕は薬指が一番長い」
「…………」
「美咲。すごく魅力的な足だよ」
「……っ」

蓮は、左手で美咲の足の親指と人差し指を持って、右手で足の裏をくすぐる。
「ひゃんっ!!!? ふひぃっ……くひぃぃっ!!」
「大丈夫。僕は美咲の足も、美咲も、大好きだからね」
人差し指でくるくると土踏まずに円をかくように引っかき、さらにかかとから指先までなで上げるようにくすぐる。
「ひゃひぃっ!!? ひぃっ! ひひ、だはっ!? だめっ!! ふくぅぅぅひぃっ!?」

美咲はもう限界なのだろう。緩みかけた顔を真っ赤にし、目に涙を浮かべ、口をぱくぱくさせている。

「美咲。君も僕を求めている。一緒に楽しくなろう?」

蓮は美咲の素足の足の裏、ちょうど真ん中あたりを五本の指でガリガリと思い切り引っかいた。
「くふぅぅぅぅ……っ!!!? ひっ、ひっ……ひひゃっ!! ひひひひゃひゃひゃひゃっ!! ひゃっはっはっは~~~っ!!!」
ついに美咲が笑い声を上げた。

たがが外れたのか、美咲は背中を仰け反りまな板の上の鯉のように暴れる。
先ほどまでのしかめ面はすっかり緩んでだらしなく歪み、眉をへの字にして笑いもだえる。
「ひゃひゃっひゃっひゃ~~~!! くひゃっ、いひひひひひひ~~~」

「陽菜、莉子」
待機させていた二人に指示を出す。
陽菜は美咲の脇腹を、莉子は美咲の左足のソックスを脱がし、くすぐる。

「はひゃっ、はひゃひゃひゃ!! はるな、さんっ!! なんでっ、ひひひひひひひ~~」
美咲の素肌に十本の指が突き刺し震わせる陽菜は、無言で薄ら笑みを浮かべた。

莉子も黙々と、美咲の左足をスクラッチくじを削るようにひっかく。美咲の足が嫌々と左右に震える。
「いひひひひひっ~~、ひひひっ~~、ひっひっひっひ」

蓮は、くすぐるたびに左手にぐぐっと感じる美咲の親指の抵抗を、愛らしく思った。
「可愛いよ。美咲」
「ひゃっはっはっは、そんにゃっ、ひひっ! ふざけひぃぃっ?!! いっひっひっひっひ~~」
美咲の足がくすぐったそうに縮こまろうとするのを、無理矢理反らし、カリカリと引っかく。
「ぐひっ!! ぐひっ、いぃぃぃひひひひひひひひっ!!! ひひゃひゃひゃ~~」

「美咲の指の間、きつくて気持ち良いね?」
「ふひゃぁぁぁっ!!? ひゃひひひひひひひっ、ひゃめっ!! ひゃめぇぇぇぇぇひひひひひひひひひひ~~っ!!!」
蓮が美咲の足の指の間に無理矢理、人差し指をねじ込むと、美咲は涙を流し始めた。
「くふぅぅぅひぃぃぃ~~っひっひっひっひっひっひっひ!!!! もぅっ、ひひゃぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!」

すっかり破顔してしまった美咲は、泡を吹きながら、小さな体をガタガタ揺らして大笑いする。
くすぐりが激しくなるにつれて、美咲の声はどんどん甲高くなっていった。

「どう? 気持ちいいだろう?」
三時間ほどくすぐり責めを受けた美咲は、ほとんど焦点の合わない目で耳元の蓮の顔を見る。
「……そ、そんな、わけ、ないでしょぅ」
「体はそう言ってないよ?」
蓮はワイシャツまで観音開きの状態の美咲の腋の下を、軽くこしょこしょとくすぐる。
「はひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」
素肌とはいえ、たったそれだけで体を仰け反らせる美咲。感度がビンビンに上がってしまっている。
「僕に触れられて、嬉しい?」
「…………」
美咲は、しばらく呆然と蓮の顔を見、こくりと頷いた。



●●実行四日目(木曜日)●●


「昨日楽しかったね~……って、佐藤君どうしたの?」
莉子が嬉しそうに蓮の机に座る。
「いや、ちょっと肉体疲労がきてね」
蓮は陽菜の席を眺めながら伸びをする。
陽菜の席ではいつものようにガールズトークが繰り広げられていた。

蓮がふと美咲の席を見ると、美咲は怪訝な表情で口元に手を当て、陽菜の方をチラチラと見ていた。

◆◆◆

「委員長。今日、陽菜さんには休んでもらいましょう」
昼休み、蓮は美咲に屋上へ呼び出されていた。
念入りな美咲は、普段会話のない蓮と教室で会うのは避けたかったのだろう。
呼び出し方も、すれ違い際にメモを渡すという周到ぶりである。

「なんでだい? ハハッ」
「……校内ではずっと、そのキャラなんですね。……陽菜さんを束縛しすぎると、陽菜さんに餌の価値がなくなる可能性があるからです」
「ほう」
「陽菜さんが餌になり得るのは、誰もが彼女に『話しかけやすい』と感じるからです」
「そうだね」
「その印象は、『いつも不特定数の人間と一緒にいる』という性質によって生まれます。その性質を保持するためには、なるべく大勢に、その性質が目撃されている必要があります」
「教室だけでは不十分ということかな?」
「そうです。『放課後いつも誰かと勉強会をしている』という状態は、現在テスト期間中であるとはいえ、『多忙である』『閉鎖的である』という印象を与えかねません。まだ二日だけですが、数日続くとその印象は顕著になります」
「ふむ」
「テスト期間終了後も、彼女を餌として利用していくためには、
なるべく余裕のある状態を保ち、『放課後は大抵暇』『開放的である』という印象を外部に与え続けることが重要だと思います。……それに、……その、……私のように、なかなか他人を信頼しない人間を落とすためには、彼女の餌としての機能が特に重要です。彼女に、ほんの少しでも、『話しかけにくい』要素は付加しない方が良いです」

なるほど、陽菜という存在があったからこそ、普段警戒心の強い美咲を簡単に捕らえられたのだ。
実行三日目の早い段階で美咲を落としたことは、実はかなりの収穫かもしれない。
「なので、今後陽菜さんを使うのは隔日、いえ、できれば二日おきぐらいには……ひゃふんっ!!?」

蓮は美咲の脇腹をつついた。

「美咲は賢いね」
「なっ! ひゃひゃっ…… 校内では、ダメです」
言葉では拒否を表しながらも、美咲は蓮の指に体を委ねる。
「ありがとう。美咲」
「あひゃっ……。優しい言葉なんて、いりませんよ。私はもう、くくっ、……調教済みです」
「それでも、嬉しいだろう?」
「……変態」

◆◆◆

四人目のターゲットは、美咲の推薦によって選出された。
放送部員、高橋結衣(たかはしゆい)。
身長は157cmで体つきも平均的、天然パーマの髪を肩にかかる程度ふわりと伸ばしている。
おっとりした性格で、やや天然ボケを思わせる態度を取るので、
クラスのマスコットという地位を確立していた。
猫を被っているのでは? という黒い噂がないこともない。
普段はゆったりと、ある意味空気を読み間違えているかのような、気の抜けた喋り方をするが、
その声は大層美声で、校内放送原稿を読むと、まるで機械音声のように凛として聞こえた。
機械に強く、録音機材調整や動画編集は手馴れたものらしい。

「結衣ちゃん、勉強はかどってる?」
「あぁ、莉子ちゃん。全然ダメだよぉ~」
休み時間、机の上に教科書と参考書を広げていた結衣に莉子が近づく。
「今、何やってるのかなー? えっ!? これ、一昨日の古文の宿題?」
「驚かないでよぉ、恥ずかしいからぁ」
両手で机を覆い隠す結衣。その拍子に、学校指定のワークブックが床に落ちた。
「あ、ごめんね。でも、実はアタシもまだやってないんだ! テヘペロ」
莉子はワークブックを拾ってやり、舌を出した。
おもむろにページをペラリとめくり、あからさまに驚く。
「わっ、こんなとこまでやってる! えらいっ! 私なんて全然進んで無いよ」
「そうなのぉ? 明日中に出せって言われてるけど、……やんなくて大丈夫?」
「むふふっ、結衣くん。実は秘策があるのだよ」
「…………?」
「今日放課後山本さんに宿題手伝ってもらうんだ」

「えぇぇえぇっ!!!?」

急に結衣が大きな声を出したので、クラス中から一瞬注目を集めた。
「しぃー」
「あ、ごめん」

莉子は、周囲の空気が再び雑音と同化するのを待って、口を開く。
「ごめん、山本さんに、宿題手伝うのは秘密厳守って釘刺されてるから」
「じゃぁ莉子ちゃん、なんで結衣に?」
「一緒に来るかなーっと思って」
「や、山本さん……」
結衣はあからさまに声のトーンを落とした。
「うん。ほらっ! 山本さん頭良いし、それに、人ん家の方がやる気でない? アタシ、自分ん家で勉強しようと思っても寝ちゃうんだよ」
「確かに、結衣もそうなんだけど。う~ん……」
結衣は、美咲に対してかなりの苦手意識があるのか、複雑そうに首をひねる。
「なんかさ、クラスで結衣ちゃんとアタシ、宿題出さない組みたいになってるのに、アタシだけ抜け駆けみたいで嫌だったから誘ったんだけど。来ない?」

蓮は、結衣が頷くのを遠目で確認してから、「じゃぁ皆また明日ねハハッ」といつものように颯爽と教室を出る。
それを訝しげに見送る視線に、蓮は気付けなかった。

◆◆◆

「3時間23分」
美咲は人差し指を立てながら、したり顔を作った。
眠らせた結衣を仰向けのX字に拘束し終えた蓮が、何故結衣を推薦したのかを質問したところだった。
「この時間が何かわかりますか? 委員長」
「さあ?」
「私を落とすのに要した時間です」
「ほう」
「感心しないでください。時間がかかり過ぎです。おかげで委員長、疲労が今日まで残っているじゃないですか」
「それは美咲が強靭な精神力を持っていたからで」
「……今、ヨイショはいらないです。そのっ、……委員長のテクニックをもってすれば、もっと早く落ちてもおかしくなかったんです」
うずっと体を震わせる美咲。大分調教が利いてるな、と蓮は感心した。
「なら、どうしてもっと早く落ちてくれなかったんだい? 僕のことがそんなに――」
「委員長は何も悪くないです。悪いのはこの部屋です」
「部屋?」
「そうです。部屋のムードを高めれば、もっと早く、楽に女性を落とせます」
「なるほど、それで照明係か」
「それも少しはありますが、照明だけが目的ならば、私は演劇部員を推薦します。一番の目的は資金集めです」
「資金?」
「照明を買うにも、機材を買うにもお金が要ります。しかし、委員長はこの部屋のセッティングの投資で現在一文無し。ならば、稼ぎましょう」
「高橋結衣が資金集め? 放送部……、まさか」
「私達を調教した際の録画、顔を編集し、有料で配布しましょう。需要はあります。彼女を落としてしまえば、今後の撮影効率も上がります」

◆◆◆

「んんっ……っ!? へっ? な、何なの?!」
目を覚ました結衣はパニックに陥ったのか「えっ? えっ?」と何度も周りを見回す。
「おはよう」
「え、さ、佐藤くん?」
結衣は驚愕の表情で固まる。
蓮の後ろでは、美咲と莉子が椅子に座って待機している。

「えっ? どういう……」
「高橋さん。君の力が欲しい」
「結衣の? ……だったらこんなことしなくても、言ってくれれば、ひゃんっ!!?」
蓮は右手で結衣の左足の膝小僧に触れた。

「高橋さんは敏感だね。ちょっとスカート短いんじゃないかな?」
蓮は、結衣の膝からむちむちした太ももをさすりながら、数センチほど校則違反のスカートを裾上げしていく。
「きゃはっ、きゃはははっ、ちょっと……っ! くすぐったいよぉ」
結衣はスカートの下にクウォーターパンツを履いておらず、まさぐった手は直にパンティに触れてしまう。
「きゃはんっ!! さ、佐藤君、やめて。結衣をどうするの?」

蓮は人差し指で、結衣の足の付け根部分をぐにぐにとくすぐる。
「きゃははははっ!!! やはっ、何ぃぃぃひひひひひっ!!! くすぐったいよぉぉ」
「気持ちいい?」
「いやっはっはっはっ!!! なんでもするからやめてぇぇぇ」
結衣は笑いながら、必死に股を閉じようと体に力を入れているようだ。
「なんでもする、じゃダメなんだよ」
蓮は結衣の太腿を掴み、揉みほぐしてやる。
「きゃっはっはっはっはっ!!! どういうっ!? ひーひひひひ」
「僕になら何されてもいい、何させられてもいいって思えるように、体に教えてあげないと。莉子、美咲」

莉子が結衣の右側、美咲が結衣の左側に立ち、準備が整うと、蓮はくすぐりの手を止めた。
「……えっ?」
「じゃあ。高橋さん、また後で触ってあげるから」
言うと蓮は、部屋の後ろのソファにごろんと横になった。

結衣は戸惑いながら、莉子と美咲の顔を見上げる。
「……莉子、ちゃん?」
「大丈夫だよっ! 結衣ちゃんもすぐに気持ちよくなるからねっ!」
莉子は満面の笑みを浮かべ、ブレザーの上から結衣の脇腹と腋の下をくすぐり始める。
「きゃはははっ、あはははっ! やめてよぉぉ」
途端に暴れだす結衣だったが、美咲は莉子を制止させた。
「先に上着は脱がします。伊藤さん。手が早すぎです」
「そんな怒んなくても~」
ぷうっと頬をふくらませながら、莉子は結衣のブレザーのボタンを外す。
「一時間以内に、心神耗弱状態を目指します」
「はーい」

二人はワイシャツ越しに結衣の横腹をくすぐり始める。
「きゃははは!!! はははっ、いやぁぁっはっはっはっはっは、やめてぇ~」
首をぶんぶん左右に振って笑い悶える結衣。
「結衣ちゃん、本当に弱いね」
「あっはっはっはっは~~~、莉子ちゃん助けてよぉぉぉ~~!! ひぃぃははは」
「大丈夫。ちょっと辛いとこ乗り越えれば本当に気持ちよくなってくるから、信じて!」

莉子は結衣の腋の下に両手を差し入れ、わしゃわしゃとくすぐる。
「うひははははっ~~!! そんなっ!!! 死んじゃうよぉぉぉあぁぁぁひゃひゃひゃひゃ」
「ほら、アタシと結衣ちゃんってクラスで宿題やってこない組じゃない?」
「いぃぃぃっひっひっひっひ、くひゅっひゅっひゅっひゅ~~」
「だからアタシだけ抜け駆けは嫌かなって思ったの」

◆◆◆

一時間上半身をくすぐられ、悲痛な笑い声を上げ続けた結衣の顔は、涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃだった。
天然パーマの髪の毛は汗で額、首筋にへばりついている。
「も、もう、……ヒュー、ゆるひて……」

莉子と美咲は蓮にバトンタッチして、下がる。
「高橋さん、気持ちよかった?」
「おねがひ……もう、やめて……」
「しょうがないな」

蓮は結衣の足元に陣取り、かなり汚れた白いハイソックスのつま先を左右一緒に持って、一気に引っ張る。
結衣は、抵抗する力も残っていないようで、されるがまま、すぽんっと両足とも素足にされた。
親指が他四本の指より少しだけ長い、エジプト型。土踏まずのアーチは一応形が目視できた。

「や、やめてぇ~……」
結衣は消え入りそうな声を出す。汗をかきやすい体質なのか、足の裏はややしっとりしている。
きゅっと指を閉じているのは、ささやかな抵抗だろう。

「24.5cm」
「……うっ」
「僕は好きだよ。結衣の足」
蓮は結衣の足の裏を両手でがりがりとくすぐった。
「いぃぃぃやっはっはっはっはっ!!!!? もうだめぇぇぎひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ~~~」
結衣の大きめの足が、くねくねとくすぐったそうに動く。
「足は性感帯って言うよね。だんだん気持ちよくなってきたかな」
蓮は結衣の足の指の間にゆっくりと順番に人差し指を突き通していく。
「ひぬっ!! 死ぬっうひひひひひひひひっ、死ぬってぇぇっはっはっはっはっは~~」

「指の間が好きかな?」
蓮は両手で、結衣の右足親指と人差し指の間を無理矢理こじ開け、爪でひっかく。
「きゃっはっはっはっ!!! うぎゃぁぁぁぁあーっはっはっはっはっはっはっは~~~」
「気持ちいいだろう?」
「いーひひっ、いーひひっ!! いぃぃぃひっひっひっひ」

涙を流し、涎を撒き散らしながら笑い狂う結衣は、十分後に完全に落ちた。

◆◆◆

「ありがとう。美咲。美咲のアイディアのおかげで、少し休むことができたよ」
莉子と結衣が帰った後、蓮は、美咲に上着を脱がせ、両手を頭の後ろで組ませロープで縛った。
蓮はソファに美咲を乗せ、脇腹を優しくつついていた。

「ひっ、ひひゃんっ!? 委員長っ……うくっ、委員長は、落とすためのくすぐりテクニックを、持ってます、ひゃひぃっ!!?」
「うん」
「だ、だからっ……トランス前、……対象の、判断力を、低下させる過程では、常人のくすぐ、り、きゃはんっ!? ……で、充分」
蓮は美咲の体側、肋骨を親指でしごくようにくすぐった。
「ひゃはっ!!! いひひひひひっ、ひーっひっひっひっひ!」
「すばらしいよ。美咲」

蓮は、ほぼ美咲を見切ったと思った。適度に褒め、適度に持ち上げ、適度に特別扱いしてやれば、美咲はどんどん献身的になる。
プライドの高い美咲が、そして美咲の優秀な頭脳が、完全に自分のものに……っ!! 蓮はぞくぞくした。

「あひひひ、い、委員長?」
うっかり「悪い顔」になっていたのを不審がられただろうか?
くすぐる手を止め、優しい笑顔を作る蓮。
「どうした? 美咲」
「指の使いすぎには、充分注意してください。……私たちはもう、委員長の指無しでは、自分を保てないんです」



●●実行五日目(金曜日)●●


昼休みも終りに近づいていた。
蓮はいつものように陽菜と、委員長同士の打ち合わせのふりをして、放課後の段取りについて考えていた。
すると、めずらしくあわてた様子で、美咲が教室に駆け込んできた。
「学級委員長二人」
蓮と陽菜は「え?」とユニゾンした。
「急用です。付いてきてください」

美咲は早足で歩き、二人を図書準備室に招き入れ、鍵をかけた。
学校図書館は校舎と独立しているため、昼休み終了目前の今人が来る可能性は低いのだが、念が入っている。

「一大事です」
「どうしたんだい?ハハッ」
「委員長の放課後の所業が一部の人間にばれかかっています」
美咲は、蓮の爽やかな微笑みを無視して、淡々と述べた。蓮は、血の気が引いた。
「具体的な行為まではばれてませんが、……その方がやっかいです。私の知る限り『集団レイプ』という疑惑を抱いている人間が一人いました」
「しゅ、……それってかなりまずいんじゃ」
陽菜も顔を青くする。

「美咲。順を追って説明してくれ」
「そのつもりです。結論を先にお伝えしておきたかったので。昼休み、私は図書委員の当番と、文芸部の予算会議がブッキングしていました。なので、昼休み前半を図書館、後半を文芸部という形で手を打ってもらっていたんです」

蓮は相槌を打とうと思ってやめた。
こんなにヒヤヒヤしながら他人の話を聞くのは久しぶりだ。

「私が文芸部に行くと、会議はすでに解散済みで、暇な部員が残って雑談をしていたんです。……うちのクラスの加藤葵、わかりますか?」

加藤葵(かとうあおい)。蓮は頭に顔を思い浮かべた。文芸部員か。
蓮の後ろの席で、いつも本を読んでいる、身長155cmぐらいの黒髪ロングヘアの無口な女の子だ。

「加藤葵、大丈夫だ」
「葵さんはその場にいなかったんですが、残った部員によると、葵さんが漏らしたそうです。『佐藤くんが、山本さんと、高橋さんを、家で』と」

「加藤葵ってそんな喋り方なのか?」
「はい。断片的な情報を並べるだけです」
「えっと、じゃぁ『集団レイプ』っていうのは?」
陽菜が口を挟む。
「葵さんの話を聞いた部員が勝手に妄想したものです。談笑の中でずいぶん盛り上がっていました。私にその仮説の真偽を確認してきたので、論破してきました」
「論破?」
「葵さんの発言は、すべてメルヘン脳から沸いた支離滅裂なものであり、独立して発せられた単語に、関連性は一切無い。という事実を突きつけました」
「それで皆納得したの?」
「私の断言と、ミステリアス少女の呟き、お二人ならどちらを信じますか?」
説得力がありすぎる。蓮は黙って頷く。相槌は陽菜に一任しておこう。

「問題はですね、葵さんの幼馴染に、葵さんの言葉を解読できる人間がいまして、その人に葵さんが喋ってしまうと、かなりやっかいです」
「誰?」
「隣のクラスの小林凛、学級委員長なので、お二人は委員会で顔を合わせてるはずです」

小林凛(こばやしりん)。
蓮はすぐに思い出した。
がさつな乱暴女。身長は美咲程度で、やたらと声がでかい。
細すぎる体とツインテール。
足まで伸びたツインテールを回せば、ヘリのように空も飛べるのではないかと
からかいたくなるような少女だ。

「あいつか……」
蓮は呟く。
「小林さん。都合良く今日で一週間延滞になる図書があります」
「都合よく?」
陽菜は顔にハテナマークを浮かべる。

「今日の図書当番は私です。ゆえに、現在図書館の鍵は私の手に。放課後延滞図書をネタに彼女を呼び出し、図書準備室に監禁。私達も待機。完全下校が過ぎ、校内から生徒全員退去したことを確認した後図書館内で調教。いかがでしょう?」

「ど、どうして小林さんを?」
陽菜が間の抜けた質問をする。
「どうして小林さんを? ごめんなさい。陽菜さん。考えてください。葵さんは少なくとも『放課後委員長の家に二人の女の子を、人を使って連れ込んだ』という情報を持っています。会話構成能力の乏しい葵さんはほぼ無害ですが、小林さんは解読できます。情報が小林さんに伝わってしまえば、たちまち話が大きく発展、彼女の傍若無人な大声で伝播することでしょう。……そうなる前に、一刻も早く小林さんを落とさなければ! 仮に、すでに情報が伝わっていたとしても、今日中であれば、伝播を防ぐことが可能かもしれません。……あと、小林さんを落とせば、葵さんを誘き出しやすくなります」

「……『人を使って』って」
「葵さんの言った事、覚えてますか?『佐藤くんが、山本さんと、高橋さんを、家で』です。助詞接続詞が付いているため、私の断言はほとんど無効と考えてください。……委員長と私は校内でほとんど会話しないし、委員長と高橋さんは接点すらほぼ皆無です。ちなみに私と高橋さんの校内での接点もありません。にもかかわらず、委員長という主格が、アンドで結んだ目的格、私と高橋さんを、場所の特定まで完成しています。ここから考え得る可能性は、『葵さんは委員長を尾行し家を突き止め、後からその家に入っていく私と高橋さんを見た』という事実です」

「……その加藤さんの言葉って、又聞き、だよね? 信用できるの?」
「文芸部員の記憶力を甘く見てはいけません。創作者は観察者です。
言葉に敏感な文学少女は、気になった言葉なら、たとえ盗み聞きした内容でも、ほぼ完全に復唱できます」
「……加藤さんの言葉、そのものが、たまたま出たってことは?」
「もちろん『この四つの単語が偶然頭に浮かんで、格を成して、口からポロリと出る』可能性が
無いわけではないですが、ほぼゼロに等しい確率だと思います」

「う~ん……」
陽菜は納得できない顔をした。
「重要なのは、主格に委員長をもってきていることです。私たちは時間をずらして委員長の家に入ってます。私を誘ったのは陽菜さん。高橋さんを誘ったのは伊藤さん。それなのに、主犯が委員長だと知っている。『口からポロリ』の可能性を除くと、『実際に見た』という可能性しかないです」

◆◆◆

午後の授業開始後五分が経過して、蓮、陽菜、美咲の三人は教室に戻った。
「学級委員長、どうした? 遅刻なぞ珍しい。なんだ、その本は?」
学級担任で数学担当の髭眼鏡が、老眼鏡の奥から三人をいかつい顔で睨む。
「すみません、先生。司書の渡辺さんから、除籍本を教室に運ぶよう頼まれ、委員長二人に手伝ってもらっていました」
美咲は説明しながら、手に持った本の束を教卓に置く。
「渡辺さん? ああ、……今日はその日か。それで、こんなにたくさんどうせいと?」
「授業等で活用して欲しいと、言われました。不要な場合はクラスで処理してくれとのことです」
「まったく……、あの人はいっつもいい加減な指示ばっかり。……難儀だったな、山本。みんな! そういうことらしいから、好きな本持って帰っていいぞ。後ろの棚にでも運んでおいてくれ。三人ともご苦労」

うまくいった。

自称『学校図書館のパイプ』である『司書の渡辺さん』は、現場教諭に大層評判が悪い。
たまに学校図書館に現れては、司書教諭にあれこれ指図する、近隣学校の名物である。
図書館情報学の分野ではちょっとばかり有名なお偉いさんらしく、現場の人間は誰も文句が言えないため、真偽が確認されることはまずない。
美咲はそこまで考慮し、委員長二人を図書準備室に呼び出したのだ。

まったく美咲、君って子は……っ!

蓮は着席しながら、席に戻る美咲の姿を目で追う。ちらりと目が合うが、美咲はそっけなく、道端の石でも見たような表情で視線を外した。
蓮はニヤリと笑う。背中で、ラスボスが本のページをパラリとめくる音を聞いた。

◆◆◆

「おわったぁ~~!!」
授業終了と同時に椅子の背もたれにガンと体重をかける凛。
「っとおわっ!!?」
凛は、バランスを崩し、すてんと後ろ向きにひっくりかえり、横溝正史劇場になる。
「青沼?」
「それだめっ!! 核心部分!!」

隣の席から、ミステリ大賞を愚弄するかのような突っ込みを入れたのは凛の友人、中村愛莉(なかむらあいり)。
頭の左上でサイドポニーをこしらえた眼鏡娘である。
身長は156cmで、やや肉付きが良い。
凛とは二年生からの付き合いだ。愛莉の冷静な突っ込みと、斜に構えたような態度は、元気一杯の凛の性格と、ややずれた位置で噛み合い、傍からはいろんな意味で絶妙な凸凹コンビだと評判だ。
一年生のころの愛莉を知っている者によると、凛に出会ってから愛莉はかなり垢抜けたのだとか。

「じゃ、帰りますかぁ~」
凛は椅子に座りなおし、腕を前から上に挙げ、背伸びの運動をしていた。
「今日も葵と?」
愛莉は凛の横顔をじっと見つめて言った。
「うんにゃ、たぶん一人。なんか最近葵放課後呼びに言っても行方不明なんだよねぇ」
「え? なんで? 学校は来てるの?」
「うん。休み時間は結構すれ違うよ~」
凛のヘラヘラした態度とは対照的に、愛莉は少し表情を強張らせた。
「それ、いいの?」
「まぁ、どうせなんかまた、面白いもの見つけたんでしょ。マイペースなのが葵のいいとこだから」
「凛。人良すぎ。普通約束すっぽかして、勝手に帰るってありえないでしょ」
「付き合い長いしね~。葵には多分『約束』って概念がない気がするし」
「ふ~ん……」

愛莉は少し複雑だった。
「……凛との約束、私なら絶対すっぽかさないのに」
「んぁ? なんか言ったー?」
愛莉がこっそり聞こえないよう呟いた言葉に、凛はアホ面で反応した。
凛の顔があまりにも呆けた表情すぎて、愛莉は殴りたくなった。
「……あ、あのさ。凛。この後暇だったらさ。どっか遊びに行かない?」
「ええっ? 良いよ?」
「…………」
「…………」
「なんで、『急になんで?』とか聞かないの?」
「えっ? なんで友達と遊びに行くのに理由がいんの?」
「…………」
「…………」
「ごめん、今日私変だ。先帰る」
「ええっ!!? そっちの方が急になんでっ!? 行こうよ一緒に! どこか知らんけど」

すると、女子生徒が凛を呼ぶ。
「隣のクラスの山本さん……怖い図書委員の人が呼んでるよ。廊下で待ってる」
「マジでっ!!? こっわっ!! ……了解。すぐマイリマース」

凛と女子生徒のやり取りの中、愛莉は鞄を掴んで立ち上がった。
「ああっ!! 愛莉っ! 帰るなっ!!」
「何?」
「誘っといて『何?』は無いって! 校門で待ってて。すぐ行くから」
「…………」
とっとっとーといい加減なステップで廊下へ駆けて行く凛を見送りながら、愛莉は「なんだよ……っ」と捨て台詞を吐き、教室を出た。

◆◆◆

「どうだったかい?」
図書館内の机移動を済ませた蓮が隣接した図書準備室を覗く。ちょうど完全下校時刻だ。
「読みが外れました。小林さんの携帯に、葵さんのアドレスは入っていません。おそらく葵さんは携帯電話を所持していないのでしょう」

凛はタオルを口にかまされ、両手両足を縄跳びで縛られた状態でパイプ椅子に座らされている。
最初はかなり暴れていたが、今は大人しくしている。
縛られた状態で押さえ込み役の陽菜、莉子二人を相手にするのはあまりにも無謀。今はただ好機をうかがっているのだろう、と蓮は凛の憎悪の宿った眼光から読み取る。

結衣が図書館に帰ってきた。
「職員会議はじまったよぉ」
「……よし、運ぼう」
かなり苦戦しながらも、凛を万歳のIの字の形で、図書館中央に並べた机の上に横たえることができた。
机の足に引っ掛けた縄跳びを、それぞれ凛の手首足首を縛った縄跳びに、結び合わせる。
これで凛は、細い体をぴんと伸ばした状態で完全に身動きが取れなくなった。

「じゃ、結衣は外に」
「らじゃー」
蓮は、結衣が扉を閉める音を確認して、凛の口からタオルを外す。

「ぷっはぁっ!!! こんのっ!!! なにしやがんだぁぁぁぁぁっ、ボケがぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

凛は開口一発怒号した。

「うわっ……声でか。今の大丈夫?」
莉子が心配して、美咲の顔を見る。
「大丈夫です。校舎には絶対届きません。陽菜さん、高橋さんを呼んできてください」
「あんたらっ!!? 何のつもりだよっ!!! こんなことして……っ」
蓮はブチ切れる凛に近寄り、優しく頭を撫でた。
「加藤さんのこと、全部教えて欲しいんだ」
「かっ? 加藤?」
「加藤葵さん」
「葵っ!!? お前ぇぇぇ、葵になんかしやがったら許さねーぞ!!!」

凛がつばを蓮の顔に吹き付ける後ろで、音響の打ち合わせが行われる。
「高橋さん、どうでしたか?」
「うん大丈夫、入り口前でも全然聞こえなかったよぉ~」
「それ何?」
莉子が割って入り、結衣の手元を指す。
「え~? 放送室に置いてあったハンディカムぅ~。撮るんでしょぉ? 
今日は急だったから、これしか準備できなかってアレだけどぉ」
「あっ、えらい!」
「始まります。スタンバイしてください」

蓮は、凛の頭上からそっと両手を伸ばし、ニッコリと微笑む。
「君は必ず、僕に全てを投じてくれるようになるよ」
「はぁ?」
蓮は、凛の伸びきった腋の下に指をこそこそ這わせ始める。
「ひゃはっ!!? なっ、なんひゃっ!? ふはははっ……」
ゆっくり脇腹へと両手を移動させ、細い体をぐーりぐーりとえぐるようにくすぐってやる。
「にょははははっ!!! あほっ!!! 変態っ!! いひひひひっゴミっボケっあはははっ」
凛の怒りの形相は、すぐに苦しそうな笑顔に変わっていく。
か細い体に指の刺激はかなりきついのか、身をくねくねよじりながら凛は悶える。
「やはははっ!! もうっ!!! こんのっうははははは」
顔を真っ赤にして、眉間に皺を寄せる凛。
笑うまいという意地と、敏感な肌が喧嘩しているのだろう。

ブーッブーッブー

びくん、とその場に居た全員が振り返る。
蓮はくすぐりを止めた。
凛の携帯が鳴っている。
「誰だ?」
「中村愛莉から電話です。隣のクラスの」
ディスプレイを見た美咲が珍しく切迫した様子で答える。どうすべきか、必死に思考を巡らせているのだろう。

「まさか、中村愛莉と約束を?」
蓮の問いに、凛は目を逸らせた。
「まずいな……」
「どうします?」
美咲は、鳴り続ける携帯を握り締めたまま、震える声を絞った。

そのとき、陽菜が、美咲の手から携帯を奪いとった。
急いで電話を取る。
「愛莉ちゃん! 大変なのっ!! 図書館で凛ちゃんが倒れて! もうすぐ救急車が来るの! すぐに図書館まで来てっ!」

陽菜は早口で言うと、電話を切った。
「陽菜……」
蓮は、それが最善策だとは思わなかった。
しかし、唐突に訪れた絶体絶命の危機に、勝負に立った陽菜は賞賛に値する。

「一年生のとき、愛莉ちゃんと同じクラスだったの。……それで、小林さんに会って丸くなったって聞いてたから。きっと、愛莉ちゃんにとって小林さんは大切な人だろうって。……すぐ、駆けつけてくれると、思う」
緊張のためか、陽菜は深いため息をつき、床にへたり込んだ。

「……こっ、このっ、あ、愛莉をっ!! こんの、……くそがぁぁぁ」
息を切らしながら、凛が喚く。
蓮は陽菜の元へ近づき肩を抱く。
「陽菜。よくやった。えらいよ」
「労いは、いらないよ。私は、……」
陽菜はじっと蓮の指先を見つめた。
蓮が陽菜の耳元で何か囁くのを、美咲はぐっと唇を噛んで見つめた。

◆◆◆

約一時間後、図書館の真ん中に二つ島を作るように並べられた机には、凛と愛莉がそれぞれブレザーの上着を脱がされ万歳Iの字で並べられていた。

「あはははっあはははっ!!! ばかっあくっはげぇっ!! あっはっはっはは~」
「凛っ! 凛っ!」
陽菜、莉子、美咲が凛の上半身をくすぐる。結衣は撮影係である。
腋の下、脇腹、お腹と、三十本の指が縦横無尽に這い回る様子は、すさまじい光景である。
横目で見ながら愛莉は、悲しそうに何度も友の名を呼び続ける。

「あはっあはははっ! いーっはっはっはっはっは~~」
かれこれ一時間近く、凛がくすぐられ続けるのを間近で見せられた愛莉は、泣き出しそうな顔をしている。

蓮は愛莉の耳元で、優しく囁く。
「凛ちゃんがくすぐられてかわいそうかい?」
「お願い……っ! すぐ、やめてあげてっ……、凛を、解放してください」
ぽろりと涙を流す愛莉。
「君が代わってあげるかい?」
「……はい」

蓮は制止の合図を出す。
「げっほぉ……あー……」
凛は汗だくで、頬の筋肉をヒクヒク痙攣させながら、大きく息を吐く。
かなり疲労困ぱいしているようだ。
ここからが、真の意味で調教スタートである。

「……あ、愛莉?」
凛が横目で愛莉を見る。
「凛。愛莉ちゃんが君の代わりになってくれるって言ってるよ?」
「……え、……あ、愛莉。ダメ……」
凛は虚ろな目を必死に愛莉に向ける。
「凛。何か言いたいことはあるかい?」
「……私はどうなってもいい。なんでも、……し、しますから、愛莉は、解放して……」
「残念! 小林さんっ、不正解だよ! ハハッ」

蓮は、両手の人差し指を愛莉の腋の下に突き立て、ほじるようにくすぐった。
「きゃはっ!!? きゃははははははっ! にっひっひっひっひっひっ~~~」
愛莉の体が上下にはねる。
「やはははははっくっ、くすぐったいぃいいいっ!!!」
「なっ……なんで……解放……」
凛は絶望的な表情を浮かべる。

これだ! 蓮はニヤリと笑う。
友情に厚い人間を落とすには、友達の苦しむ姿を見せるに限る。
『大切なものを守れない!』『友達を救えなかった!』という絶望感は、それがいかに理不尽で、不可避なものであったとしても、自責の念、自己嫌悪を生み出す。
『自分は無力だ』
そうして生まれた心の隙間につけこみ、調教を施す!

「どう? 気持ち良いでしょ? おかげで、凛ちゃんは苦しくないよ」
「きゃっはっはっはっはっ!! にゃっぁぁぁっはっはっは~~!!」
蓮は愛莉の肋骨を下から順にツンツンと突っついていく。
「きゃっきゃっきゃっきゃっくっはっ!!? きひゃはは」

蓮は合図を出し、愛莉の上半身を、三人にくすぐらせる。
「あきゃっ!!? あきゃっ、きゃはははっはは~~」
愛莉のお尻がバンバンと机を打つ。

「お願い、……私はどうなってもいいから、愛莉は……許して」
凛は愛莉の甲高い笑い声に顔をしかめ、
くすぐられている時には見せなかった涙を、愛莉のために流した。

「愛莉ちゃんは、やめてほしくないらしいよ」
言いながら蓮は、凛の足元に移動する。
「『やめて』って全然言ってないよ? どうしてだろうね?」
疲労困ぱいで頭がうまく回らない凛は、黙ってしまう。
「くすぐられるの、気持ちいいからじゃないかな?」

蓮は凛の揃えた両足から黒いローファーをカポッと脱がす。
凛の白いソックスの足裏は、指にそってかなり茶色く汚れていた。
両方のソックスのつま先を持ち、力任せに引っ張る。
両足をきつく縛ったため、かなり抵抗があるが、なんとか引き抜く。
凛の足裏は小さくて白い。
人差し指が少しだけ長いギリシャ型で、土踏まずは野生的なハイアーチを作っていた。

凛の非常に小さな二つの足、両方の親指を、蓮は左手の人差し指と親指でしっかりと掴み、反った足の裏を思い切りくすぐる。
「にょぉぉぉぉあっはっはっはっは~~~!!!」
凛は小さな体を大きく仰け反らせる。
ギターの弦をかき鳴らすように、右手で引っかいてやると、凛の八本の足の指がぐにぐにと、ぐーとぱーを繰り返す。

「くひひひひひっ!!! あはははっ!!! ダメぇぇぇぇ死ぬっ!!! くすぐったいぃあっはっは」
蓮は爪を立て、凛の足の親指の先をかりかりひっかく。
「あーっはっはっはっはっ!!! それぇぇきつぅぅぅっはっはっはっはっは~~」
「僕の指、気持ちいいだろう?」
「ばっ!!? っはっはっはっはっは~~」
凛の目じりからとめどなく涙が流れ落ちる。
「愛莉ちゃんもきっと、そう感じているよ」

◆◆◆

十分程たって、くすぐり手、蓮と三人を交代する。
陽菜は凛の腋の下、莉子は凛の太腿から足の裏、美咲は凛の腰お腹周りを激しくくすぐる。
「やぁぁぁぁっはっはっはっ! あーっはっはっは~」
凛は口を開けっぱなしで笑い続けたため、首周りからワイシャツの二の腕あたりまで、涎でびしょびしょになっていた。

一方、蓮は愛莉の足元に移動していた。
「愛莉、気分はどう?」
愛莉の茶色のローファーを脱がすと、右足の親指辺り生地が薄くなって穴の空きかけた白いハイソックスに包まれた足の裏が二つ現れる。
「ひひ……、り、凛は……」
「楽しそうだろう?」
「……たのし、そう……?」
愛莉の精神状態はすでに極限状態である。

もってあと一巡か、と蓮は考える。
蓮は、愛莉の右足親指の辺りを爪で引っかく。
「きゃはははっ!!! きゃははは」
ジャッジャッと布の擦れる音とともに、徐々に靴下に穴が空き、肌色の素肌が見えてくる。
「きぃ~っひっひっひっ!!」
ぐるぐると円をかくように人差し指を動かし、愛莉の足の親指を完全に露出させてやる。
つんつんと親指の腹をつつくと、足がくねくねと悶える。

「いやぁぁぁ、きゃははっ、……きひひひ。……じ」
「じ?」
蓮はくすぐりを止めてみた。
「……じらさ、……っ」
愛莉はつばを飲み込み、それきり黙った。
愛梨の顔は真っ赤に火照り、目はぎゅっと閉じられている。
なんだ。もう一巡もいらないかもしれない。
「僕の指が欲しいんだろう?」
「…………」
「そんなに、他の子とは違った?」
「…………」
愛梨は肯定も否定も示さなかった。

蓮は愛莉の顔のそばまで移動した。
愛莉は固く目を閉じている。眼鏡の内側についている水滴は涙だろう。
蓮は愛莉の眼鏡を外す。
「……あ」
「へぇ」
蓮は愛莉の耳元で囁く。
「眼鏡、取っても取らなくても、すごくかわいいよ」

蓮は愛莉に眼鏡をかけ直してやり、肋骨を撫で回した。
「きゃぁぁひゃひゃひゃっ!!!? きゃはははっきゃああああ」
上半身を撫でながら、愛莉のネクタイを外し、床に投げ捨てる。
「……あっ」
蓮が愛莉のワイシャツのボタンを上から順に外しはじめると、愛莉は目を開いた。
潤んだ瞳には、恍惚が見え隠れしている。
ボタンを三つほど外したところで、がばっと開胸する。
「……っ」

蓮は、愛莉の露出した鎖骨を両手でこちょこちょと、優しくくすぐった。
「ひゃはっ!!!? きゃははははははっしゅごっ!!!? すごいっ、あははは」
「気持ちいい?」
「あはははっきゃははははは!!! きひひひひひ~~」
蓮はさらに指を、愛莉の鎖骨から脇腹辺りまでをこしょこしょと何度も往復してやる。
「くひひひっ!!! きゃははは、う~っふっふっふっふっ~」
笑い声とともに、水色縞模様のブラに包まれた愛莉のふくよかな胸が、ぷるぷると震えた。

「部活は何やってるの?」
「きしししししっ!!! しょ、書道っ!!! ひひひひひひひ」
愛莉は躊躇わずに即答する。
蓮はほぼ勝利を確信した。

「へぇ、今も筆持ってるの?」
「きゃはははっ、鞄にっ!!! にひひひひひ」
「使ってもいい?」
「ひひひひっ!!! ひひっ!!? ……ひぁあぁぁぁぁっ!!!!!!」
急に愛莉はびくんと波打つように体を震わせた。
「え」
蓮はくすぐりを止め、愛莉のスカートをひらりとめくる。
「……ひひ、……ふふふ」
「そんなに筆責めされたかったのかぁ」
愛莉は絶頂を迎えていた。
「いいよ、やってあげる」

◆◆◆

蓮は愛莉の鞄から一番太い筆を選び、墨汁と一緒に取り出す。
愛莉の足元に新聞紙を敷きつめる。

愛莉の足は、期待しているのかくねくね動いていた。
蓮は愛莉の両足から、ハイソックスを脱がし取った。
典型的なエジプト型。土踏まずを人差し指でぐるりとなぞってやる。
「きゃはははっ」
やや偏平足気味である。肉付きの良いふっくらした足の裏はやや桃色になっている。

蓮は筆に墨汁を染みこませ、愛莉の右足の指をゆっくりとなでる。
「きゃはぁんっ!!! ちゅべたっちゅべたいぃぃいっひっひっひ~」
指の間までしっかり筆を這わせ、墨汁を塗りたくる。
「いひゃぁぁあん!!! いひぃぃん、ふひぃんっ!!! きひひぃ」
甲高い声で鳴きながら、愛莉はくちゅくちゅと足の指を蠢かせる。
「こらこら、綺麗に塗れないよ。我慢して」
「うひゅひゅひゅひゅっ~~にゅるにゅるするぅ」

ぴちゃぴちゃと音を立てながら、徐々に足裏は黒く染まっていく。
「くっくっくっ……きひひっ、きひぃぃん」
「力抜いて。皺の間が塗れない」
蓮は筆の先を愛莉の足裏の皺に沿って這わせる。
「うにゃぁぁぁっ!!!! むりぃぃっきゃはははははっ!!! 我慢むりぃぃっひっひ~」
「こらっ! 足動かすとスミが散る」
「ゆひゅひゅひゅひゅ~~」

ようやく両足ともかかとまで塗り終えると、愛莉は息を切らしていた。
愛莉はぎゅっと足の指を閉じた。墨汁が数滴垂れ落ちる。
「こらっ指擦り合わせたら、スミが落ちる。また塗らないと」
愛莉はきゅきゅきゅっと指を数回擦り合わせた。
「まだ足りないの? スミ落とすときも筆でやってあげるから、ちょっとは待ちなさい」
言いながら、蓮は愛莉の指に再び筆を這わせる。
「きゅひゃひゃひゃひゃっ!」

蓮はノートを開き、片足1ページずつ、愛莉の足型を取った。
「どう? 愛莉、自分の足」
ノートを開けて見せるが、愛莉は焦点の合わない目を泳がせ、へらへらしているだけだった。
スカートをめくると、また何度が絶頂を迎えた後だった。

愛莉が完全に落ちたことによって、凛は精神の支えが無くなってしまったらしく、ほとんど時間を置かず、凛も落ちた。
二人を落とすのにかかった時間は通算で二時間にも満たなかった。



●●実行六日目(土曜日)●●


蓮は自宅にて、すがすがしい朝を迎えた。

凛と相談して、加藤葵を落とすのは日曜日と決定した。
信頼関係のある凛ならば、葵を簡単に家から連れ出すことができる。
場所は、学校図書館を予定している。図書館の鍵は美咲が昨日のうちに合鍵を作った。
テスト期間中休日の学校には、延々とバラエティ番組ばかり見続けている警備員しかいないため好都合なのだ。
蓮の自宅がバレている可能性がある以上、葵を警戒させないよう注意せねばならなかった。

一日置いたのは、葵から情報が漏れる可能性がかなり低いという前提で、今日一日でしっかりと葵調教の段取りを考えるためである。

調教するためには、対象の人間性を把握しなければならない。

葵は蓮にとって、未知だった。
ミステリアス系という属性は、精神的な弱点を覆い隠すための仮面である、というのが蓮の経験則だった。
しかし、凛の話によると、どうも葵は違うらしい。

劣等感。
対象が、何に対して劣等感を抱いているかを見抜き、それを利用することで調教はより早く確実に遂行できる。
莉子は勉強、結衣は足の大きさが例に挙げられる。
凛の話によると、葵は『劣等感』という概念を理解できないらしい。

コンプレックス。
この場合のコンプレックスは劣等感という意味ではない。
対象の日常行動から、コンプレックスを見抜くことも非常に重要である。
陽菜の場合、
誰とでも仲良く、全ての人間と平等に接する。結果、誰からも好かれ、誰からも嫌われない人間性を築いた。
この裏に蓮は、『特別な誰かが欲しい』という欲求のコンプレックスを見出した。
そこで、『誰か』=『陽菜を所有する者』=『蓮』という調教を施すことに成功したのだ。
美咲の場合、
論理という明らかに確かな武器を身につけ、他者を絶対に確かな方法で圧倒することによって、高いプライドを保っていた。
結果、美咲は孤高の人格、とっつきにくく、とげとげした印象を周囲に与えた。
この裏に蓮は、『誰かに受け入れられたい』という欲求のコンプレックスを見出した。
そこで、『誰か』=『美咲を最も必要とする人物』=『蓮』という調教を施すことに成功した。

葵は、他者という存在をほとんど意識しないらしい。
それすなわち、『自分にとって理想の自分』と『他者から期待される自分』がいくらズレていようが、まったく気にしないということだ。

心に付け入る隙の無い人間ほど、落としにくい相手はいない。
いや、もしかすると葵という女性は、隙間しかないために、落としにくいのかもしれない。
どこを付いてもすり抜け、異物感が全く無い。
葵の心は無色透明な水なのか!
氷の形を変えるよりも、水の形を変える方がはるかに難しいのだ。
そんな女性を、どうやって落とせば良いというのか……っ!

◆◆◆

陽菜はかなり早い時間にやってきた。
本日午前中の予定は、陽菜の昨日のファインプレーに対する慰労会である。

部屋に入った陽菜はすぐに、私服から、持参した体操服に着替える。
薄桃色のブラを外し、素肌に半袖シャツ、下がクウォーターパンツ、足元は赤縁の白いスニーカーソックス。
ポニーテールを結ぶゴムは、普段より少しだけおしゃれなリボンが付いていた。

蓮は陽菜を折りたたみベッドに仰向けに寝かせる。
両手を真上に上げさせ、足をできるだけ開脚させた状態で手首足首を縛る。
ちょうど逆Yの字のような形になった。

「陽菜。昨日はえらかったね」
「…………」
頭上から声をかける蓮を、見上げ目を潤ませる陽菜。頬はほんのり赤い。
焦らすな、という訴えか……。
「美咲ですら頭が真っ白になっていたのに、本当に陽菜は」
「お、お願い……」

「ん? どうしたんだい? 斉藤さん?」
「~~」
陽菜は泣きそうな顔で睨む。
「ハハッ、ごめんごめん」
蓮は、言いながら指をわきわき動かしながら陽菜の腋の下の方へやる。
陽菜の体がぐっと緊張した瞬間、蓮は両手を陽菜の腋から離した。
「――ところでさっきの話の続きだけど」
「ん~~~~!!!」
陽菜は口をふさがれているわけでもないのに、喉奥から悲鳴を上げた。

「冗談だよ」
蓮は発声と同時に、一気に陽菜の腋の下を責め立てた。
「かはっ!!!? っきゃはははははっ!!! きひひひひひひひ~~!!!」
「どう? 嬉しい?」
「きゃはははははっ!! あぁぁぁぁぁぁっはっはっははっはは」
よほど溜まっていたのか、陽菜は羞恥心など微塵も無いかのように口をだらしなく開け、大声で笑い悶えた。

「きゃははっはっいぃぃぃひひひひひひひっ!!!! ほぉほっ、お願いっ! もっとぉ!」
「いいよ」
そういい、蓮は指をゆっくりと減速させていき、残した人差し指だけで、陽菜脇腹を肋骨にそってゆるゆるなぞった。
「あぁはぁんっ!!! 死ぬぅっ!! 弱くしないでぇっ!!! 死んじゃうぅぅ!!! ひぁぁんっ!!」

シャツの上からでも形の良い乳房が支えを失った水風船のように揺れているのがわかる。
蓮はゆっくり指を這わせ、ちょうど陽菜の乳房の付け根辺り、腋と脇腹の境ギリギリの部位を探す。
そこで、ぐいっと指で摘むように力を込め、思い切り震わせる。
「うひゃぁぁっぁぁっ!!!!? きゃはぁぁっはっはっははっはっ!!!! なひっぃぃぃいいい!!! 何っ!!!? 何それぇぇぇひゃひゃひゃ」
陽菜の体がびくんとうねり、それこそ、体中に電流が走っているかのように身もだえする。
「きゅひひひひひひひっ!!!! しゅごっ!!! すごぃぃっぃ!! きひゅひゅひゅっ、あーっはっはっはっはっはっ~~!!!」

首をぶんぶんと振り回し、涎をだらだらと流し、鼻をじゅるりと汚い音を鳴らしながら笑う陽菜の姿は、蓮の支配欲を満たしていく。

「陽菜。ゲームをしないか?」
「きゃはははははっ!!!! ゲェェェームぅぅぅふふふふふっ!!!?」
「そう。足の裏文字あてゲーム。正しく答えを言い当てられたら、この場所、素肌を十分間くすぐってあげるよ」
「きひぃぃぃひゃひゃひゃひゃっ!!! 間違えたらぁぁぁぁぁっっはっはっはっは~!!!?」
「正解するまでやめない」
「やるぅぅぅぅ~~!! ひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」

その瞬間、蓮はピタリと手を止めた。
「ひゃひゃっ……!! ……はぁ、……え? …………」
あからさまに物足りなさそうな顔で蓮を見る陽菜。
「自分でやるって言っておいて、その顔はいけないよっ! 斉藤さん!」
「な、なんで、……いつも、急に、キャラ」
「準備するから待ってて」
「…………、…………、ひゃうんっ!!?」
蓮は去り際に陽菜のスニーカーソックスの足の裏をひと撫でしてあげた。


一分ほどで、蓮は六色入りクレヨンと、使い古して毛の開いた歯ブラシを数本持ってもどってきた。
「お待たせ」
言いながら、蓮は陽菜の右足のかかとに人差し指をひっかけ、軽々とスニーカーソックスを脱がし取る。

久々に対面した陽菜の白い素足。蓮は、その指の中でもっとも長い人差し指の腹を、爪でぴんと弾く。
「ひゃひぃぃっ!?」
「はじめるよ? わかったら、ちゃんと日本語で答えてね。笑いながらはダメだよ」

偏平足のため、非常に描きやすそうだった。
赤いクレヨンで、陽菜の可愛い小指の下の柔らかいふくらみ辺りからゆっくり描き始める。
「ふきゃぁぁっ!!!? ふぁっ!? きゃはははっ~~、あははは」
想像以上にくすぐったかったのか、陽菜は足の指をぎゅっと縮こまらせ、声を上げた。
「ほら力抜いて」
「あはははっ、きゃはっ、ひひひ~」

クレヨンは、含有する油分のおかげで、滑らかな描き心地と描くために必要な程よい硬さを保つ。
蓮は、敏感な肌を効果的にくすぐる道具として、クレヨンを高く評価していた。

「きひひひ、あはぁぁぁ~」
蓮はひらがなで大きく『あし』と描いてやった。
「わかった?」
「…………」
陽菜は足元の蓮を不満そうに睨む。
「……いじわる」
「最高の賛辞だ」

間違えたいのに、問題が簡単すぎて、うまく間違うことができない状況ほど、もどかしいものはない。
陽菜のなんともいえない表情は、蓮をさらに喜ばせる。

「わからないかい? じゃぁ次は左足でいってみようか」
蓮は陽菜の左足に移動し、つま先からスニーカーソックスをすぽっと脱がし取る。

蓮は左手でしっかり陽菜の足の指を持って固定し、今度は青のクレヨンで、
かかとの方から、上に向かって描き始めた。
「きゃはははっ!!! 下っ!!? 変っ! あはははっ、向き変っ!!」

描き終え、蓮は歯ブラシの準備をする。
「わかった?」
「……え」
陽菜はぽかんとした。今度は本気でわからないようだ。
「答えは?」
「…………」
「残念、時間切れ」

蓮は陽菜の足の裏をジャリジャリと歯ブラシで磨き始める。
「きゃはっ!!! きゃっはっはっはっはっは~~~!!!? 何っ!!!? 全然っ!! じぇん、全然わかんなかったぁぁっはっはっは~」
「答えは、『拷問』」
「全然違ったよぉぉぉ!!! あっはっはっは~~」
「僕は日本語で答えてって言ったけど、日本語で書くとは言ってないよ? "torture" って重要単語なんだけどな」
「卑怯っ!! ひきょぉぉぉっはっはっはっはっは~~~」
蓮は姑息な手で何巡も陽菜を焦らした。

「答えは、『枷』 "shackles" だよ! 本当は "stock" にしたかったんだけど、こっちは意味が多すぎるからね」
「そんな単語しらなひぃぃぃっひっひっひっひ~~~!!!」

「答えは、『悶絶』だよ。最初は漢字で『拷問』って描こうと思ったんだけど、『拷』まで描き終えた後で、
気が変わって、二重線で消して描き直したんだ」
「きゃひゃひゃひゃっ! 二重線っ!? ひどいっひっひひゃひゃひゃひゃ~」

「答えは、『優秀』だよ。最初『憂鬱』って描こうと思ったのに、『鬱』の上部分でぐちゃぐちゃになったから、
その部分だけ二重線で消して、描き直したんだ。ああ、人偏忘れてたから、最後『憂』の隣に付け足したけどね!」
「きゃひっっ!!! きゃひぃぃっ、付け足しってっ……!!! うひひひひひ」

「残念。『DNA』はアルファベットでしょ? 『デオキシリボ核酸』って答えないと! 漢字が続いたせいで、日本語縛り忘れちゃったかな?」
「あっはっはっはっはっ!!! にゃっ!!? そんなぁぁぁっはっはっはっは~~」


楽しい楽しい文字当てゲームは一時間以上続いた。
「はぁ……っ、んはぁっ……」

「おめでとう、陽菜」
蓮は、陽菜の頭上から顔を覗く。
汗と涎と鼻水でびっしょりと濡れた陽菜の顔は、だらしなく弛緩している。
焦点の定まらない目をぎょろんと裏返しながら、陽菜は「ひひひ……」と笑った。

「さぁ、正解者にはプレゼントだよ!」
蓮はそう言うと、陽菜のシャツの裾をべろんと上に捲り上げた。
シャツが少し乳房にひっかかり、ぶるんと震える。

陽菜の白いお腹に両手の人差し指を置き、へそのまわりをつつつと移動させる。
「うふふふっ、ふひゃははっ……きひひ」
腰まで指を下ろし、つんつんと突いてやる。
「あきゃっ! きゃはははっ、きゃはひぃんっ」

そして、目的の場所へ。乳房の付け根に親指をセットして蓮はやさしく陽菜に微笑みかける。
「いくよ? 準備いい?」
「……ひひ、……早くぅ」

蓮は親指をぐりぐりと、かなり強めに蠢かした。
「ぎゃっぁぁぁぁぁっはっはっはっははーー!!!! あーっはっはっはっはっ!!!! きゃっはっはっはっはーー!!!」
陽菜の甲高い笑い声が部屋中に響き渡る。
完全に弛緩しきった陽菜の表情。だらりと開いた口の端から涎が流れ出、鼻水が噴出しても、陽菜はまったく気にする様子も無く大笑いする。

「あはははははっはははははっははははっ!!!! きゃひゃひゃひゃひゃーー!!!」
びくんと陽菜の体が震えたかと思うと、クウォーターパンツが濃紺に湿っていくのが見えた。
「きぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひっ!!! でちゃったぁぁっ!!!! きゃはははははは、でちゃったぁぁあぁぁっはっはっはっはっはっはっはっは~~っ!!!」
陽菜が嬉しそうに舌を出して笑いながら言う。
「楽しい?」
「楽しいぃぃいひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! あーっきゃっきゃっきゃっきゃ」

下品に暴れ狂う陽菜の姿に、学校での「健全な」イメージはもはや無い。
ギシギシと軋むロープ、ガタンガタンと背中に打たれて揺れるベッド。陽菜はすべてのエネルギーを、笑いに投じているかのようだった。
この状態で十分もつのか? 
蓮は少し心配になったが、陽菜の「もっと! もっと!」と必死にせがむ声を聞き、今日ぐらい、陽菜の希望を全面的に優先させてやろうと、指を加速させた。

◆◆◆

陽菜が帰り、昼食を取ってのんびりしていると、美咲が蓮の家にやってきた。
午後の予定は、昨日ほぼ完璧な段取りを組んだ美咲への慰安会である。

美咲は何故か制服姿だったが、指示したとおり体操服を持って来ており、部屋で着替える。
「委員長。こういうプレイが好きなんですか?」
「好きだよ。美咲が」
「……答えになってないです」
美咲は目をそらす。

「スニーカーソックスは履かないの?」
蓮は、美咲の足元、白いハイソックスを指す。
「履いたことないです」
「用意してあるよ。美咲のために」
「なんでですか?」
「気分を変えようと思って」
「……履いて欲しいですか?」
「美咲が好きだ」
「…………」
「好きだ」
「わかりました。履き替えます」

美咲は、床に尻をつけて座り、自ら靴下を脱ぐ。ぺりっとのりの剥がれる音。
「いつも、のり付けているね」
「『ソック○ッチ』ですね。商品名なので伏せなければなりませんが。……ずり落ちるのが嫌なので」
「液体靴下止め?」
「そちらは、あんまりピンと来ない名称になってしまいましたね。まったく『ソッ○タッチ』といい『ホッカ○ロ』といい、あそこの商品は普通名詞に対して武力介入しすぎです」
美咲は、青縁の白いスニーカーソックスに履き替え終えた。
くるぶしからふくらはぎのラインがよく見える。
「少し、足元がすーすーします」
新鮮な感覚に、立ち上がって足元を何度も確認する美咲。
蓮は、支配欲の高まりにぞくぞくしながら、美咲をベッドに仰向けになるよう促す。


美咲に万歳させ、両手を揃えて手首を縛り、固定する。
上から美咲の顔を覗き込むと、少し不安でと期待が混じった表情で見返してくる。

「昨日はよくやってくれたね。すごいよ美咲」
「…………」
美咲は複雑そうに顔をしかめる。
蓮にはわかっている。美咲は最後の最後で上手く立ち回れなかったことを気にしている。

「どうした?」
だからこそ、美咲から引き出さなければならない。
「……私は、失敗しました」
「なんのことだい?」
「図書館で小林さんの携帯が鳴ったとき、私は、……何もできませんでした」
「ああ」
ここでしっかり、美咲の心をえぐることが重要だ。
「でも、陽菜がなんとかしてくれただろう?」
「……っ」
「それまでは完璧だった。そうだろう?」
「…………」
「陽菜がああいう行動を取れたのは、愛莉と知り合いだったから。美咲とは違う」

仕方が無かった。そんな慰めが、プライドの高い人間にとって、どれほど残酷なものか。
蓮は、悔しそうに眉を寄せる美咲の表情に、興奮した。

「95点の答案はそんなに不服かい?」
「……最後の大問、配点5点もあったんですね」
ビンゴ! すばらしい食いつきだ。撒いた餌の性質をきちんと理解している。
だからこそ、美咲は落とし甲斐がある。
美咲にとって、冒頭の小問5問分と、最終大問1問は同等ではないのだ。

「だからって、陽菜に嫉妬しちゃだめだよ」
「えっ?」
「美咲が取るはずだった5点をもっていった陽菜に嫉妬しているんだろう?」
「えっ、……ちが」
「ちがうかい?」
「…………」

違うのだ。しかし、美咲は絶対に「違う」とは言えない。
なぜなら、美咲は絶好の機会、「罰される」好機を見出したのだ。
美咲は「自分は失敗した」と感じている。
しかし、それが本当は「失敗」と呼ぶに値しない、「仕方の無いこと」だと、美咲は論理的に理解している。「罰されたい」事実が「罰するに値しない」事実であることを知っている。
だからこそ、美咲は複雑な感情に苦しむのである。「罰するべきでない」「罰されたい人間」を「罰する」ためには、どうすればよいか?

「だんまりかい? なら体に聞いてみよう」

新しく、罰する理由を作ってやればよい。


蓮は、美咲の腋の下に両手の人差し指を刺した。
「ひゃひぃっ!?」
蓮はさらに指を美咲の脇腹へ這わせる。
「くひっ……ひひっ、い、委員長?」

蓮は知っていた。今美咲に最も必要なものが「理不尽な罰」であることを。

「美咲。君を罰してあげるよ」
美咲は、一瞬驚いたような表情をしたが、すぐにすべてを悟ったようだった。
蓮は、美咲の瞳に確信が宿ったのを確認すると、両手の指に力をこめた。

「ひゃはっ!!? ひゃひひひひひひっ、ひひひっ!!!」
わしゃわしゃと、両脇腹、肋骨を揉みほぐすと、美咲はすぐに笑い声を上げた。
「ほら、シャツが薄いからいつもよりくすぐったいね?」
「ひひひっ!!! いひひひひひひ~」

蓮は、美咲のお腹を掘り返すように、両手でがしがしくすぐる。
「ひゃはっ!!! ひゃひゃひゃひゃっふふふっ!!! くっひゃっひゃひゃ~」
美咲は足をばたつかせて身悶える。
「ひゃはははははっ!!! はっひゃっひゃっひゃっひゃ」

蓮はぺろんとシャツをめくり、素肌の腰を掴みもむ。
「ふひゃぁぁぁっ!!!! くひひひひひっ、ひぃぃぃひひひひひ」
おへそに指を突っ込むと、美咲は膝をくんっと曲げて反応した。
「ひひゃぁぁぁぁぁっ!!!!?」
へそをカリカリと引っかくと、腰をくねくねさせ、膝を立てたり、空を蹴ったりして、美咲はさらに悶える。
「はひぃぃぃぃっ!!! ふひぃぃひひひひひひひひゃひゃひゃひゃひゃひゃ~~」
「敏感になったね。水曜日は全然我慢できたのに」
「いひっ、委員長の……くっ、せいですよぉぉぉっひゃっひゃっひゃっひゃ~~」
美咲は膝を立て、バタバタと足踏みをした。

「足癖が悪いな」
蓮は美咲の足下に移動し、美咲の右足を掴み、左脇腹で抱え込む。
美咲のふくらはぎから先を前方に突き出した状態で、蓮は美咲のすね辺りを触る。
「くくっ……ふふっ、委員長。そんな程度じゃ、全然、くくっ、効きませんよ」
ノリのいい美咲は生意気に挑発してきた。

蓮はニヤリとして、美咲のスニーカーソックスの縁に沿って人差し指で素肌をなぞる。
「ひゃっ!!! あっ……いひぃぃっ、そこっ、ひゃんっ!!! 気持ち悪いっ」
美咲の足先がくねっくね動く。

蓮は人差し指と中指で、美咲のアキレス腱、くるぶしをこちょこちょと弾いた。
「ひゃははははっ!!! ひぇへっ!!? ひゃはっ、そんなとこっ!!? ひゃひひ!」
足の親指がぴんと反りたち、ふくらはぎの筋肉が痙攣していた。

「結構くすぐったいだろう? そして、もどかしいだろう?」
蓮はさらに、美咲の足の甲を撫でる。
「ひぃっ……!!! くふふっ、もうっ……ひひひひ」
「もう我慢できない?」

蓮は、ソックス越しに、美咲の足の裏を人差し指でくすぐった。
「ひゃはっ!!! ふふふふふふっ!!」
足が暴れるので、ソックスが少しだけ脱げ美咲のかかと部分だけ素肌が露出する。
そこに蓮は、爪をこしょこしょと這わせた。
「やひゃんっ!!! ひゃっはっはっはっはっ!!!」
「自分から靴下脱ぐなんて、そんなに素肌を触って欲しかったのかな?」
「ひゃはははっ!!! ひっぃっひっひっひ!!」

「左足の方がやりやすいな」
蓮は美咲の右足を解放すると、ベッドに上がり、今度は美咲の左足を捕らえる。
人差し指を、美咲のかかとからソックスの中に滑り込ませ、くるりと脱がしとる。
美咲の白い偏平足が指をぴくつかせている。

蓮に対して内側を向いた、美咲の足の裏に思い切り指を這わせた。
「ひゃっはっはっはっはひゃ~~~~!!!! いぃぃぃぃひひひひひひ~っひっひっひっひ~」
美咲の右足がバンバンとベッドを打ち、蓮の背中をググっと押し付けてくる。

「それは抵抗かい?」
「ちがぁっ!!! ひゃひゃひゃっ、押し付けひゃひゃひゃっ、ないと、委員長を、ひひひひっくくく、蹴りそうなんです」
「蹴ってもいいよ? その分くすぐるだけだから」
言うと蓮は、左手でがっちり美咲の足を持ち、足の裏の真ん中の一点を集中して、爪でガリガリと掻き毟った。
「ぐふっ!!!? ぐひひひひひひひひっ~~~!!!! ひゃぁぁ~~っひゃっひゃっひゃっは~!!!」
美咲は蓮の背中を右足でダンダンと打ち、その衝撃でソックスも脱げてしまう。

「なるほど、そんなにくすぐってほしかったのか」
「いひゃひゃひゃっ!! ちがっ……いひぃひ、今のは……っ! ぷふぃっ、ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!?」
蓮は美咲の言葉を遮るように、爪で美咲の左足の裏を激しく引っかいた。
「ひゃひゃひゃひゃっ!!! いひひひひっ、そ、それっ!!! きついですっ!!! ひはははははははっ」
美咲は上半身を左右に捻りながら、蓮に掴まれた足をぴくぴく動かせた。

「素直におねだりすればいいのに」
蓮は美咲の両足を抱えるようにして持ち直すと、左手で美咲の足の親指を掴んで、両足の裏をくすぐった。
「きゅひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!! んふふふふ~~~っ! ひひひっ、いぃぃっひひひひひひひひひひひひひひ~~~~!!!」
美咲の両足の小指がくすぐったそうにひくひくと動く。
「おねだりしてごらん? もっと欲しいんだろう?」
「ぁひひひひひひひひっ!!! ひひひひっ、くくくくくくっ!!!」
「素直になれないかい?」
蓮は美咲の右足の小指と薬指の間に、人差し指を差し込む。
「あがっ!!!? ひぎぎぎぎっ、ぐひひひひひひひひひひっ~~~!!! あぁぁぁひゃぁぁっ!!! いっぃひひひひ、委員長っ!!! 委員長っ!!! ひゃひゃひゃひゃっ!!! もっと、もふふふ、もっとお願いしますぅぅひゃぁぁっははっはっはっははっはっははっはは~~っ!!!!」

ついに折れた美咲のおねだりに、蓮はため息をついた。
「美咲。これは罰なんだよ? 美咲はおねだりなんかできる立場じゃないだろう?」
「ひゃはっ!!!? ひひゃぁぁぁっ!? いひ、委員長ぉぉぉひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!?」
美咲の驚愕の表情をニヤニヤと見つめながら、蓮は指を掻きたてる。
「いひひひひひひひひっ!!! いひ、委員長ぉぉぉっ、意地悪っ!!! いじわるですよぉぉぉいひゃひゃひゃひゃひゃひゃ~~っ!!!」
「全然反省してない山本さんには、もっときついお仕置きが必要だね! ハハッ」

理不尽に積み重ねられていく罰に、美咲は全身をよじりながら嬉しそうな笑い声を上げた。

◆◆◆

数分ほど美咲を甲高い笑声で鳴かせたあと、飲み物休憩を取った。
縛られたままの美咲にストローをくわえさせてやる。
「罰には満足した?」
ごくりと美咲は飲みこみ、
「はい。……ありがとうございました」

「さて……」
蓮は美咲の上にまたがった。
「あ、ちょっと待ってください」
「どうしたんだい?」
「一つ、質問してもいいですか?」
「うん?」
「どうして、葵さんの調教を今日ではなく明日にしたんですか?」
「…………」
蓮は、言うべきかどうか迷ったが、
昨日の功績もあるし美咲の意見を聞いてみるのもありか、と思った。

◆◆◆

「ひゃふんっ……い、委員長。率直に、ひひ、言いますっ……ひひひ」
蓮は自身の考えを述べた後、美咲の素肌、腰から脇腹を人差し指で上下にゆっくりなぞりながら、美咲の話を聞いた。
「ひひっ……見当違いです」
「え」
蓮の手が止まる。

「あっ……、や、やめないでください」
「あ、ごめん」
再び指の往復運動を始める。
「くふふっ、……委員長は、一番肝心なことがわかって、ひひっ……いません」
「……肝心なこと?」
「私、ふひっ、……たちは、委員長の言葉で落ちたのでは、くくく、ありません」
蓮にとって、美咲の言葉は予想の範疇になかった。
「その、指です」
「指?」
「私、ひひひっ……以前言いました。くくぅっ……委員長は、落とす、ぷふふっ、くすぐり、テクニックを持っている、と」
「うん」
「あれが、全てです……ふひぃっ」

蓮は美咲の言う真意が読めなかった。
今までの調教は、自分が自由に、いつでもくすぐることのできる性奴隷を作ることを目的としてやってきたはずだ。
くすぐりという行為を利用して、調教を施す。
調教はくすぐりのためにあり、くすぐりは調教の一部だった。

“僕は、一体何を、見落としているというのか?”

「委員長っ!」
いつの間にか手が止まっていた。美咲の目がまっすぐ蓮を見つめる。
「委員長の、ご自分の指を信じてください! いえ、指だけを信じてください。他は何も要りません!」
「…………」

「委員長なら、絶対に葵さんを落とせます!」



●●実行七日目(日曜日)●●


小林凛は、加藤葵の家を訪れた。時間は朝9時。
葵の両親から絶大な信頼を得ていた凛は、楽々と家に上げてもらい、葵の部屋へ向かう。
この時間、葵は100パーセントまだ眠っている。

葵の部屋に入り、可愛らしい桃色のベッドの上にもっこり膨らんだ布団を引き剥がす。
「……っ、…………」
白いフリフリのパジャマを着た葵が丸まっている。
「葵~、起きなよぉ~、朝だよぉ!」
耳元で凛が叫ぶと、葵はゆっくりと目を開く。
「…………、制服……?」
葵の第一声は、朝の挨拶ではなく、凛の格好についての言及であった。
「そう! 学校の図書館行かない? 明日テストじゃんっ! 葵も勉強しないとっ」
「…………、午後に……」
「まだ眠い、じゃないっ!! 朝の方が効率良いんだかんね! 昼まで寝るなんてもってのほか!」
葵はぎゅっと体を縮こまらせる。
凛はハンガーにかかった葵のブレザーを外し、葵の上にバサッと乗せる。
「っ……!?」
「ほら早く着替えて!! 制服着た方がしゃんとするでしょっ! はいはいはいっ!!!」
凛の半ば強引な誘導で、葵は眠そうな目をこすりながら体を起こす。
朝一番にもかかわらず全くきしみのない艶やかなロングへアが、まったく重力に逆らわず、すとんと葵の膝の上に垂れる。
「はい、ぼーっとしない! 着替えて着替えて、はいはいはい!!!」
手をぱんぱんと叩き、葵を急かす凛。

凛のみが、寝ている葵を起こすことができる。それだけ、凛と葵の信頼関係は強固なものだった。
凛はその信頼を、蓮のために利用することにいささかの迷いもない。

凛は、少しだけ自分が怖かった。昔ならば絶対に、葵を裏切るようなことはしなかったはずなのに……。
昔……、か。
自分の中で大切な何かが完全に置き換わってしまった今、一昨日以前の価値基準なぞ、興味がなくなってしまっていた。
裏切るとか裏切らないとかどうでもよい。
むしろ、蓮に葵を捧げることが、葵にとって幸せである、と信じて疑わない自分がいる。
きっと明日、いや数時間後には、この「自分が変わってしまった」という感覚すら忘れてしまうのだろう。
凛は、蓮の指を想像するだけで、恐ろしいほどの身の高揚と、満足感を得た。

「……た」
「着替え終わった? よしっ! 行くよっ!!」
完了の助動詞単体で会話が成立した。

◆◆◆

テスト期間中、本来ならば校内は生徒立ち入り禁止であるが、学校図書館には八名の生徒が集まっていた。
その中の一人加藤葵は、図書館中央に並べられた机の上で、両手首、両足首をロープで縛られ、目一杯大の字に伸ばした状態で、仰向けに拘束されている。

「……っ」
葵は不安そうに、ただ一点、蓮の隣に立った凛の顔を見つめている。
「加藤さん、……葵」
蓮は葵に優しく語り掛ける。
葵の目は一向に凛から離れない。
「いくつか質問したいことがあるんだ」
「…………」
葵は何も答えない。蓮の存在を全く無視しているかのようだった。

蓮は葵の足下に行き、葵の右足首を持って、黒いローファーをカポンッと脱がした。
白いハイソックスの足の裏は全面が程よく、薄灰色になっている。

「もし、答えてくれたら解放しない。答えずに耐え切れたら解放する」
「…………」
「君は、僕を尾けたのか? そして、もし尾けたのなら、何故か?」

実験であった。
今回蓮は葵の口説き文句を一切考えてこなかった。
もしくすぐりのみで葵が落ち、質問に答えれば、昨日美咲に言われたことに確信が持てる。

自分の指を信じろ、か。
タイムリミットは閉門時間の夜六時。あと八時間近くある。
時間内に、葵をとことんくすぐり落とす!


蓮は気合を入れ直し、葵の足の裏に人差し指を這わせた。
「……っ!! ……っ」
葵は凛に目を向けたまま、少し眉をひそめた。
ぐっぐっと足の中央を押し込んでみたり、足の側面をなぞってみたりするが、葵は目を細める程度で、ほとんど反応がない。
もっと感度を高めなければならないか。

蓮は葵の上半身の方へ移動し、上着のボタンを外しながら優しい声を出す。
「葵、さっきの質問に答えてくれるかい?」

葵はやっと凛から目を離し、はじめて蓮を見る。
「さっきの質問ちゃんと聞いて――」
「いや……」
透き通るような細い声、しかし明瞭な発音で言い放ち、再び葵は目線を凛へ向ける。
反抗的な態度、というよりは、冷淡な態度。

「凛、今の言葉ってまんま?」
「まんま。蓮のこと嫌いとか好きとか関係なく、ホントにまんま。何の感情も入ってない純粋な拒否」
葵は少し訝しげに眉を寄せ、凛を見つめる。
「きっと、葵は答えてくれるって、信じてるよ」
蓮は、ついつい癖でたらし言葉を放ちながら、ワイシャツ越しに葵の腋の下を人差し指で突く。

「……っ、ん……」
葵の肘がビクッと動く。腋を閉じることはできない。
蓮は、腋に刺した人差し指をゆっくりと葵の肋骨、腰へと下ろしていく。
「……っ! ……っ」
指先に、ぴくぴくと微弱に感じられる緊張が伝わってくる。葵は蓮の指を目で追った。

これで、葵の体は、蓮の指の感覚を覚えたはずだ。

絶対に笑わせてやる。

蓮は、陽菜、莉子、美咲、結衣を呼びつけ、葵の周りに配置する。
「ゆっくり、優しくね。感度を高めてやって」
一斉に、四人の指が葵の体を襲う。
「……んんっ!? んくっ……、……っ」

陽菜と美咲は、それぞれ葵の体側に付き、腋や脇腹を、結衣は葵の腰辺りに陣取り、お腹やふとももを、
莉子は葵の足元で、靴下越しに葵の右足の裏をやさしくくすぐった。

「……っ、んんっ……」
眉を寄せ、不快そうに首を左右にゆっくりと振る葵。
口から漏れる、あえぎ声のような音は、笑いを堪えているというより、純粋な苦痛によって自然に発せられているような気がする。
単調で微弱なくすぐりは、徐々に葵の感度を高める。


十分ほど経つと、葵の体に異変が生じ始めた。
「……んー、……んぅ」
目をぎゅっと閉じ、眉間に皺を寄せた葵は、顔を少しだけ紅潮させていた。
荒い鼻息と一緒に、胸が大きく上下する。
蓮はその様子を、高熱で苦しむ少女の姿と重ね合わせた。

陽菜と美咲は葵の腋の下から胸を撫でるように、両手を這わせ、結衣は葵の膝小僧を隠したスカートを少し捲くり、膝や太ももをなでる。
莉子は右手で葵の足首を掴み、左手の人差し指で、葵の足の裏を上下に何度も往復させる。

「……んぅ……んぅ」
蓮が葵のおでこに手をやると、少し脂汗をかいていた。
「質問に答えてくれるかい?」
蓮は葵の頭を撫でながら耳元で囁いた。
「……や」
全身のくすぐりに耐えながらの、当然の拒否。

蓮は凛と愛莉を呼び、葵の頭上に集めた。
愛莉の手には小筆が握られている。
葵は目を薄く開き、凛を見る。瞳が必死に「どうして?」と訴える。
凛は、無表情で葵の顔を見下ろす。
何も言わない。
葵は荒い息を上げながら、じっと凛を見つめていたが、精神的に耐えられなくなったのか再び目を閉じた。
目尻にはうっすら涙が浮かんだ。

蓮は、興奮から顔がニヤけそうになるのを堪えた。
まだだ。もう少し、感度を高めてから……。


蓮が愛莉に目で指示すると、愛莉は筆を葵の左耳に近づけた。
「ふわぁっ……!!? ……んぅ、…………」
筆先が耳に触れると、葵は苦しそうに顔をゆがめ、頭をぐいっと反対側に逸らせた。
凛が葵の頭を両手で持ち、真上を向かせた状態でしっかりと押さえる。
葵は驚き、目を見開く。葵の「助けて」と訴える瞳を見ても、凛は一切表情を変えない。

愛莉は動けない葵の耳を、筆でさわさわと掃除してやる。
「んぁっ……、んぅ。……はぅぅ……」
ひだの間にこしょこしょと筆先を這わせ、耳の穴を優しく焦らす。
「んぁぁっ……!! んんぅぅぅ……、やぁ……」
葵は全身の微弱な刺激と、耳の官能的な刺激に顔を赤らめ、体をぴくぴくと震わせた。

愛莉は筆を耳から徐々に、首筋へ移動させていく。
「あっ……!! んんぁぁ、……あぅぅ、ぁっ、ぁっ……」
しおらしい声で鳴く葵。顎をがくがく震わせ、眉間の皺はますます濃くなった。


さらに五分ほど経過すると、すっかり葵の体は火照り、顔も真っ赤になっていた。
「んんっ……ぁあぁ、んぁっ! ……ぅぅぅぅ……」
葵は腰をくねらせ、陽菜や美咲の指から逃れようとする。
ワイシャツの、腋の下や、背中辺りは、汗ですっかり湿っている。

そろそろか、と蓮は五人のくすぐりを止めさせた。凛も葵の頭を解放する。
「……ハァっ!! ……ハァっ、…………」
悩ましい苦痛から解放され、葵は肩で息をする。
長めに吐き、瞬間的に吸う。断続的な呼吸は、かなりの肉体疲労を示している。

「質問に答えてくれる気になったかい?」
当然拒否するのはわかっているのだが、定期的に聞いて反応を見るのは楽しい。

蓮は優しく葵の頬を撫でる。
「……ハァァっ、……っ!」
葵は口を開け、がぶりっとその指を噛もうとした。
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」

「おっとっ。…………?」
一瞬空気が変わった気がした。
おや? と周囲を見渡すが特に変わった様子はないので、蓮は再び葵に目を落とす。

「いきなり噛もうとするなんて、葵は悪い子だなぁ」
「……、ハァっ、…………、ハァっ」
葵の目はしっかり蓮を捕らえた。
その瞳には嫌悪、怒りといった感情が読み取れる。

蓮はようやく、葵の感情を揺るがす存在となれたことを知り、嬉しくなった。

「これからが本番だよ?」
蓮は、先ほどと同じようにワイシャツ越しに葵の腋の下を人差し指で突く。
「ぁぁいゃんっ!!? …………、…………?」
びくんっと葵の体がはねる。

葵の頭には、ハテナマークが大量に浮かんでいる。
「くすぐったいだろう? 僕の指」
言いながら蓮は、指を徐々に下へ下へと這わせる。
「ぁやんっ!! ……いぅぅっ! くぅっ!?」
葵は腰をくねらせ、蓮の指から必死に逃れようとする。

さっきはほとんど何も感じなかった刺激に対して、体が妙な感覚を脳に伝えることに、葵は困惑しているようだ。

蓮は指を葵の腰まで下ろすと、今度は上下に指で腰を切るように動かした。
「ぃぁんっ!! ひゃんっ、くひんっ」
そして五本の指を立て、もぞもぞと蠢かせながら、葵の脇腹、肋骨と這い上がっていく。
「いひゃんっ!! ぃひっ……!!! んぅぅ!!! んひっいぃぃん」
少しずつ、葵の声に笑いが混じってくる。

腋を閉じようと肘をがくがく震わせ、腰を上下左右にうねらせ、身悶える葵。
目尻に溜まった涙がホロリと頬を伝う。

腋まで指が到着すると、蓮は一旦指の動きを抑える。
「質問覚えてるね? 答えたらもう解放しないけど、答える気になったらいつでも言ってね」
目をぐっとつむり、ぶんぶんと首を横に振る葵。

蓮は葵の腋の下で、こちょこちょと軽く指を動かした。
「やあぁぁぁぁっ!!! いひっ!! ……ひぅぅぅぅぅっ」
「びしょびしょだねぇ。腋の下」
蓮は葵の両腋のくぼみに二本ずつ指を入れ、震わせる。
「ぁあやぁぁぁぁぁっ!!!! いやっ!! あひぃ。ひ、ひ……ぃやぁっ!!! ひはっっ、やぁぁん!!!」

もう限界だろう、と蓮は思う。
葵は体をびくびく震わせながら、顔を真っ赤にして喉奥から悲痛な声を上げる。
目には大粒の涙が溜まっており、口元は緩んだり緊張したりを繰り返している。
「んぅぅぅぅっ!!! ぃんぅぅぅうううっ!!!」
葵は唇を噛み、蓮の顔を睨む。
許しを乞うような瞳は、涙で潤んでいた。

「心配しなくても、たっぷり笑わせてあげるよ」
蓮は両手十本の指を、葵の肋骨に食い込ませるようにして、ごりごりとくすぐった。

「……っ、んぁぁぁぁぁっ!!!! いぃぃはっ!!! いひひっ、ひひひっ、いぃぁえははははは~~っ!!!」

ついに葵が笑い声を上げた。
「いはははっ!!! やぁぁぁぁあっ!!! いやぁぁ~っはっはっはっはっは!!!」
葵は体を今まで以上に激しくくねらせ、必死に蓮の指の刺激から逃れようとする。

蓮は葵の小ぶりな乳房の付け根に両手を差込み、くりくりとツボを刺激する。
「っやぁぁぁぁぁっ!!! やだぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!! いぁぁはははは~」
骨をごりごりしごくように指を動かすと、葵はボロボロと涙を流して笑い出す。
「あぁぁぁっ!!! やぁぁぁっ!!! いやぁぁぁっ!!! いぃひっひっひっひっひ~~」

◆◆◆

しばらく葵を悲痛な声で鳴かせ、蓮は葵の足下に移動する。
「ぃやぁぁ……、いやぁぁ、……いやぁぁぁ」
葵はむせび泣きながら声をしぼる。
慣れない大声を出したせいで喉を痛めたのか、葵は咳き込んだ。

「質問に答えてくれる気になったのかい?」
蓮はすっとぼけた声で聞く。
「……いやぁぁぁ、……ゴホッ、……やだぁぁぁ~、……ふぇぇぇ」
葵は本気で嫌そうに顔をゆがめ、か細い声で泣く。

蓮はさらに興奮を掻き立てられ、葵の右足のハイソックスに手をかけた。
つま先からゆっくりゆっくり焦らすように脱がしていく。
「……エグッ、やぁぁぁっ……やだぁぁぁぁ……」
懇願する葵の泣き言を聞きながら、蓮は葵のかかとを掴み、すぽんっとソックスを脱がし取る。

葵の素足は想像したよりも、やや粗野な印象を受けた。
スクウェア型の、ふっくらした偏平足。
足の裏は肌白なのだが、ほんのり黄ばみ、足の甲には痣がある。
足の指はぎゅっと縮こまっており、指の間に少し糸くずが挟まっていた。
爪の長さもまちまちで、あまり手入れはされていないようだった。

ぎゅっと皺が寄った足の裏を、蓮は人差し指でかかとから上へなぞり上げた。
「いひひぃぃぃんっ!!?」
葵の足はびっくりしたように、指を開いた。
「さっきはこれ、全然平気だったのにねぇ」
蓮は葵の足の指を左手で持って、ちょうど土踏まずの辺りをひっかいた。
「いひゃっっ!!! いははっはははははっ!!! あぁぁひひひひひひひひひ」
葵は涙を撒き散らしながら笑い悶える。シャッシャッと爪の擦れる音に合わせて、葵は声を荒げ、ぶんぶんと首を左右に振る。
「ひっひっひっひっひっ!!! やぁぁっはっはっはっはっ~~」
葵の口元から涎が流れ落ちた。

しばらく足の裏を引っかいたあと、蓮は葵に問う。
「楽しいかい?」
「いやぁぁぁぁっっはっはっはっはっ!!! いやなのぉぉ、やっはっはっは~、やめてよぉぉぉ」
くすぐり続けていると、葵はくすぐっていないときよりも、会話が成り立つようになってきた。
もちろんそれは、葵を無理矢理「明確な意思表示が必要な状況」に陥れているからであるが。

「質問には答えてくれる?」
「いぃあっはっはっはっはっ~~~!!! いぃぃぃぃっ、言ったらっ……許しひひひひひ」
「聞いてなかったかい? 答えてくれたら、解放しない」
「にひっ!!? にひひひひひひひ、ぁぁあ、どうしっ、ひひひ、どうしたらいいのぉぉぉ!!?」
「完全閉門時刻まで我慢すればいいんじゃないかな?」
「いははははははっ、むひっ!!! 無理っぃぃっひっひっひっひっひ~~」

蓮は、葵の左足のローファー、ソックスも脱がし取り、葵の両方の素足に指を這わせる。
左足はずっと靴を履きっぱなしだったためか、かなり蒸れており、より感度が増しているようだ。
「いぃぃぃっひっひっひっひっひっ!!! ゆひひひっ!! やぁぁぁはっはっはっはっは~~」
足の指が開いたり閉じたり、めちゃくちゃに動くので、足の指の間もしっかりと引っかいてやる。
「うひぃぃぃっ!!! いひぃっ!! いひぃぃぃいやぁぁぁーっはっはっはっはっはっは~」

蓮は両手の指を器用に使い、葵の両足の土踏まずをバラバラに撫でてやった。
「いひぃぃぃぃっ!!! いやぁぁぁっ!!! やめっ、いやぁぁっはっはっははっはっはっはっ、やめてぇぇぇえぇひひひははははっ!!!!」
葵のサラサラの髪の毛がわさわさと揺れる。
「軽く撫でてるだけだけどね」
「いひゃぁぁぁはっははははははははっ、無理ぃぃぃっ、無理なのぉぉぉぉぃやぁぁぁっはっはっはっはっはっはっは~~っ!!」
葵の偏平足はくすぐったそうに激しくよじれ、くしゅくしゅと指を蠢かせ続けた。

だいぶ足の裏の血色もよくなったところで、
蓮は葵の白い生足をさすりながら、ふくらはぎ、膝と両手を上へ上へと這わせていく。

「いひゃぁぁんっ、ひゃんっ! だめぇぇ、いやぁぁひひひひ」
すっかり感度が上がってしまったのか、優しく触れているだけなのに葵は笑い悶える。

捲くれたスカートの中に手を突っ込み、少しむちっとしたふとももを掴む。
「にゃぁぁぁぁぁあああんっ!!! っはっははっはっはははっ~、ひぃぃひぃぃぃ」
蓮が揉み解すと、葵は絶叫を上げた。
さらに指を這わせ、きちんと足の付け根にもツボ入れしておく。
「うにゃぁぁぁぁぁぁっ!!! いひゃひゃひゃひゃひゃっ~~、だめぇぇぇっへっへっへっへ」

◆◆◆

蓮は六人を呼び集め、葵の全身をくすぐらせた。
「あぁぁぁーっはっはっはっはっ、いぃぃっひっひっひっひぃぃ!!!」
葵が腋から脇腹、足の裏まで、まんべんなくくすぐられる中、蓮は机の上で葵の体にまたがり、葵のワイシャツのボタンを外していった。

がばっと観音開きにすると、葵の真っ白な素肌、腰のくびれ、小さなへそが露出する。
前ホックの黒いレースブラが、小ぶりな乳房を支えていた。

葵の体側に付いた、陽菜と美咲にも手伝ってもらい、腋まで完全に露出させる。
「いーっひっひっひっひっ!!! やぁぁめぇぇえっ!! えへへへへへへっ、えっちぃぃぃ!!!!」
葵の口から「えっち」と出たことに驚いた。

蓮は愛莉に指示し、葵のへそを、筆でくすぐらせた。
「いひゃぁぁぁっ!!!? にひぃぃひひっひゃっひゃひゃひゃっ、ひぃぃぃいっへっへへっへっへ~~」
葵の顔はすでに涙と涎でぐしゃぐしゃだった。

蓮は、葵のブラのホックを外す。小ぶりながらも充分な弾力のある二つの水風船は、支えを失った拍子に、ふわんと弾ける。
「ひゃぁぁぁぁっ!!! やぁだぁぁぁぁぁっっはっはっはっは~~~、えっちえっちえっちぃぃぃっひっひっひ」
葵の柔らかい乳房の下の部分を、蓮は指先でこちょこちょくすぐる。
「いっひっひっひっひっ!!! しぃぃひっひっひっひ、そんなとこ触るにゃぁぁぁぁっはっはっはっはっは~~~!」
「触るにゃ、ね」
蓮は、葵がどんどん壊れていく様子を楽しみながら、指でぐりんぐりん葵の乳房の周りを揉みまわし、腋の下に人差し指を入れ込んでかき混ぜた。
「あにゃぁぁぁぁっ!!!! いぃぃぃはっははっはっはっはっ!!! こちょこちょやだぁっぁぁぁっはっはっは~~!! ばかばかばかばかぁぁぁぁいっひっひっひっひ~~~」

◆◆◆

葵をくすぐりだして、約一時間半。
現在は莉子、結衣、凛、愛莉に葵を任せ、蓮、陽菜、美咲は葵の鳴き声をBGMに休憩を取っていた。
「委員長。さっきのは、絶対にダメです」
「うん?」
美咲は咎めるような目で蓮を見据えた。
隣の陽菜も少し頬をふくらませている。
「何のことだい?」
「佐藤君。私たちを殺すつもりなの?」
「はい?」
珍しく陽菜が威圧的な態度を取るので、蓮は少しどきりとした。
「指ですよ。指。委員長。さっき、無防備に葵さんの口元に手を持っていって、もう少しで噛まれるところだったでしょう」
美咲が葵の方を指す。
葵は、愛莉の筆で乳首をいじられ、嬌声の入った笑い声を上げている。

「委員長。まだご自分の指の大切さ、わかってないんですか? なんで私が委員長の指を休めるために、こうやって休憩を提案しているのか、わかってないんですか?」
「私、もしあのとき、佐藤君の指に傷がついてたらと思うと……」
陽菜は顔面蒼白になる。
「え」
「……委員長。わかっていないようなので言いますね。委員長の指は神です」
「は?」

神……????

「私たちの神です。私たちは委員長の指があるから生きていられる。だから委員長に絶対服従する。そう調教したのは委員長じゃないですか!」

そんな風に調教した覚えはない……。

「あんな感覚。委員長の指の感覚、体に覚えさせられたら、もうそれが無い生活なんて考えられないんです! 私たちは委員長の指の虜なんです! それだけの力が、委員長の指にはあるんです! 委員長の指は私たちの命そのものなんです! お願いです。わかってください」
美咲は握りこぶしを固く締め、目にうっすら涙を浮かべた。

そうだったのだ……。

蓮はそのときすべてを悟った。

蓮は「くすぐり」が好きだった。
くすぐられる女の子を見るのが好きだった。
そして蓮自身の手でくすぐりたいと思った。
「蓮の指」がくすぐりたいと思った。

“僕が調教していたのではない。僕はただ、調教させられていたのだ。他人をくすぐるべくして生まれた僕の指に……”

勝った……っ!

蓮は歓喜のあまり、気が付けば高笑いしていた。
「い、委員長?」
「佐藤君?」
訝しげな表情を浮かべる二人の頭を、蓮はそっと撫でた。
「ありがとう。陽菜。美咲。もうあんなことしない。約束する」

蓮は葵を見やる。
「ふひゃぁぁんっ!!! ひひひひっ、あひゃぁぁん。ひぃぃぃぃ」
全身を四人に筆責めされる葵は体をびくびく痙攣させながら笑っている。

「そろそろ、休憩終りにしよう。そしてあと十分以内に、葵を落とす」

“神より与えられた最高の指。僕は指を欲し、指は僕を欲した……っ!! ……僕達は、互いに最高の利用価値を見出したのかもしれない”

◆◆◆

「葵、質問に答える気にはなったかい?」
蓮は葵の頭上から優しく語りかける。
「……ひぃぃ、……やだぁ」
筆責めを終え、葵の上半身はかなり火照っている。
蓮は、葵の、赤くこり固まった乳首を爪で弾く。
「ひやぁぁぁぁっ!!!」
葵は甲高い声で鳴く。

葵の感度は、この上なく高まり切っている。
「ひぁ、……ごめ、……ごめんなさい……。もぅ、……ひぅ……、許して」

この状況で、この指を駆使すれば……っ!!

蓮は、葵の腋に触れるか触れないかの辺りで両手をうごめかした。
「いやぁっ!!! ひゃはははっ、あははは……」
触れてもいないのに葵は笑い出す。
「まだ触って無いよ? そんなに欲しいのかい?」
「いやぁぁぁっ!!! やだっ、いひひひひひひ~~」
葵は目をつむり、ぐっと唇を噛むが、思い出し笑いのように、笑いがこみ上げる。
「んっ……んぅぅひひひひひひひっ!!! いぃぃひひひひひひひっひ」

「そんなに欲しいなら、遠慮せず言えばいいのに」
蓮は葵の乳房の付け根に親指をツボ入れし、激しく掻き震わせた。

「えひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!? げぇぇえっへっへっへっへっへっ~~~!! にゅぃぃひひひひひひひひひひ!」

顔を前後にがくんがくん動かし、唾を撒きながら笑い悶える葵。
蓮はさらに自由な人差し指で、葵の揺れる乳房に乗った乳首を刺激してやる。

「いぇひぇひぇひぇひぇひぇひぇっ!!!!! うひぃぃぃひぇっひぇっひぇっひぇっひぇっひぇ~~~!!!!!」

くすぐりを断続的に止めると、そのたびに葵の体はびくんと大きくうねる。
笑いが一旦収まり、ヒィヒィハァハァと息を切らすのだが、すぐにまた思い出し笑いを始める。
葵の思い出し笑いに合わせて、蓮がまたくすぐりを開始してやると、葵はさらに大笑いを始める。
蓮は、その拷問と等しい行為を、数十秒、ときに数秒間隔で何度も何度も繰り返してやった。

◆◆◆

何巡か拷問行為を繰り返し、葵はとうとう根を上げた。
……いや、ついに、この指を、自ら欲するようになったのだ!

「ひひひっ、し、質問……、答え――くくくぅぅぅぅうひひひひひひひひひひひっ!!!!」
全く触れていないにもかかわらず、葵は最後まで言い切ることができない。

蓮は、自動モードで笑い続ける葵の足下に移動する。
「葵、そういえば綺麗な髪の毛だね。いつも自分で手入れしてるの?」
「いひひひひひひっ、ひたことっ!! ……んぅ、したこと無い……、く、く、くくくくぃぃっひひひひひひ」
必死に笑いを堪えようとするのだが、葵はすぐに吹き出してしまう。完全に感覚神経の伝達システムが壊れてしまっているようだ。
「じゃあ、自分では櫛、使ったことないんだね」
「ひひひひひひひっ!! ないっ!!! ないぃぃぃっひひひひひひ」

蓮は、凛から椿油の入ったボトルと、つげ櫛を受け取る。櫛は背が縦横に広く、目の粗い大きめのものだ。
「今日僕が、櫛の使い方教えてあげるから、一緒に質問も答えてね」

蓮は、椿油を両手に取る。純度の低いパチモンなのでかなりベタベタする。製造元は伏せておく。
すり合わせ、葵の素足にもみこんでやる。
「いひひひひっ……あぁぁははははっ!! ぃあひゃぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃ~~!」
ただ足を撫でているだけなのに、葵は大口を開けて笑い悶える。
「じゃあ質問。葵は僕を尾けたのかい?」
蓮は、足裏マッサージをするようにニッチャニッチャ葵の足の裏を揉み解しながら問う。
「あひゃひゃひゃひゃっ、つけたっ!!! いぃぃえへへへへへっ、つけたぁぁぁっへっへっへ~~!!」
葵の足の指が、くねくねとよじれる。

「ふーん。どうしてかな?」
「あひぇひぇひぇひぇひぇっ!!! 変っ!! ひゃひゃひゃっあぁぁぁぁ」
「変?」
「変だったぁぁぁっはっはっはっは、ぃえぃひぇひひぇひぇひぇひぇひぇっ!」
「それは、僕の様子とか態度が怪しかったということかな?」
蓮は自身の指を、ぬるぬると、葵の足の指の間に出し入れしてあげた。
「あひゃぁぁぁぁぁっ、にゃひゃぁぁひゃひゃひゃひぃぃぃひっひぃぃへへへへへへへ」
葵の目から、とめどなく涙があふれ出る。
見開かれた目の焦点はもはや合っていない。
傍目には、快楽のあまり昇天しているように見えた。

しっかりと椿油を葵の足裏に塗り終えた蓮は、つげ櫛を構えた。
「ひひひひ、ひひひひ……くくくくく、……いぃぃいひひひひひ」
葵は再び自動モードに入っている。
「どうしたの? 何が変だったのか、早く答えないとコレやめちゃうよ?」
「あっぁぁぁひひひひひっ、くくっ……、しゅい、水曜日の、会話、…いぃぃひひひひひひ」
「水曜日?」
「いひひひひ、伊藤ひゃんと、佐藤く、くくくくひひひひひひ、……品、しなぁぁあひひひひ」
「しな?」
「しぇなっ、くひひひひひっ、……品定めって言ってたぁぁ、いぃぃぃひひひひひひひ」

品定め?
ああ、あの時か! 美咲の言った通り、文学少女の記憶力を甘く見てはならないようだ。
「わかった。合点がいったよ」

蓮はつげ櫛を葵の足の裏にくっ付けた。
「よく言えたね。ご褒美だよ」
ガシガシと勢いをつけ、つげ櫛を葵の足の裏に走らせる。
「ひぁぁぁあっはっはっははっはっ!!!!! へぇあぁへっへっへっへっへっへ!!! にぎゃぁぁっはっはっはっはっは~~!!」
つるつると滑る足の裏を、粗い櫛が這い回る。

葵の足の指はくすぐったそうに、くちゅくちゅ音を立てながら蠢いた。
「えひゃぁひゃぁひゃぁひぇひぇぇひぇぇひぇぇっ!!!! ひぃぃぃぃっひっひっひ、あかかかかかかかっ!」
葵は眼球が裏返りそうなほど目を見開き、喉から汚い音を鳴らしながら笑い暴れる。

「名推理だよ、葵」
「あぁぁぁきゃきゃきゃきゃっ!!! にゅひぃぃぃいぃ、最近っ!! いぃぃぃぃひひひひぇひぇひぇ、流行ってるってぇぇぇひぇひぇひぇひぇ!!!」
「何が?」
「ひぃぃぃひゃひゃひゃひゃ、連れ去りぃぃぃぃっへっへっへっへっへっへひぇっひぇっひぇっひぇっひぇ~~~」
「なるほど」
蓮は、葵の適切な情報取捨選択能力と行動力を褒めたたえ、両足の裏の血行が良くなるまで、しっかりと葵の足裏をくすぐってやった。

◆◆◆

葵をくすぐり始めてから四時間、すっかり葵で遊びつくした一同は反省会をしていた。
机の上では、葵が余韻で体をびくびくと痙攣させながら、だらんと舌を出し、焦点の定まらない目を泳がせ、時折「ひぇぁク、ひキぇぁ……」と痰の絡まったような音を喉から発し、ヘラヘラしている。

「皆のおかげで、最大の危機を乗り切ることができた。皆ありがとう!」
蓮が爽やかに決めると、六人は嬉しそうにどよめく。
「佐藤くんさぁ、アタシたちにはそんな表向きに言葉なんか通用しないよ」
「そうだよぉ、『機嫌ぐらいとっとくか』って魂胆見え見えだよぉ」
莉子と結衣が笑う。
「そんなことないよ! 心からの感謝だよ。伊藤さん、高橋さん。ハハッ」
「本当に感謝してるってんなら、行動で示せよ~」
凛が言う。
「いいよ? どうして欲しいんだい?」
「あんさぁ。愛莉だけ足型ちゃんと取ってもらって、ズルイと思うんだよねぇ」
「ええっ? ずるくないよっ」
愛莉が否定するも、
「あ、それアタシも思った」
莉子が同調する。
「……まぁ、そうなりますよね」
美咲がちょっと複雑そうに顔を赤らめながら、蓮を見る。
陽菜は軽く微笑みながら蓮と美咲の顔を見比べた。
「よし、じゃあこうしよう。明日からのテストで、合計点が良かった人から順番にってのでどうだい?」
「えぇっ!! それ、結衣ちゃんとアタシ、めちゃくちゃ不利じゃん!」

最終話らしい茶番が一段落し、蓮は自分の指を見つめる。
この指を授かったこと、この指を最大限活用できる性癖を持って生まれたこと、すべてがありがたい。
すでに蓮は、次のターゲットの顔を思い浮かべていた。
明日からテストだ。テスト日というシチュエーションを利用するか、しまいか、また今夜じっくりと考えよう。
これからもよろしく頼むぞ、相棒。


第七話「陥擽」完?

◇◇◇

「委員長。最後そんな締め方でいいんですか?」
「なんのことだい、美咲?」
「そうやって、またすぐとぼけて……。あ、陽菜さんもこちらへ」
「どうしたんだい? ハハッ」
「そのキャラ、今は要らないです。まず一つ目。今の茶番、なんですか?」
「茶番?」
「良い話っぽくまとめようとしてましたよね? 調教モノのラストにあんな爽やか演出は、ハッピーエンド詐欺が過ぎますよ。和気藹々としてますが、一応傍らには、ぶっ壊れた葵さんが倒れてる状況ですよ? しかも、最後。鬼畜な内容をいくら綺麗っぽくまとめても、鬼畜は鬼畜です! 陽菜さんも何か言ってあげてください」
「おいやめろ」
「陽菜さん!!?」
「最終話補正ということで、大目に見て欲しいな! ハハッ」
「もう何も言いません……」

「さっき一つ目って言ったけど、二つ目もあるのかな?」
「あ、そうです。こっちが本題です。
陽菜さんとも話したんですが、葵さんの件で、少し気になることがあるんです」

美咲と陽菜は神妙な面持ちになる。
「葵さん、委員長を尾けるとき、一人だったんでしょうか?」
「え?」
鳩が豆鉄砲の蓮に、陽菜が補足する。
「ずっと引っかかってたの。加藤さんの性格、怪しい人がいたからってそれを尾行したりするかなって。だから、美咲ちゃんの意見もなかなか信じられなくて……」
「葵は認めたよ?」
「ええ。葵さんが委員長を尾行したのは事実です。見た者にしかわからない事実を知ってましたし。でも、それが葵さんの意志で行われたかどうかは少々疑問があります」
「黒幕がいるってことか?」
「黒幕という言い方が正しいかは、わかりませんが……。もしも、もう一人、水曜日の話、委員長と莉子さんの会話を盗み聞きした人物がいるとすれば、辻褄が合います。その人が、偶然近くで同じ話を聞いた葵さんをそそのかし、『一緒に尾行しよう』と誘った。断る術を知らない葵さんはホイホイ付いていきます。それなら、小林さんの約束すっぽかしも説明がつきますし、金曜日には葵さん、図書館へ向かった委員長をまったく尾けてこなかったのにも納得できます。葵さんを誘った人物は、金曜の放課後に外せない用事があったからで……」
「……まさか」
「可能性は充分あります」
「佐藤くんが、加藤さんに『名推理だね』って褒めたとき、加藤さん『連れ去りが流行ってる』って答えたじゃない?」
「ああ」
「あの時加藤さん『流行ってるって』って言ったの。後ろの『って』がすごく気になって……。笑い声の中だったから聞き間違いかもしれないんだけど……。もしかしたら『流行ってるって』『誰かに教えてもらった』のかもしれないなって」
「…………」

本当にすばらしい奴隷達だ!
全知力をたった一人の男のため、……十本の指のために、振り絞ってくれる奴隷達。
たった一人の男の力加減で、十本の指の間で踊り狂ってくれる奴隷達。
“この指がある限り、僕は神となり、彼女らを完全に支配できる。それを取り巻く世界も……っ!!”

「葵。いいかい?」
机の上で大の字のまま呆けている新規調教奴隷に蓮は問う。
「いひぇ……ひぇ?」
「ちゃんと質問に答えてくれたら、もうあと十分好きなところくすぐってあげるよ!」
「いぇひひひひっいぇひひひっ!!!」
葵はビクンビクンのた打ち回りながら喜ぶ。

「僕を尾けたとき、葵は一人きりだったのか?」


調教くすぐり師の指 完