北村悠月(きたむら ゆづき)はため息をついた。
「この辺、ホント、治安悪いな……」
 学校の帰り道、裏路地でセーラー服を着たおさげの女の子が学ランを着た男四人に囲まれているのを見かけたのだ。
 女の子は中学生ぐらい、男どもは高校生に見えた。
 女の子は明らかに困った様子。
 男の言動から察するに、金銭を要求されているようだ。
 見なかったことにしようか……。
 そんな矢先、女の子と目が合った。潤んだ瞳で、必死に助けを求めているように見えた。
 悠月はうんざりしながら通学鞄をその場におき、男どもに声を掛ける。
「ちょっと、やめたら? その子、嫌がってる」
「あぁん?」
 男の一人が振り向き、顎を45度程度傾けながらガン飛ばしてきた。たいへんわかりやすく悪ぶっている。
「なんだぁ、このあまぁ!」
「でしゃばんじゃねぇ!」
「やってやろうかぁ!?」
 他の男どもも便乗してきた。
(めんどくさ……)
 悠月は再度ため息をついて、
「一応正当防衛にしたいから、そっちから殴ってきてくれない?」
「なんだとこら、なめんじゃねぇ!」
 男の一人が握り拳を振りかぶった。
「……単細胞で助かるわ」
 悠月はスカートを翻し、男に回し蹴りを食らわせた。

 一分もしないうちに、悠月は男四人をすべてノックアウトした。
「あ、あの……、ありがとうございます。その制服、K高校ですよね? お名前教えてもらえませんか?」
 おさげの女の子はお礼をしたいという。
 悠月は男の背中から足をどかしながら、
「いいよ。別に感謝されたくてやったわけじゃないから」
 ブレザーのスカートについた土埃を払い、踵を返す。
「あ、待って――」
 おさげはまだ喋りたそうだったが、
「今度から友達と一緒に帰りな」
 悠月は胸の前まで落ちてきてしまったロングヘアを両手でファサッと払い上げ、その場を後にした。

 本当は面倒なことが嫌いだった。
 人付き合いも煩わしいと感じている。
 できれば静かに暮らしたい。
 しかし、悠月は困っている人間を放っておけない性分だった。
 中学までは落ち着いていた。周囲に困っている人間がいなかったからだ。
 それが、高校入学時に治安最悪の町に引っ越しをして、彼女の二面性が大っぴらになった。
 この町には、あまりにも不良が多すぎる。困っている人間が多すぎる。
 彼女は困っている人間を見つけるたびに、得意の格闘技で不良どもを懲らしめた。
 週に2~3回。多ければ毎日。
 そんな日常を半年も送っていれば、武勇伝の1つや2つはできる。
 一部で名が知れ、ファンができた。
 彼女は周囲に受け入れられ徐々に心を開いていった。
 一方で、彼女に懲らしめられた不良達の鬱憤はどんどん大きくなっていった。


 ――悠月は目を覚ました。
「あ、れ……?」
 視界に映ったのは見たことない白い部屋だった。ずいぶんと狭い。
 自分はいったいどうしたのか?
 そうだ。学校の帰りに太った男数人に声を掛けられて――
「なに……? これ?」
 ぼんやりとした意識が覚醒していく。
 悠月は逆Y字型の椅子に座らされ、太ももから足首までがっちり複数のベルトで拘束されていた。軽く開かされ前方に伸びた脚。足首から先の部分は壁の向こうにあって見えなかった。
 膝下から足首まで素肌が露出している。穿いていたはずの紺のハイソックスは脱がされたようだ。
「誘……拐……?」
 悠月は不安に襲われた。
 自由な両手で上半身に触れた。よかった。制服は脱がされていない。犯されたわけではないようだ。
 しかし、下半身の厳重な拘束はいったいなんだろう。
 悠月は太もものベルトを引きはがそうと引っ張るが、びくともしない。
「……いっ!?」
 足に力を込めて、違和感を覚えた。
 足の裏が引っ張られたような感覚。足の指がまったく動かない。
 どうやら壁の向こうで、足の指が10本とも紐か何かで縛られているようだ。
 足だけが壁の向こうにある不気味な状況。
 向こうに誰かいるのか、何をされるのかもわからない。
 ひんやりと足の裏に当たる風が、恐怖を増長させた。
「ちょっとー? 誰かいないのー?」
 天井あたりを見回しながら叫んでみる。
 そのとき、
『あ、あ、あ、あ』
 がさがさと雑音の混じった声が聞こえた。悠月はびっくりしてきょろきょろとあたりを見回す。天井の隅にスピーカーを見つけた。
『北村悠月さん、北村悠月さん』
 まるで校内放送で呼び出されるような。
「だ、誰? どこにいるの?」
『よくもワダスたちをいじめてくれましたね? あなたはいままでに蹴った人間の数を覚えていますか?』
「え?」
『そうです。そのにっくき足。今日はこれからその足の裏を徹底的にくすぐらせていただきます。ワダスたちのささやかなお礼です』
 スピーカーの人物は、まったく会話をしようとしなかった。
 悠月は突然のことに混乱していた。
 わけがわからない。
「ちょ、えっ!? なに!? くすぐるって……どういう――」
 そのとき、悠月は壁の向こうに気配を感じた。
「ややや、やだっ! なに!? 誰!? ちょっとやめて! 変なことしないで――」
 壁の向こうで、足の裏に何かが近づいてくる気配を感じる。
 悠月は必死に足をひっこめようともがいた。
 しかし、足は壁の向こうでまったく動かせない。
 そして、
「……やっ、――ああああぁぁぁあああはははははははははははははっ!!!? やだっ!!! やだぁぁぁあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
 悠月は左足の裏に強烈なくすぐったさを感じ、笑いがこらえられなかった。
 じょりじょりと何かを、足の裏へ激しくこすりつけられている。
「やめてぇぇえええああああっはっはっはっはっははっははだめぇぇぇええ~~~!!!」
 悠月は上半身をくの字に曲げ、両手を激しく振り回して叫んだ。
「おねがいやめでぇぇぇえ~~っはっはっはっっはっはくすぐったぁぁあっはっはっはっはっは!!! くすぐったすぎるぅぅぅ~~ひゃっはっはっはっは!!」
 そんな中、
『北村悠月さん、北村悠月さん』
 再びスピーカーから声が聞こえる。
『足の裏をブラシでしごかれるのはいかがですか。いつも足技ばかり使うくせに、少々敏感すぎやしませんか?』
「やぁぁぁっはっはっはっはっはっははは!?!? こんなの誰だってむりだってぇぇえええはははっははははははははは!!!」
『身動きの取れない足の指がひくひく動いているのが絶景です』
「じっきょうやめてぁぁああはははっはっははっはははっはははっは~~!!」
 ブラシだとわかると、もうブラシにしか思えない。
 ブラシの尖端が足の裏をなで回すような動きを想像してしまい、余計にくすぐったく感じる。
『一日学校生活を終えて、ソックスの裏地の糸くずがついてますね。キレイキレイしましょ』
 直後、ブラシが足の指の間にねじこまれるのがわかった。
「だぎゃああぁぁあっはっはっはっはっはっは!!! 無理にぃっぃっひっひっひ、無理にやらないでぇぇぁあはははははははははははは!!!」
 悠月はくすぐったすぎて涙が出てきた。
 笑いっぱなしで息ができない。
『綺麗なハイアーチです。アーチに沿って磨いて差し上げましょうね』
「いいぃぃぃいやぁああっはっはっはっはっはっはっははっは!!!? だひゃひゃひゃ、じょりじょりいやぁぁあぁぁあっはっはっはっはっはっはっは!!!」
 片足の裏をブラシでこすられ大笑いする悠月。
 すると、右足の裏にも新たな刺激が生じる。
「いぎぃぃぃぃひ!?? あひっひっひっひっひっひい!!?? いだっ、いだぃあああひゃははははははははははははは!!!」
 小さな棒でちょこちょこ引っかかれるような刺激だった。
 それぞれの指の間をこそこそとひっかかれる感触は、適度に痛く、適度にかゆく、非常にくすぐったかった。
『耳かきで足の垢を取り除いてあげているんですよ』
 右足は耳かき、左足はブラシでくすぐられ、悠月は発狂しそうだった。
「あがぁぁぁっはっはっはっはっはっはホント無理ぃぃぃぃ!!! どっちかっ! せめてどっちかにしてぇぇええええひゃはははははははははははは!!!」
『なんですって? どちらとも土踏まずをいじって欲しいですって?』
 スピーカーの声に合わせるように、両足の裏の中心部に刺激が集中した。
「ああああぁあぁあぁぁはやはあはははははははは!!? ちがぁぁっ、ちがうぅぅぅひひひひゃははははははははははははは!!!」


 何分経ったかわからない。
「はひぃ……はひぃぃ……」
 刺激が収まってからも、悠月は上半身を横たえたまま起き上がれなかった。
 口から涎が垂れ流れようが、構う余裕がない。
『あ、あ、あ、あ、あ』
 スピーカーから音が聞こえた。
 悠月はびくっと肩を震わせる。
「もぅっ……やだはひぃ……」
『みなさ~ん、こちらが北村悠月さんの足ですよー』
『ほぅ、これが』
『うっひゃ、足の指がんじがらめぇ!』
『思ったより白いな』
『足のくびれエロい!』
『ぴくぴくしてる!』
 スピーカーから聞こえてきた声は複数だった。
「な、……なによぅ……」
 悠月は疲労困憊していた。
 起き上がる気力もない。
 そんな中、
『ホントに俺らくすぐっていいの?』
『こんな人数でやられたら悠月たんどうなっちゃうのかなー?』
『狂っちゃう?』
『散々僕らを蹴り飛ばしてくれたんだ。仕方ない仕方ない』
 漏れ聞こえてくる声に、悠月は顔面蒼白になった。
「やっ、……やだぁ! もうくすぐらないでぇ! なんでもするぅ! なんでもするからぁぁ!!」
 悠月は起き上がり、天井に向かって叫ぶが、スピーカーからはただ壁の向こうの声が聞こえてくるだけ。
 そのうち、足の裏に近づく気配が感じられ、
「いやぁあぁぁ!! お願いぃぃっ!!! やめて! ホントにだめぇえぇぇぇ~~!」
 悠月の叫びが届いたのか届かなかったのか……
 数十本の指が一斉に足の裏に突き立てられた。
「――か、あがぁぁぁあぁああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!? うぎゃはあはははははははははははははだぁぁぁぁ~~!!!!」
 強烈なくすぐったさに、悠月は上半身をびくんと仰け反らせて悲鳴を上げた。
「うぎひひひひっひひひひひひひひあぎゃぁあぁああああああああっはっはっはっはっはっはっははぁぁ!!!」
『うっひゃー、足の裏びくんびくんしてる!』
『けっ、ざまーみろ』
『俺の顔を踏みつけたあんよにはお仕置きだべ~』
『土踏まずもぴくぴく動いてるおもしろー、ほじくっちゃえ』
 スピーカーから楽しそうな声が聞こえる。
 足の裏から何十本もの指の刺激が一斉に送られてくる。
「あぎゃぁぁあああひゃひゃはあははあははははあははは!!! じぬぅぅぅ~~~しんじゃううううはああああああぁっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
 なにがなんだかわからない。
 頭の中がくすぐったさでパンクしそうだ。
 悠月は自分が何故こんな目にあっているのか、ここがどこなのかもわからないまま、ただひたすら笑い続けた。


(完)



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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 下記のリクエスト作品です。

> 【ジャンル】オリジナル
> 【くすぐられキャラ】クールで生意気、でも優しい黒髪ロング
> 【あらすじ】
> クールで生意気だが困ってる人は放って置けない女子高生。不良にたかられた他の少女を足蹴りで救う、と言った事を度々していた。ある日、クール女子高生に恨みを持った肥満体質の男性複数人に襲われる。気絶して、目覚めたら開脚され足裏だけが壁の向こうにあり、足自体も反らされ足指は全て縛り上げて反らされていた。
> スピーカーから今までのお礼で足の裏を徹底的にくすぐると発言。片足を複数人にブラシや耳かきやらによりくすぐられ疲労していたところに遂に指によるくすぐり処刑が行われる。
> 【他に責めて欲しい部位】なし。