(文化祭当日13時14分)

「林さくら(はやしさくら)。15歳。1年A組在籍。所属部活動、無し。4月時点での身長は153.9cm。体重が4――」
「や、やめ、やめて」

 林さくらはオドオドとどもりながら制止を求めた。
 T高校第一共用棟ジャーナル部の取調室にて、さくらは制服の上着を脱がされたワイシャツ姿で椅子に縛り付けられていた。両手首を左右の肘掛に、両足首を椅子の左右の前脚に、腰から太腿にかけてを座の部分に、しっかりとロープで拘束されている。ローファーは脱がされているため、白い靴下を履いた両足が宙ぶらりんになっている。
 部屋の中央に椅子、椅子と向かい合う壁側に長机が置かれており、2人の女子生徒が面接官のようにさくらと対峙していた。

「よ、吉田さん。勝手に、個人情報を生徒会と全然関係ない人に漏らすのは、規則違反だよ……」
 さくらは、左右非対称でボサボサの前髪の間からわずかに覗く左目で、長机の1人をおそるおそる睨んだ。

「林さん。これは情報開示じゃないから、規則違反にはならないの。私は自分の記憶にある林さんの情報を、『データベースに関係なく』ただ喋っているだけ」
 綺麗なアニメ声で淡々と返すのは、ジャーナル部データ管理責任者の吉田心愛(よしだここな)。ウェーブがかったワカメボブの頭頂部からアホ毛がぴょこんと飛び出している。
「残念だけど、ヨッシーに屁理屈で勝つのは無理だよ。生徒会則に一応目を通してるのは好感が持てるけどね」
 心愛の隣に座るジャーナル部員の清水希(しみずのぞみ)は、鼻でさくらをフォローした。
「希? いつも言っているけど、私のは屁理屈じゃなくて、ただ規則に準じた発言を――」
 心愛が少しムッとしたように言いかけると、
「お2人とも。尋問対象の言葉にいちいち耳を傾けないでください。時間の無駄です」
 長机と反対側の壁にもたれかかって腕を組んで立っていた山本美咲(やまもとみさき)が、じろりと流し目で心愛と希を交互に睨みつけた。文化祭当日で魔女を模した真っ黒なローブを身につけているせいで、普段以上に厳格な雰囲気を醸し出している。

 希はごくりと唾を飲んだ。
「す、すみませんっ」
「吉田さん。早く続けてください」
 希の謝罪に被せるように、美咲はやや苛立った声を上げた。
「失礼しました、山本先輩。続けます」
 心愛は特に動じた様子も無く淡々と述べ、さくらの頭越しに美咲へ軽く目線を送ると、『尋問対象』の説明を再開した。

「――対人関係において、目だったトラブルはありません。クラス担任は『妥協癖があるが、やり通す力は充分にある。友人を大切にできる生徒』と評価しているようです」
 心愛は空でスラスラと説明を終えた後で、
「今申し上げた情報は私の『曖昧な』記憶と印象によるもので、あくまで個人の見解にとどまるものです。ジャーナル部のデータベースとの関連は一切ありません」

 心愛がふうと息をつくと、目を瞑って聞いていた美咲はゆっくりと顔を上げた。
「……吉田さんありがとうございました。ある程度の人間性は把握しました。では」
 美咲は歩を進め、椅子に縛られたさくらと正対した。
「尋問を始めます」

◆◆◆

「林さくらさん。私は2年K組の山本美咲といいます。これからいくつか質問しますので、私の顔をしっかりと見て、簡潔に答えてください」
「……は、はい」
 さくらは怯えたように声を絞った。

「第一問。あなたは何をもって、第四共用棟二階のお化け屋敷が『不正かもしれない』と思ったのですか?」
 さくらはうつむく。
「答えてください」
 美咲はぐいっとさくらの顔を覗き込んだ。
「私は、あなたが本日11時32分に、お化け屋敷を訪れたことを、あちらで清水さんが持っている入場者名簿を見て知っています。その後、ランチ時間を利用してジャーナル部の記者である清水希さんに『不正かもしれない』と告発したことも知っています。時間稼ぎは無意味です」
 美咲が語気を強めると、さくらは目を泳がせながらゆっくりと口を開いた。
「ほ、他の階の、教室を回ったときと比べて……その、なんていうか、感覚が、狭いなって」
「って?」
 さくらはビクビクと身体を震わせ、目をしばたたきながら言葉を繋ぐ。
「……感じました。そ、それで、変だなって思っていたら、……入場するとき書いた名簿欄の4つ前の人に、追いついちゃって。一部屋だけ、防音が他の部屋よりしっかりしてるのに、装飾だけの部屋があって……。もしかしたらと、思い、ました」

 美咲はさくらの目を見て頷いた。
「林さん。なかなかの洞察力ですね。……そんなに怯えないでください。正直に答えていただければ、私は何もしません。怯えながら言うと、本当のことも嘘に聞こえますよ? この尋問に裁判のような公平性は一切ありません。私があなたの証言を嘘と判断した時点で、拷問に移らせていただきますので、あらかじめご理解ください」
 美咲は一瞬表情を和らげてさくらに微笑むと、すぐに表情を引き締めた。

「第二問。あなたの命運を左右する重要な質問ですので、慎重に答えてください。あなたは、清水さん以外の誰かに、このことを喋りましたか?」
 美咲はじっとさくらの目を見た。
「……っ」
 さくらは一瞬目を細め、質問の意味がわからないというような表情を作った。
 美咲は落胆したようにため息をついた。
「はい、いいえ、どちらですか?」

「……い、いいぇ――」
「肯定と見なします。第三問。あなたが情報を漏らした相手の人数は、何人ですか?」
 美咲は、急かすようにさくらの顔をにらみつけた。
「……え、い、言ってませ――」
「1人?」
「……っ」 
 さくらはぐっと息を詰まらせ、一瞬の間を作ってしまった。
「2人以上ですね、わかりました」
「……っ!? ち、ちがっ――」
「第四問。林さんが苦痛を免れる最後のチャンスです。あなたが情報を漏らした相手をすべて、フルネームで言ってください。学年組も一緒にお願いします。3秒間待ちます」
 美咲は言い終えると、さくらの後ろに回り、さくらの両肩に手を置いた。

 さくらはビクッと肩を震わせた。
「……ま、待って、待ってください。私、しみ、清水さん以外には誰にも――」
「3秒経ちました。拷問に移ります」

●●●

 美咲は、椅子に縛られたさくらの後ろで、中腰になった。
「これから林さんに1分間の苦痛を与えます。1分後、同じ質問をしますので、きちんと返事を考えておいてください」

「ちょ、ちょっと待っ――」
 美咲は、まだ何かを言おうとするさくらを無視して、両手の指を左右から、さくらのがら空きの脇腹へグッと突き刺し、ぐにぐにと激しく揉み始めた。

「――んナッ!!? んぁはははははははははっ!? なぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

 さくらはビクンと大きく身体をくねらせると、目をぎゅっと閉じて激しく笑い始めた。

 美咲は親指でさくらの背側の肋骨を刺激しつつ、残り8本の指でお腹回り、横っ腹をむしる様にくすぐる。
「んゃぁぁぁっはっはっはっはっはっ!!! なぁ~~っはっは、やめっ……ひふっ!! ぁっはっはっはっはっはっはっは~~」

 さくらの両手の指がわきわきともがく。
 目に涙を浮かべて笑うさくらの姿を見て、希は「へぇ……」と感嘆の声を漏らした。

「なぁぁっはっはっは、やめてっ!! やめてくださいぃ~~っひっひっひ」
 笑い続けるさくらの後ろで、美咲は黙々と指を動かし続けた。
 さくらは笑いながら制止を求めるが、美咲はまったく聞こえないかのように無言であった。

 さくらの肋骨を規則正しくしごき続けた美咲は、ちょうど1分経ってピタリと手を止めた。
「ぶは……っ、ヒィ、……ハァ」
 さくらはジュルリと鼻水を鳴らして、泣き腫らした目を瞬いた。たった1分でもかなり体力を削られたらしく、肩で息をしていた。

 美咲はさくらの後ろから再び問うた。
「林さん。あなたが情報を漏らした相手をすべて、フルネームで言ってください」 
「……ヒィ、……ちょ、ちょっと、や、休ませて――」
「3秒経ちました。拷問を再開します」

 美咲は言うと、いきなりさくらの腋の下へ両手の親指を押し込み、指先でグリグリとえぐるようくすぐり始めた。

「んはっ!!!? んぁ~~ははっはははっはははははっ!!! ちょっと、ぁぁっはっはっはっはっはっは、待ってェェぇぇえははははははははっ!!!」

「続いて2分間、林さんに苦痛を与えます。2分後に同じ質問をしますので、きちんと返事を用意しておいてください」
 美咲は、親指をさくらの腋の下の骨に押し当てたまま、他8本の指をバラバラに動かし、さくらの乳房の脇をくすぐる。

「んぃひぃぃ~~っひっひっひっひ、はがあっぁっ!!! さ、ひひひひひひひ、さっきよりきついぃぃ~~っはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

「林さん。その通りです。k巡目の体感くすぐったさは ak という値で単純化されます。aは拷問用に私自身の擽力から算出した定数。k巡目にk分間くすぐり続けますので、各巡目における林さんの苦痛は ak^2 で表せます。すなわち、n巡目までに蓄積する林さんの苦痛は ak^2 の総和 an(n+1)(2n+1)/6 になります」
 美咲はつらつらと言いながら、8本の指でさくらの肋骨を横から選り分けるようにくすぐる。
 長机では、希が「さすがっ」と目を輝かせるのと対照的に、心愛は「また語りだしたよ……」とでも言いたげに呆れた表情を作った。

「んやぁぁっはっはっはっはっははっ!! いぃぃ息がぁぁっはっはっはっは、息が、できないぃぃぃ~~~っひっひっひっひっひっ!!!」
 
 さくらは首を左右にぶんぶんと激しく振って笑う。両足両足の指はぴんと反り返り、身体中が攣ったように痙攣している。

「身体が限界のようでしたら、次の休憩時にきちんと私の質問に答えることをお薦めします。苦痛は、巡目値の2乗に比例して大きくなります。わかりますね? 林さんが黙れば黙るほど、林さんの身体はつらくなります。林さんが白状するまで、永遠と続きますので、決断の機会を逃さないよう気をつけてください。残り1分で再質問します」

 美咲は、両手を上下に動かし、さくらの体側を指で舐るようにくすぐっていく。さくらは美咲の指の動きに合わせ、左右に身を捩って笑う。
 数十秒で、さくらは根を上げた。
「んぁなぁっはっはっはっはっはっ!!! なぁぁぁ~~ふぁぁあっぁっ!!! わかっ……ひっひっひっひ、わかりましたっ!! 言いますっ!! っはっはっはっは、言いますからっ! 一旦やめてっ、んぁぁっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

「ダメです。残り30秒あります」
 美咲はまったく指の動きを緩めない。
「そひひひひひっ、そんなっ!!? んぁぁっはっはっはっはっは~~っ!! ぃひひひひ、かぁはっはっは、もぅ、息がぁぁっはっはっはっ……」

「繰り返します。決断の機会は逃さないように気をつけてください」

◆◆◆

 ぴったり2分経って、美咲は手を止めた。
「さて、林さん。あなたが情報を漏らした相手を全員、フルネームで教えてください」
 美咲は再度、後ろからさくらの顔を覗きこむようにして言った。
 さくらは、大きく息を吐いた。
「3、2、――」
「い、い、言いますっ! 言います。……ごめん。マオ、ナナミ。し、清水さん以外には、え、A組の、石井真央(いしいまお)と西村菜々美(にしむらななみ)……です」
 さくらはボロボロと涙を流しながらうつむいた。友人を売ってしまった自分が許せないのだろう。

「以上2名で、すべてですか?」
 美咲は、さくらの正面に移動し、表情を確認する。
「すべてです」
 さくらはうつむいたまま言いながら涙を流した。

「吉田さん。その2人と林さんはどういう関係ですか?」
 美咲はさくらの顔を見つめたまま、心愛に聞いた。
「はい。親友同士と判断して問題ないと思われます。普段から仲が良く、3人で行動することが多いようです」
「ありがとうございます。とりあえず……A組ということは、さっそく後藤姉が使えますね。清水さん。彼女と協力して、2人を至急捕獲してください。手段は問いません」
「わ、わかりましたっ」
 希は勢いよく席を立つと、足早に退出した。

「さて、林さん。第五問です」
「…………え?」
 さくらは、びっくりしたように顔を上げた。予想外すぎて涙も止まってしまったようだ。

「あなたは何故、お化け屋敷に彼女ら2人と一緒に訪れなかったんですか?」

 さくらはポカンとした。

「入場者名簿によると、林さんの名前の前後入場者は、林さんと無関係の人間です。つまり、あなたは1人でお化け屋敷を訪れたことになっています。何故ですか?」
「……そ、それは」
 さくらの目がフラフラと泳いだ。
「……林さん。あなた、まだ誰か庇っていますね?」
 美咲がずいっと顔をさくらの目の前に近づけると、さくらは目を逸らしてしまった。
「肯定とみなします。第六問。それは誰ですか?」
「……っ」
 さくらはぐっと息を詰まらせた。

「さきほどの責めを受けてもなお黙るということは、よほど大切なお友達ですか。石井さんと西村さんの名前を出せば、誤魔化し切れると踏んでいたんでしょうが、甘かったようですね。いいですか? あなたが黙っていると、あなたに関わりのある生徒すべてに迷惑がかかることになりますよ? あなたと同中の生徒から、あなたが体育大会の種目で一緒に走った生徒まで、こちらではすべて把握しています」
「……ジ、ジャーナル部の、デ、データ、ベースで、ですか?」
 さくらは、ゆっくりと口を開き、おそるおそる聞いた。
 美咲は、眉をひそめ、さくらの顔を凝視する。一瞬さくらの口元がピクリと緩むのを、美咲は見逃さなかった。

「なるほど、他校の生徒さんでしたか」
「……っ!!!!!?」
 美咲の言葉に、さくらは目を見開いた。すぐに「しまった」という顔になるが、時すでに遅し。美咲はさくらの表情を見て、してやったりという顔を作った。

「あなたは今、『こちらではすべて把握しています』に対して『データベースでですか?』という確認を行い、しかも一瞬安堵の表情を見せました。『こちらで把握しているすべて』が『データベースの範囲に限られること』を確認したがっているということは、あなたの庇っている人物が『データベースの範疇外』にある可能性を示しています。他校の生徒さんは入場者名簿に名前を書きませんから、私のあなたに対する疑問はすべて解消されるわけです。あなたは午前中その方と文化祭を回り、午後から石井さん西村さんと合流したのですね」

 さくらは美咲の言葉を聞きながら、わなわなと唇を震わせた。
 美咲はさくらに近づき、ワイシャツのボタンに手をかけた。

「もしかしたら、最初にお化け屋敷の違和感に気付いたのも、その他校の生徒さんだったんじゃないんですか? 最初の質問時のあなたの挙動は、怯え以上に、真相を口走りそうになった焦りによるものだったのですね」
 言いながら美咲は、さくらのワイシャツのボタンを全て外し、バッと観音開きにした。さくらの桃色のブラジャーが露になる。太っているわけではないが、腹から腰にかけての肉付きはやや寸胴である。
「……っ!」
 さくらは顔を真っ赤にし、耐え忍ぶような表情をした。

「林さんのこれまでの態度から察するに、その生徒さんはすでにこの学校内にはいないのでしょう。すなわち、林さんご自身の口から名前と学校名を聞き出すしか本人を探す方法が無くなったわけです」
 美咲は息継ぎ無しに述べながら、腕まくりをした。

「では林さん。その方の名前と学校名、ついでに住所を、教えていただけますか? ……あ、覚悟を決めて、もう口を開く気すら起こりませんか。そうですか。では、身体の限界が来るまで頑張ってください」

 美咲は一方的に言うと、もはや一切目を合わせようとしないさくらの身体に、両手を伸ばした。

●●●

 椅子に両手両足を縛られ動けないさくらは、正面から迫り来る美咲の指の動きに「ひぃ」と軽く悲鳴をあげ、ぎゅっと目を閉じた。
 美咲は、右手の人差し指で、さくらのおへそをちょんとつついた。

「んひゃぁぁ……っ!!!」

 びくんと身体を震わせるさくら。
 美咲は指先をちょろちょろと動かし、さくらのへそを断続的に刺激した。

「ひゃっ……んひゃぁ!! んっ……! んひっ、ひぃ、ひひっ、ひひひひっ、くぅぅ~~、やめ、やめてくださいっ」

「林さんには選択権があります。庇っている人物の名前を吐くか、笑い死にするか。お好きな方をお選びください」
 美咲は、くるくると人差し指の先で、さくらのへそ周りをいじる。
「ひぃぃ、ひひひ~~、んぃぃっひっひっひっ!! んぅぅうぅひひひひひひひひっ」
 さくらのお腹がひくひくと動く。

「3分後に再度お尋ねしますので、きちんと、返事する準備をしておいてください」
 美咲は言うとさくらの前にひざまずくような姿勢で、両手の指をさくらの素肌のお腹へ当て、こそこそとくすぐり始める。

「んぁぁぁっははっはっははっははっ!! んひゃぁぁぁぁぁ~~~ははっははっははははっ!!! やぁぁ~~っはっはは、だ、ダメぇぇっはっはっはっはっ」

 さくらの横腹からおへそまでの区間を美咲の10本の指が、うねうねと這う。

「ぁぁぁ~~っはっはっはは、んひぃぃひっひっひひっ!! なぁぁ~~っはっはっは、はははははははははっ!!」

 さくらは大笑いしながらガタガタと椅子を揺らして暴れ、手首足首のロープがギシギシと音を鳴らした。
 美咲の指が、さくらの横っ腹の背側部分、肋骨のちょうど下あたりに食い込むと、さくらは一段と大きな反応を示した。

「んひゃぁぁぁっっひゃっひゃっひゃひゃっ!!! あぁぁ~~ひひひひひひひ、そこはダメぇぇ~~っ!!」
 さくらの身体が左右に反る。
「ココが弱いんですか」
 美咲はさらに指先の力加減を調整し、クリクリとほじくるように、さくらの素肌を刺激した。
「んにぇぇぇぇっぇひひひひひひひひひひっ!!? んぁぁぁあぁぁぁひゃひゃひゃひゃっ!!」

 もともとボサボサの髪の毛をさらにボサボサに崩して、涙を撒き散らして笑うさくら。
 美咲はさくらのぐしゃぐしゃに歪んだ顔を下から覗き上げながら、
「なるほど。林さんは、この部分に対して『弱点』という意識があるようですね。……把握しました。他の部位も、このぐらい反応できるよう開発しますので、頑張ってください」
 美咲は冷淡に言うと、両手の指をすぐ上、さくらの乳房の真横に押し当て蠢かせた。
「んひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ダメぇぇっ、ぬぁぁぁひっひっひっひっひっひっひっひっひ~~っ!」

「かなり感度が上がっています。全身が『弱点』と化さないうちに、ギブアップすることをお薦めします」

●●●

 さくらの上半身を散々くすぐりまわした美咲は、ちょうど3分経って指をとめた。
「名前と学校名、住所をおっしゃってください」

「……ヒィ、げほっ、……ぅぐ」
 さくらは咳き込んだ。
 口元からは涎が滴り、鼻水も垂れている。
 身体がすでに限界であることは傍から見ても明らかだったが、さくらは美咲の命令に応じようとはしなかった。
 さくらは美咲の顔を見、ぎゅっと目をつぶると、苦しそうに首を左右に振った。

「この状況でわざわざ抵抗の意志を見せるとは、なかなか度胸がありますね。林さんの覚悟に、敬意を表します。私も誠意を持って、拷問させていただきます」

 美咲は言うと、腰をかがめ、さくらの座った椅子の左右前脚を持った。左右後脚を軸に、椅子をさくらごと、ガクンと後ろに倒す。
「っ、ひゅぁっ!?」
 さくらはバランス感覚を失い驚いたのか甲高い声を上げた。
 椅子の背もたれが床につくと、重力に従いさくらのスカートがひらりと太腿までめくれた。
「……ぁっ、やっ!」
 さくらが咄嗟にもがいたため、余計にスカートがめくれ上がってしまう。

 椅子の前脚にそって突き出されたさくらの両足。美咲はそのつま先を持ち、靴下をぐいっと一気に引っ張った。ぽんと脱がし取ると、さくらのやや赤みを帯びた素足が露になった。
 すべての指の長さが完全に等しい、教科書に載るような見事なスクウェア型だった。靴下越しでも輪郭がややぼってりとした印象だったので、脱がす前から偏平足であることは予想できた。

「4分後に、もう一度同じ質問をします」
 言うと美咲は、さくらの両足の裏をガリガリとひっかくようにくすぐり始めた。

「ッ、うはっ、んひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ぬゃぁぁぁっはっはっはっはっはっはっはっは~~っ!!」

 さくらは膝を左右にがくがくと揺らして笑う。
 必死に足をひっこめようとしているのか、ギチギチとロープの軋む音が激しくなった。

 美咲の指の動きに合わせ、さくらの足はくねった。
「んゃぁぁぁ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!! やぁぁぁっひゃっひゃ、やめてぇぇ~~っ! ひぃぃぎぃいぃぃ~~」

 さくらは激しく身体を震わせ、涙と唾を辺りに撒き散らしながら笑い続けた。
 2分ほど経つと、さくらの笑い声はかすれてきた。

「んがぁぁ~~ひゃっひゃっひゃっひゃ、……言うっ、んひひひひひひひっ!!! いいまずぅぅぅぅうっひゃっひゃっひゃ、いいまずがらぁぁぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ、もぅやめてっぇぇぇ~~」

 とうとう耐えられなくなったのか、さくらは目をひん剥いて懇願した。
 
 美咲はガリガリとさくらの土踏まずを掻き鳴らしながら、
「まだ2分弱あります。決断の機会は逃さないように気をつけてください」

「そんなっ、っひゃっひゃっひゃ、がぁぁぁ~~っひゃっひゃっひゃっひゃぁ!!!」 
 美咲の無慈悲な宣告に、さくらは涙を流して笑い続けた。

●●●

 4巡目が終了し美咲が手を止めると、さくらはぐでっと脱力した。
「ヒィ……ひひひ、……ひひひ、かはっ……ひひぃ」

「さて、林さん。名前と学校名、住所を言ってください」
 美咲は、さくらの頭の前でかがんで、さくらの顔を覗きこんだ。

 さくらの目がゆっくりと美咲へ向く。
「……ひ、ひぃ……、ひひひ。っ。…………」
 さくらは口から笑い声を漏らしながらも、歯を食いしばっていた。
 
「3、2、1、…………」
 美咲は一瞬間を作って、さくらのアバラをくすぐり始めた。

「あぎゃぁぁっ!!!? んひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! んぎゃぁぁぁっはっはっははっははははっ!!! んあぁぁっ!! なんでぇぇぇ~~ひゃひゃひゃひゃひゃっ! 言うってぇぇぇぇっぇっ、言うっでいっだのにぃぃぃぃっひっひっひっひっひ~~っ」
 貪るような激しいくすぐりに、さくらは奇声のような笑い声を上げた。

「3秒経ちましたので、5巡目に入ります。私は3度も『決断の機会は逃さないように』と注意を促しました。『返事を用意するように』とも言いました。にもかかわらず、あなたは躊躇しましたね。再々の注意喚起の意図が読み取れませんでしたか? 質問には即答してください。姑息な時間稼ぎは無意味です」

 美咲はじっとりと汗で濡れたさくらの身体をくすぐりながら言った。

「んゃぁぁっひゃっひゃ、ぎゃぁぁぁ~~っひひひひひひひひひひっ!!! もぅダメェっ、ほんどにぃぃぃひひひひひひ! あの時間じゃぁぁぁっひゃっひゃっひゃ、言えないですぅぅっひっひっひひ~~っ!!」

 さくらは舌を出して笑いながら叫んだ。

「何甘いことを言っているのですか? きちんと準備をしていれば、言えるはずです。……いえ、本当は準備の必要なんてないのですよ? 今この瞬間にだって、言いたければ言えば良いじゃないですか」

「がひゃっ!!? んぐっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ!!! どうゆひぃぃぃ~~っひっひっひ!」
 さくらはビックリしたように美咲を見つめた。

「林さんは2度に渡って、拷問中『喋るからやめてくれ』という趣旨の宣言しましたね。そして2度とも、私の『まだ残り時間がある』という言葉を聞き、黙ってしまいました。わかりますか? もしも心が折れたのならば、その瞬間にすべてを喋って許しを乞うべきなのです。なぜそうしなかったか? あなたの心には依然として『あと少し耐えれば終わる』という余裕があるのですよ。まだあなたの心身は限界に達していないのです。あなたは完全に心が折れていないのに、妥協して、友達を売ろうとしたのです」

 美咲は糾弾するように言い、指の動きを激しくした。

「がひゃっひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! んぇぇぇひぇっひぇっひぇひぇひぇ!!!?」
 さくらの笑い声が裏返った。しばらくして目からはとめどなく涙が溢れ始めた。美咲の言葉がかなり効いたようだ。

「『言いたくない』と『くすぐられたくない』が葛藤しているうちは、まだ心に余裕がある証拠です。『言う』しか選択肢がなくなるまで、存分に笑わせます。今日ぐらい、限界まで頑張ってみましょうか、『妥協癖』のある林さん?」

「んがぁぁぁっはっはっははっはははは!! だぁぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃぁ~~っ!!!」

◆◆◆

(文化祭当日18時) 

「持ち上げたり貶めたり、言葉巧みに獲物の心をえぐる、陰湿な責めがまさにっ、美咲さんらしいですねー」

 ジャーナル部の応接室にて、PCで動画を見ながら感想を述べるのは佐々木杏奈(ささきあんな)であった。
 SM嬢のつもりなのかレ○ザーラ○ンHGのつもりなのか、よくわからない皮製のボンディジコスチュームに身を包んでおり、朝から美咲に「お化け屋敷と関係ない」と厳重注意を受けていた。

 室内には心愛と杏奈の2人きり。再生中の動画では、山本美咲を林さくらをくすぐり責めしていた。
 心愛は少々警戒しながら、脚を組んでふんぞり返って座る杏奈に、一切れのメモ用紙を渡した。
「佐々木先輩。こちらが、聞き出していただきたい内容です」

「ほぉ、ボスは達筆ですねー」
 メモを受け取るや、杏奈は言った。
「書いたのは山本先輩です」
「…………。あーあー、よくよく見れば、字のやけに力んだ感じ、美咲さんの無駄に攻撃的な性格がよく表れてますねー。…………。なるほど、実に興味深い内容ですねー」
 目を通した杏奈は、ぽいっと机上にメモを放った。

「で、自分の獲物は?」
「取調室です。すでにセッティングも完了しています」

 動画がちょうど、クライマックスに差し掛かった。
 PCから漏れる林さくらの笑い声は、はち切れんばかりの奇声である。
『んぎゃっぁぁぁっはっはっはっは、くくくくけぇひひぇひぇひぇ、K女ぉぉぉぉっひゃっひゃっひゃ!! K女のぉぉ~~っひっひ、小川未来(おがわみく)ぅぅぅぅひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ~~っ!!! じぬぅぅぅぅげぇひぇひぇひぇ!』

「23分11秒(尋問含)ですかー。常人にしては、よく耐えた方じゃないんですかねー?」
 PCを閉じながら、杏奈は薄ら笑いを浮かべた。
「山本先輩の6巡目を耐え切った人間は、未だにいないそうです」
 心愛が補足すると、杏奈はハッと鼻で笑った。

「まー、自分は自分のやり方で楽しませていただきますよー。他校の生徒で遊べるなんて、興奮が収まりません! ボスの信頼を裏切らないよう、自分も全力で任務あたらせていただきましょーぅ!」

 杏奈は勢いよく立ち上がると、K女学園の1年生で林さくらの幼馴染である、小川未来を拷問するために取調室へと向かった。