「ねえねえ志帆(しほ)聞いてよ! あたし、昨日、極秘アンケートとかいうの、受けちゃった!」
「極秘アンケート?」
 とある女子高。月曜日の教室。
 志帆のクラスメイトの綾乃(あやの)は、声を弾ませた。
「そう! なんか、『体の中でどこが一番くすぐったいですか?』とか、『最後にくすぐられたのはいつですか?』とか、変な質問ばっかりだったよ~~! 変なお姉さんがひとりでハァハァ言いながら聞いてくるんだけど、気持ち悪くて!」
 綾乃はキャハハと楽しそうに笑った。
「……それ、あんまり健全なアンケートじゃないんじゃないの?」
 志帆は不安に思って言った。
「たぶんね」
 綾乃はさらりと言い、
「アンケート受けたこと誰にも言わないって約束で、協力料、十万円ももらっちゃった」
「え!?」
 綾乃の発言に思わず志帆は聞き返した。
「それ、私に言って大丈夫なの?」
「いいっていいって! だって十万だよ? どこくすぐったいか答えただけで、怪しくない?」
「いやっ、……怪しすぎるから心配してるんだけど」
「まだその人いるかどうかわかんないけどねー。街角の本屋の横の路地、行ってみなよ。志帆もアンケート答えたら、十万もらえるかもよ~~?」
 綾乃は自分のペースでまくし立てると、嵐のように去っていった。
 志帆は唖然として綾乃の背中を眺めながらつぶやいた。
「……くすぐり、か」

 昼休み。
 志帆は中学からの友人である桜子(さくらこ)と、中庭で弁当を食べていた。
「あんまり関わらない方がいいと思うよ」
 志帆から綾乃の話を聞いた桜子は、神妙な面持ちで言った。
「うん。やっぱり怪しいよね……。でも、十万か……」
「志帆、その話、忘れた方がいいよ。何かの事件に巻き込まれたら大変だし……。その人、最近よく出没するっていう不審者かも」
 桜子は、冷静に志帆を諭すように言った。
「ありがと、桜子。うん。そうだね。なんか怖いもんね。忘れることにするよ」
 志帆が言うと、桜子は安心したようにホッとため息をついた。

 翌日。
 綾乃は学校を休んでいた。 
(綾乃が休むなんて、珍しい……)
 志帆がそんなことを考えていると、校内放送で自分の名前が呼ばれていることに気付いた。
「――志帆さん。至急、第二化学室まで来てください」
 志帆は急いで第二化学室へ向かった。
「私……、何かやったかな?」
 志帆には、まったく化学室に呼ばれる覚えが無かった。
 第二化学室に入った志帆は、すぐに異変に気付く。
「な、何……っ? この臭い……っ!?」
 志帆は、とっさに部屋を出ようとして唖然とする。
 たった今入ってきた扉が閉まっている。
 何者かによって閉じ込められてしまったようだ。
「ちょっ、なっ……何これ!? あ、開けてっ」
 どんどん臭いはきつくなっていく。志帆は、だんだん意識が遠のいていくのを感じた。
(……こっ、このガス! 吸っちゃ駄目だ)
 そう思ったときにはもう遅く、部屋中に充満したガスによって、志帆は気を失ってしまった。

 志帆は甲高い笑い声が聞こえ、ハッと目を覚ました。
 目覚めた場所は、窓一つ無い薄暗いだだっ広い部屋だった。
 志帆は、椅子か何かに腰掛けた状態で気を失っていたらしいことに気付く。頭が重い。
 異様なことに、志帆の目の前で、天井から伸びたロープに両手を縛られてYの字に吊るされた少女が、二人の成人女性に腋の下をくすぐられていた。
「きゃぁぁあっはっはっはっははっ!!? やめてぇぇ~~~いやっはっはっはっはっはっは!!!」
 少女の顔には見覚えがあった。
「あ、……綾菜(あやな)、ちゃん?」
 綾乃の妹の綾菜である。今年中学二年生になるはずで、何度か綾乃の家に遊びに行ったときに挨拶をしたことがあった。
 綾菜は中学の制服らしい半そでのポロシャツにプリーツスカート。くすぐったさにぴょんぴょんと跳ねる両足は、素足だった。足首を揃えて縛られている。
「お願いぃぃぃっひひいひひひひひひひひっ!!! もうやだぁあぁっはっはっはっはぁぁ~~!!」
 綾菜はかわいい顔をぐしゃぐしゃにして涙をぼろぼろと流す。
 以前会ったときは無愛想で、垢抜けた印象を受けた中学生が、いまや、恥じらいも無く口元から涎を垂らし、鼻水をずるずると噴出して、笑い狂っている。
「なっ、何やってるんですかっ!?」
 思わず声を荒げた志帆に、綾菜をくすぐっていた二人が同時に振り向く。
「あ、起きたみたいよ」
「ホントね。ちょうどよかったわ。この子そろそろ限界みたいだし」
「じゃあもう終わらせていい?」
「そうね」
 志帆の問いかけには応じず、綾菜を激しくくすぐり続ける二人。
「あやぁぁあはははははははははっ!!!! もうだめっ、ひぎっ!!! あぁあぁあぁぁぁぁっ!!!」
 しばらくして、綾菜はびくんと体を仰け反るように震わせると、失禁して、がくっと気を失ってしまった。

 女性二人は一息つくと、ニコニコしながら、志帆の傍へ近づいてきた。
「さて、あなたが志帆ちゃんね?」
 女性の一人が言った。
「……あ、あなたは?」
 志帆は問い返した。
「質問は、こっちがしているのよ? それとも、何? 志帆ちゃん。自分の状況が理解できてないのかしら?」 
「そ、そんなの理解できるわけっ……」
 言いかけて、志帆は自分の体を見やる。
 服装は今朝学校に登校したままの、高校指定の夏服。半そでシャツ、サマーベスト、短めのスカート。
 椅子に座っており、右足は上履きと紺のソックスを履いたまま椅子の脚に縛られている。が、左足は前方にまっすぐ膝を伸ばした状態で台の上に固定されており、上履きもソックスも脱がされている。足首のところに大きな正方形の木の板がはめ込まれ、つま先は見えない。
 両手は椅子の後ろで手首を縛られている。 
「な、何……コレ……」
 志帆は、思わず声に出した。
「やっと自分の状態把握した? 志帆ちゃん。高校生ならわかるよね? 身動き取れない状態で、相手に逆らうのはおばかさんだって」
「…………」
「志帆ちゃん、で、間違いないわね?」
「……はい」
 志帆は、素直に答えた。
「オーケー。じゃ、次の質問。志帆ちゃんは、どうしてこんな状況に立たされているのでしょう?」
 志帆にはまったく見当がつかなかった。
「わ、……わかりません」
 女性二人は顔を見合わせてふふっと笑った。
「昨日、綾乃ちゃんに何か言われたでしょ?」
「え?」
 女性の質問に志帆はきょとんとする。
「綾乃ちゃん、あなたに何か自慢しなかった?」
 志帆は記憶をめぐらせた。
「……えっと、……アンケートに答えて、十万もらった……って」
「「それーっ!」」
 二人の女性は声を揃えて楽しそうに言った。
「ごめんねぇ~~、そのアンケート、被験者以外、誰にも存在を知られちゃだめだったんだ~~。だ、か、ら、知っちゃった人にはお仕置きするようにって、上から命令されてるの」
「……なっ」
 志帆は、あまりの理不尽さに、頭が混乱し言葉が継げなかった。
「綾乃ちゃんお喋りだから、話しちゃった人探すの大変なんだからぁ。……というわけで、志帆ちゃんには、これからお仕置きを受けてもらいまーす。どんなお仕置きかは……さっき、綾菜ちゃんの様子を見てたから、わかるわよねぇ?」
 楽しそうに笑う二人に、志帆はぞっと背筋を震わせた。
 そうか。綾菜は自分と同様に綾乃の自慢話を一方的に聞かされたがために、あんな仕打ちを受ける羽目になったのだ。
 志帆は、がっくりと頭を垂れて気を失っている綾菜の姿、綾菜の足下の水溜りを見て、いたたまれない気持ちになった。
「……な、なんで、私が綾乃から話を聞いたって、わかったんですか?」
 志帆はおそるおそる聞いた。
「そんなの簡単よ。綾乃ちゃん本人に聞いたんだから!」
「えっ」
 志帆は驚愕した。
「で、綾乃ちゃんの独断と偏見によると、志帆ちゃんは足の裏のくすぐりに弱そうってことだから、こーんな拘束にしてみましたー」
 間違いない。自分は、綾乃に売られたのだ。
「……綾乃、ひどいよ」
 志帆は悲しみのあまり、目に涙が浮かんだ。
「あっと、忘れるところだった。志帆ちゃん、このこと、他の誰にも言ってないでしょうね?」
「……え?」
 志帆は唐突な質問に、解読に時間がかかってしまった。
「この極秘アンケートのこと、誰にも言ってない?」
 志帆は、しまったと思う。
(ど、どうしよう……、桜子に話しちゃった……)
 女性二人は「ふーん」と志帆の顔を見て、
「あ、言っちゃったんだ」
 見透かしたように言った。
「誰? たぶん同じ高校の子よね? クラスと名前は?」
「だ、誰にも言ってませんっ!」
 志帆は慌てて叫んだ。
 二人の女性は呆れたように顔を見合わせた。
「いやいや、もう無理だって。誰に言ったの?」
「い、……だから、誰にも……」
「もし今言ったら、志帆ちゃんは何もせずに解放してあげるわよ」
「え」
 志帆は思わず反応してしまう。
「どう? 言う気になった?」
 二人が志帆の顔を覗き込む。
「も、もし……私が誰かに言っていたとして、……その、誰か教えたら、その人は、どうなるんですか?」
 志帆は、大方の予想はしていたが、聞かざるを得なかった。
「もちろんお仕置きよ!」
 二人の女性は声高に言った。
(やっぱり……。桜子にまで、迷惑かけられないよね……)
 志帆は覚悟を決めた。
「で、誰?」
「誰にも、言ってませんっ」
 志帆は体に力をこめて言った。そのとき、左足の指がまったく動かないことに初めて気がついた。
 二人の女性は、微笑んだ。
「そう~~、じゃあ、しかたないわねぇ~~」

 志帆は、くすぐりを侮っていた。
 多少なら耐えられると高をくくっていた。
 しかし、指のまったく動かせない素足の足の裏を、羽根で撫でられる刺激はまったく初めての経験で、ものの一分で志帆は笑い出してしまった。
「うひひひひひひひひっ!? いぃぃ~~っひっひっひっひ、嫌ぁあぁっはっはっはっはは~~!!!」
 四本の羽根が、志帆の左足の裏を這い回る。
 がっちりと拘束されている足はぴくりとも動かすことができない。
「あぁぁ~~っはっはっはっは、おねがいぃぃぃひひひひひひひひひ、やめてぇぇ~~!!!」
 志帆は首を左右にぶんぶんと振って笑う。
「だーめ! 志帆ちゃんが秘密を知っちゃったのが悪いんだから。恨むんなら綾乃ちゃんを恨むことね」
 羽根の先が足の指の間に入り込んだり、さわさわとかかと、土踏まずをくすぐってくる。
「いやぁぁぁははははははは!!! くすぐったいぃぃぃっひっひっひっひっひ!!」
 数分間笑わされた志帆は、早くも体力の限界を感じ始めていた。
 志帆は涙を流しながら、ときおり咳き込みながら、笑い叫ぶ。
 すると、足の裏をくすぐっている一人の女性が、志帆の耳元へ顔を寄せた。
「志帆ちゃん、やめて欲しいでしょ? 誰に秘密を喋っちゃったのか、言ってくれたら、すぐにでもやめてあげるわよ?」
「うひゃっはっはっはっはっはっ!!? いやぁぁあぁあぁはははははは~~!」
 志帆は、正直迷った。
 笑いながら、必死に脳を働かせる。
(どうしよう……くすぐったくてたまらないっ! もう駄目! 限界! でも、言っちゃったら、桜子を裏切ることに……)
「志帆ちゃんどうするの? 言うの? 言わないの?」
「ひゃっはっはっはっ!!! いぅっ、言えないぃぃぃひひひひひひひひひひひ!!!」
 志帆は首を左右に振った。
 やっぱり、自分の身を案じてくれた桜子にまで迷惑をかけるのは、耐えられない。
「そう? なら、そろそろ本番いっちゃおうか~~?」
 そう言うと、二人の女性は同時に羽根を止めた。
「……え?」
 志帆は、「そろそろ本番」という二人のセリフに、自分の耳を疑った。
 
 五分後、志帆は半狂乱で笑い声を上げていた。
「あぎゃははははははははっ、うへへへへへへへへっ!!!! だひゃっひゃっひゃっひゃっひゃぁぁあ~~っ!?」
 指のまったく動かせない志帆の左足の上で、計二十本の指が走り回っている。
「志帆ちゃんのかわいいすべすべの素足! たまんないわねぇ」
 女性の一人が、志帆の土踏まずをほじくるようにくすぐる。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!! ひぎゃぁあぁ~~はははははははははっ!!!」
 志帆は髪の毛を振り乱して笑い狂う。
 開きっぱなしの口からダラダラと涎が流れ落ちる。
「足の指も、くすぐったくてたまらないのねぇ~~。さっきからぴくぴくぴくぴくって! 指の間、ちょっと汗かいてきちゃってるわよぉ?」
 もう一人の女性が、志帆の足の指間に、指をつっこみ、ふるわせる。
「あひゃひひひひひひひっ!!? ひぎぃぃっ、うへっへっへっへっへっへっへはぎゃぁあぁ!!!」
 志帆は、くすぐったさのあまり、何も考えることができなかった。
 遠くの方で、くすぐってくる女性の嘲笑が聞こえてくる。「誰に喋ったか言ったら、やめてあげるわよ~~」
 笑いすぎて何がなんだかわからない。
 とにかくくすぐったさから逃れたい。その一心。
 そしてついに、
「ぎゃっははっはっはっ、言いますっ!!!! 言うからぁぁぁははははははははっ!!! もうやべでぇぇえっへっへっへっへっへ~~」
 志帆は涙を流して叫んだ。
 そしてようやく、志帆は激しい足裏くすぐりから解放された。
「さて志帆ちゃん、お疲れのようだけど、まず誰に秘密を喋ったのか、教えてもらいましょうか?」
 二人の女性が、にっこりと笑って志帆を見つめる。
 志帆は、呼吸をゆっくりと整えた。
「と……、隣のクラスの、桜子、です」 
 言い終えると、志帆は大きく息を吐いた。
(……あぁ……これで、桜子も……)
 志帆は、後悔の念に打ちひしがれた。
「えっと、桜子ちゃん桜子ちゃん、と――、あ、あった。志帆ちゃん、この子で間違いないわね?」
 うつむいた志帆に、女性が話しかけてくる。
 顔を上げると、大きな冊子が開かれている。
 顔写真付きの名簿のようだ。
 開かれたページには確かに、桜子の名と、クラス、生年月日、出身校などが記載されており、顔写真が貼られてあった。
 入学時に撮られたらしい写真の中の桜子は、もともと生真面目な性格も相まって、緊張していたのか硬い表情をしている。
「ま、間違いないです……」
 志帆は正直に答えた。
 もう何を言っても無駄だという事は、理解していた。
「じゃあ志帆ちゃん。桜子ちゃんはどこが弱点か知ってる?」
「え?」
 女性の質問の意味がわからず、高い声を上げてしまう志帆。
「桜子ちゃんよ。からだのどこの部位が、くすぐりに弱いか、知ってる?」
「……し、知りません」
 志帆は、そんなこと考えたこともなかった。
 そもそも『くすぐり』という行為を意識したことがなかった。
 桜子がくすぐられて笑う姿も、まったく想像がつかなかった。
「ふーん。くすぐりあいっことか、やったこと、ないのぉ?」
「……ありません」
「じゃあ、どこが弱そうだと思う? 志帆ちゃんの独断と偏見で教えてよ~~?」
「え……」
 なぜそうまでして聞き出そうとするのか。志帆は困った。
 桜子の名前を言ってしまっただけでも、罪悪感に見舞われているというのに……。
「5秒以内言わないと、その足の裏、またくすぐっちゃうぞ~~? 5、4、3、……」
「わわわっ!? 言いますっ、言います!! お、おなか……とか?」
 女性達がわきわきと指を動かす様子を見て、志帆は恐怖に耐えられなかった。
 くすぐる部位などまったくわからない志帆がとっさに思いついたのが「おなか」だった。
「そっかぁ~~、おなかかぁ~~、うんうん! 弱そう弱そう!」
「なんかおなか以外にも全身弱そうだけどね、こういう表情硬い子って」
 女性二人は楽しそうにはしゃいだ。
「おなかってことはアレが必要よねぇ?」
「じゃ、あたし準備してくる。準備できたら連れて来ようね~~」
 二人のやり取りを眺めながら、志帆は桜子に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


(つづく)


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(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 以前、夢に見た勢いでもって、寝起き一発で書いたものです。今回は容姿について作者からの説明は省略。お好みの容姿を妄想して楽しんでくださいませ。
 ミニメロン様のサイト“くすぐり失禁キャットハウス”で掲載されている『廃校くすぐり拷問』(ロンロン様、2004)と『くすぐり倶楽部物語』(ジョーカー様、2005)の影響が丸見えですね。寝る前に読んだからに違いありません。この2作品、もう何度お世話になったことか。もし紙媒体だったら、繰り返しめくり続けたためにページが茶色く変色していることでしょう。なんやかんや、月に2回は必ず読み返している気がします。11月3日でミニメロン様のサイトは17周年ということで、ファンとして喜ばしい限りです。