志帆が目を覚ました。
 一瞬自分がどこにいるのか、わからなかった。
 窓一つ無い、薄暗いだだっ広い部屋。
 ハッと思い出す。
 足元を見ると、木の足枷は取り払われ、素足だった。
(そうか……私、くすぐられて……)
 志帆は両足の足の指を拘束された上で足の裏をくすぐられ、たまらず気絶してしまったのだ。
 まだむずむずする。志帆は自身の足の指をぎゅっと縮こまらせた。
「あっ、桜子……っ!」
 唐突に友人のことを思い出した志帆は思わず声に出す。
 自分が解放されたということは、桜子が……。
 志帆は何も無い部屋を見渡した。
 本当に何も無い。
 制服に素足の志帆は、ぺたぺたと部屋中を歩き回った。
 壁に張り紙を見つけた。
『目が覚めたら、この裏のボタンを押してね』
 張り紙をめくると、壁に赤いボタンがくっついていた。
 嫌な予感がする。が、押さずにはいられない。志帆はボタンを押した。
 ポチ、と安い音がすると、突如、目の前の壁が左右に開き、巨大なスクリーンが現れた。
 と、同時に甲高い笑い声が聞こえ始めた。
 ボタンを押したことでスピーカーも作動したようだ。
 志帆の目の前に映し出された映像の中では、おなかを天井に向けてえびぞりに拘束された女の子が、五人の女性に上半身と太腿をはげしくくすぐられていた。
「うひゃぁあぁ~~っひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!? ひぃぃぃひひひひひひひひひひひひぅひぃぃ~~っ!!!」
 くすぐられている女の子は、紛れも無く桜子だった。
 学校指定の体操服。シャツの裾はべろんとめくりあげられており、おへそから水色のブラジャーパッドまで晒されてる。
 二人がおなかを指や筆、羽でくすぐり、二人がアバラ骨や、乳房の周囲を指でくすぐっている。
「あひやぁあぁぁっひゃっひゃっひゃっひゃ!!! いひゃあぁあぁはははははははははっ、がはっ、ひ~~っひっひっひっひっひっひ!!」
 おへそは、周囲を羽先でさわさわくすぐられたり、いきなり真ん中に筆をつっこまれたりしている。
「はわははははははっ!!! ひっ、あひゃっ!!? おひょひょひょひょひょ~~っ!!!?」
 桜子は両足とも素足だった。膝を曲げ、ぴんと引っ張り伸ばされた両太腿を一人の女性がこそこそと指先でくすぐっている。
「あぁぁっはっはっはっはっはっ!! ひぎぃっひっひ、ふわっはっはっは~~!!?」
「……さ、桜子……っ」
 志帆は画面の中で激しく髪の毛を振り乱し涙を流して笑い狂う友人の姿を見て、うめくように声を上げた。
 どのくらいの時間くすぐられ続けたのかわからない。
 桜子の表情はもはや限界といった様相で、口周りは涎でべとべと、鼻水を激しく噴出し、目からはとめどなく涙があふれ出ている。
「はひゃ……っ、ひぎゃはははははっ!!! ひひひっ……ふぎっ、あひゃひゃ」
 桜子の笑い声がだんだん弱々しくなっていく。
(私が、喋っちゃったせいで……)
 志帆は、桜子に心から申し訳なく思った。
(…………)
 と同時に、解放されてホッとしている自分がいることに気付き、志帆は自己嫌悪にさいなまれた。
 桜子の解放のために、自己犠牲を申し出る勇気はない。
 もうくすぐられるのは嫌だ。
 志帆は、自身の情けなさに唇をかみ締め、ぐっと涙をこらえた。
「だひゃひゃひゃひゃっ!!!? もうひゃだっ、もうひゃだぁぁあはははははははあはは~~あぁあぁああぁぁぁああっ!!!!」
 画面の中の桜子がひとしきり大きな悲鳴を上げ、がっくりと気を失う。
 ハーフパンツの裾からちょろちょろと液体が流れ、床に落ちた。
 桜子は失禁してしまったようだ。
 志帆が放心して画面を眺めていると、画面の女性がひとり、ふと志帆の方を向いた。

「さあ、次はまた、志帆ちゃんの番よ」

 志帆は、その言葉を理解するのに数秒を要した。
「え……っ?」
 志帆が声を上げたときには、すでに天井の四隅からガスが出始めていた。
 すっかり解放されたと思っていた。
 甘かった。
 最初から、誰も信じてはいけなかったのだ。
 志帆は気付いた。自分はただ、友人を売っただけだ。
 絶望に打ちひしがれる。
 部屋にガスが満ちてくる。
 パニックに陥って、志帆は叫んだ。助かりたい一心で。
 しかし、何も無い部屋では、何をもなす術がなかった。


(完)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ここから作者コメント)

 こんばんは。ertです。
 前回のつづきです。
 「関係の無い子が次から次へと巻き込まれる」系くすぐり小説の今後の発展を祈って。