泉は、すみれとスポーツバッグが入れ替わったことを僥倖だと思った。
 なにせ、開けてびっくり、一番上に『後背卓也様』と書かれた、明らかに怪しい薄水色の封筒が入っていたのだ。
「なにそれ?」
 泉が「ジャーン」と取り出した封筒に、黒髪ロングヘアの女子生徒はたいした反応を見せなかった。
 西原まゆ(にしはら まゆ)。小柄で大きな目が印象的な、泉の中学時代からの友人である。
 昼休み。
 二人はいつも通り中庭のベンチに並んで座り、昼食の用意をしていた。
 二人とも学校指定の半袖のセーラー服姿。泉はスカートがやや短いが、まゆは校則通りの膝上一センチ以内。二人とも白のハイソックス、泉はスニーカー、まゆは焦げ茶色のローファーを履いている。
「もぉ~まゆぅ! テンションあげなよ! ラブレターだよ、ら、ぶ、れ、た、あ!」
「泉。誰かに告白するの?」
 まゆはいたって冷静に言う。
「違うよぉ。部活の先輩の! 朝練でバッグ入れ替わっちゃって。で、なんと、中から先輩のラブレターを見つけてしまったのでしたぁ!」
 声を張って言う泉に、まゆは少し怪訝な表情をした。
「……もしかして、確信犯?」
「まさか! 偶然だよ偶然!」
 言いながら、泉は封筒を開け始めた。
 まゆは驚いたように目を見開いた。
「え、何やってるの?」
「ん? 封筒開けてる」
「それはわかるけど、……他人の手紙、勝手に見る気?」
「先輩にはジュース一本で許可取ってあるから、問題ない!」
 泉は言って、便せんを取り出した。
 チラリと文面を確認して、間違いなくラブレターだった。
 泉は鼻息を荒くした。
 隣のまゆが深々とため息をつき、立ち上がった。そのまま歩き始めてしまう。
「え? まゆ。どうしたの? 一緒に読もうよ!」
 泉は驚いて叫んだ。
 まゆは足を止め、
「飲み物買ってくる。泉は勝手に読んでて。私はそういうの、あんまり好きじゃないから」
 冷たく言って再び歩き始めた。
 泉は頬を膨らませて、
「チェっ、いいもんいいもん! 私一人で楽しんじゃうもんねぇ~! まゆ、後で見たくなっても見せてあげないから!」
 まゆの背中は、すぐに見えなくなった。
「ふーんだ」
 泉は、購買で買ったばかりの総菜パンにかぶりつきながら、便せんに目を落とした。


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 こんばんは。ertです。
 晒そう企画の『ストーカー』を原作に、ホラー要素を含めてリメイクしました。
 白いソックスが好きです。